151.スナイパーズ(3)
私達はジーパンに白シャツだけの姿から、余所行きの格好に着替えると怪しい者じゃないですよーと、堂々と町の中へと入り込んだ。
白シャツ姿の儚夢さんも可愛かったけど、勝負スタイルもカッコ可愛いくて好きだ。
イエスロリータテイストな服装の儚夢さんは、ジャンパースカート部分にわざわざパニエを仕込んでいる。
ふわりと足回りを飾っていて、とても可愛らしい。
更にティアラをつけたその姿はまさにイエスロリータと叫ばんばかりのグッドな姿だった。
淡いピンクと白色で彩られたパニエの中から、何度かスナイパーライフルの取りだしを確認する姿は思わず見とれてしまう。
中が見えそうで見えないってのは、とてもとても良いのです。
「LiLyはその装備で良いの?」
「えっ、あっ、うん!」
そんな私はオヘソが出る腰回りまでの白タンクトップに、ミニパンツという質素だが破壊力抜群な誘ってんのよスタイルである。
肩ひもでスナイパーライフルを背負っているため、胸元がくっきりと浮き出ている。
うん、イイ感じ。
「本当? まぁ、OP優先だしLiLyの選択を信じるよ」
「うん。さぁいこ?」
町の中に足を踏み入れるも、特に感知されることもなく、また干渉されることもなくどんどんと中へ中へと進んでいけた。
「一戸建てばかりだね」
「そうね。ここ、入ってみる?」
儚夢さんが指さす建物は、打ち抜いた看板が未だぶら下がっている一軒の建物である。
「えっと、BARって文字があるって事はお酒屋さん?」
「どちらかというと居酒屋さん、かな。LiLyは確かお酒飲めるようになったんだよね」
おお、覚えていてくれましたか。
実は私、先日二十歳を迎えたばかりでして。
お酒はまだ未デビューなので……。
「うん、年齢的にはね? でもまだ飲んだこと無いし、ちょっと怖いかな」
「はは、LiLyにも怖いものがあるなんて知らなかった」
もぅ、儚夢さんは私を何だと思っているのかしら。
「まぁBARで情報収集ってのは基本ですよね! 入ってみましょう」
手を引っ張って木の扉を開け中へと入る。
「おじゃましまぁす」
「……LiLy、店に入る時はそんな台詞はいらないと思うよ」
思わず中に入ってキョロキョロしてしまう私達。
それもそうでしょう? だって中には人っ子一人いなくて、この町の中には既に誰も居ないのではないだろうか、と思わんばかりに人気が感じ取れなかったのだから。
「いらっしゃい」
「「わっつっ」」
二人して変な声を上げてしまった。
気配を一切感じ取れないまま、突然湧いて出たように正面に一人の女性が姿を現したのだ。
歩いてきた、ようには感じなかった。
「驚かしちゃったかしら? ごめんね、少し試しちゃった」
試したって、何を?
オーソドックスな黒メインのメイド服を身にまとい、私達よりも一回り小さい女性はスカートの裾をつまみ挨拶をしてくれた。
「いらっしゃい、旅人さんたち。うちの看板を傷物にしてくれたの、貴方達でしょう? あっ、別に怒って無いわよ? むしろ喜ばしいというか。あっ! そうだわ、メニューをお持ち致しますね。あちらの席にどうぞ」
突然存在感を現しだすその女性に促されるままに席に着くと、私たちは視線だけでウィスパー会話に切り替える。
『ねぇ、儚夢さんはアレ見えた?』
『ううん。まるでヘルダンジョンのボス戦かと思うくらいに気配が感じ取れなかった』
『だよね? どうしよう、一度撤退する?』
『……いや、私達の事を少なからず知っているようだし、ここは情報収集を続けましょう』
「お待たせしました、水素水はサービスです」
メニューを渡されると、ご丁寧に日本語で書かれたメニュー一覧に、水素水というネタまで用意されたとなると、この人はプレイヤーか何かかな? でも奇跡艦隊にはこんな人はいなかった。
そういえば、飲食などが必須じゃない体になっていたが、しばらく水分補給をしていなかった為か、出された水素水を体が欲していた。
まっ、毒が入っていようがすぐ解毒すればいいか。
解毒用のアイテムをスグに取り出せるように準備すると、私たちは一気に水素水をあおった。
「「こくっ、こくっ、こくっ、ぷはぁ!」」
ウマシ。
いや、水分補給はマジ必要だね。
「あらあら、何の警戒も無く……トイレは弐基あるから、ご自由にどうぞ」
ん、なぜこの人はトイレの心配を? ふふん、私たちのこの体は何と排泄物が出な……。ふぁ!?
「うっ、ちょっと私トイレ」
「……私も」
体が急げとウッタエカケテクル。主にお腹とおしりが急げと緊急信号を送ってくる。
『リリィ、状態異常を確認。状態、水分、ならびに酸素過多』
ハウルが警告を発する。
スキルの処理にほとんどの処理能力を回している為、私のハウルは滅多な事では応答してくれないのに。この状態異常はもしかして、ヤバい?
解毒剤をピンアウトして取り出すと同時に口の中に放り込むも、効果は無し。
儚夢さんにほんの少し遅れる事、私もトイレへとたどり着く。
体を庇うように移動した為か、トイレの個室を開けるのはほぼ同時だった。
「「ふぇ」」
そして二人して変な声を上げてしまう。
扉は弐つ、そして中にはそれぞれ便座がある。
そう、それぞれが見える、壁の仕切りが無い弐つの便座が並んでいた。それも向き合うように。
「お、ぉぉぉ」
思わず唸る。
これは乙女の尊厳にかかわるのではなかろうか? いや、それどころではない。
お腹、痛いもん。
私は構わずミニパンツを脱ぎ捨てると、すっと着席して唸り声をあげていた。
「う、うぅ。うぅぅぅぅ、私も失礼する」
儚夢さんも我慢出来なかったのだろう、服をその場に脱ぎ散らすと向き合う形であるべき場所に体を納めていた。
「はうっ、ああ、うおあああああ」
「あふぅ、ううぁあああああああ」
ぱふっ、ぽふっ、ポポポポポッ、ぷふぁ、ぷふぅ……シャァァァ。
「お、お嫁にいけない」
顔を両手で隠しながらそんな声を上げる儚夢さんをこっそりガン見しながら、私も腹痛を解消させるべく体中を満たした酸素と水素をただひたすらに吐き出し続けた。
「アハハハッ、まさか水素水をあんな勢いで飲むなんて。はいこれ、お詫びのパンにコーンスープのセット。それに麦ジュースね」
むぅ、この人は悪意があって毒を持ったのだろうか? 五分もしたらすっかりと元通りになった私たちは元の席に戻ると睨みつけるようにメイド姿の女を観察した。
「そんな怖い目で見ないで、ちゃんと体調整えたら構ってもらいたいしねぇ。あぁ、そういえば紹介がまだだったわね」
両手に大剣を取りだすと、それを目の前で交差させ深い礼をした。
「私の名前はアンジェリカ。ここ、バトルジャンキーが集う集落でBARを営んでいる一般市民ですよ」
私達はバッと後ろへ飛びのくと、先手必勝とばかりに儚夢さんがスナイパーライフルでアンジェリカと名乗る女性の頭部を狙い撃つ。
「あらあら、良いわねぇ。でも残念、遠距離対策は必須なのよ」
完全にヘッドショットコース、避ける間もない完璧なクイックショットだったのに弾は直前で横にそれていき、壁に大穴を穿っていた。
「良い威力だけど、私は近接戦が好きだからね?」
『儚夢さん、ここは私がやる。周囲に変なの来ないようにそっちをお願い』
『わかった。あの敵、強いからLiLyも注意して』
『ふふ、私が近接で負けるとでも?』
『……いらない心配だったかな。後で落ち合いましょう』
ダッ、と飛ぶように跳躍した儚夢さんは店から出ると私の能力でも簡単には見つけれないようなポジションニングを決めたようで、完全に町のどこかへ溶け込んでしまった。
「あら、あなたのほうが私の相手をしてくれるのね? 私、嬉しいわ」
遠距離対策OP持ちという事は、他にも色々仕込んでいるだろう敵に対峙した私は、背負っていたスナイパーライフルを手にニヤリと笑みを浮かべた。
『バトルジャンキー上等、私達最強火力コンビに敵対するなら、その絶対的火力を思い知らしてあげるわ!』