163.ラストダンジョン(9)
再び通路の突き当りに行くと、既に二つのドッペルゲンガーの影は見当たらなかった。
移動済か、と内心ホッとしつつ意味も無く左の道へと入っていく。
それにしても偽クーコ、偽ギード戦とか二回目なんだよなぁ。
クーコの氷結ダンジョンでは、クーコがチートレベルで氷や温度を直接操り相当苦労させられた記憶がある。
ギードに関しては、時間を止めてしまうか本気で悩むほどに強敵だった。
低速化しても、ギードは俺の動きにあわせて反撃してくるんだもの、今だって動きが鈍化してようが偽ギードの攻撃に反応するだろう。
「ねぇ」
警戒しつつ歩いていると、後ろからクーコが声をかけてくる。
「私達、ちょっと大きくなってない?」
あれ、1時間は抵抗するようにしたつもりだったんだけども。
そう思いながら振り返ると、クーコの姿に思わず吹き出しそうになってしまった。
「ジロジロ見ないで」
「ご、ごめん!」
な、何てことだ。
胸の膨らみなんてほとんどわからないハズのクーコの胸元がバイン、と膨れ上がっていた。
いや、落ち着け。あのラインはまだ余裕で手におさまる!
「違う俺!」
「ん?」
少しトーンの低い疑問の声が聞こえるが、そうじゃない。
慌ててステータスを確認すると、状態異常の説明が変動していた。
『なお、世界時間1分が経過すると、240リミットの効果へと変化する』
ちっくしょう! 時間対策されていた!?
1秒毎に倍化に効果が変わっている……つまり、今の俺達は本当に一分に一度、巨大化の効果を受けてしまう事になる。
しかしこれ以上時間の流れを遅くするのは危険だし、セーフエリアは『俺達用』では無い。
「走るぞ!」
俺の焦りをくみ取ってくれたのか、今度は二人とも遅れることなく走り出す。
たゆんたゆん、と幻聴が聞こえるが気にしてはいけない。
『そこまで大きくはない! 手のひらサイズがそんなバウンドするはずがないっ!』
邪念を振り払うように、走り続ける。
ギードは純粋に身長が伸びていて、手足のジャージから素肌が覗いていたが、うん。
あれは男なので気にしない。
「うおっ!」
次の曲がり角に飛び出した瞬間、槍で横腹を一突きされそうになる。
タイミングをあわせて偽ギードが俺を一殺しようとしてきたのだ、腰を捻って回避したところに突きから薙ぎ払いに切り替わった攻撃が俺の体を抉ろうとする。
「させないっ」
俺と槍の間に薄い氷の壁が生成されると、薙ぎ払われた槍が氷の壁に埋もれた。
そのタイミングにあわせてギードが動き出す。
「死ねぇ私ィィィ!」
おい、何故オリジナルのお前が素手で殴りかかっているんだよ! 斬れよそこは!
ガンッ! と鈍い音が響きすぐにパリンッ、と砕ける音がダンジョン内に響き渡る。
視線を横にずらすと、偽クーコが張ったオリジナルと同じような氷の壁で偽ギードの隙をカバーしていた。
「いっつぅ、殺りそこねたっ」
そういいつつ、ちゃっかり砕けていく氷の壁ごと偽ギードに足蹴りを一発入れていた。
こちらの氷の壁に埋もれた槍から手を放し、ちゃっかりガードされていたようだが。
「あいつらの共闘ヤバいな」
「「私褒められた?」」
「褒めてねぇ! そして嬉しそうにハモるな!」
クーコは後衛からしっかり祈願の力でサポートが出来ているし、ギードも鈍化を全く感じさせない動きで応対出来ている。
俺も光大剣を取りだして構えて見せる。
「「ギギギギギ」」
歯をギリギリとさせながら偽物の二人が笑みを浮かべていた。