150.スナイパーズ(2)
そして予定通り、三日ちゃっかり72時間歩き続けてやっと町の周辺まで辿り着いた。
道中、儚夢さんの天然サポートにより何度私は倒れかけたか(興奮しすぎて)。
儚夢さんは社会人だからやっぱ自分とは違ってしっかりしてるな、などと思いふけっていると声をかけられる。
「あの町、どこから入って良いのかしらね」
どういう意味だろうか? あれかな、町の入り口はどこ? という話だろうか。
確かに城壁があるような町では無いし、どこからでも入り放題な感じである。
つまるところ、建物の集合域を勝手に町と呼んでいるだけで実際に一つの集団地域かは私たちは知らない訳で。
「それって、勝手に自分の場所に入ったら危ないって事?」
「ええ。ダンジョンにはモンスターが居るし、外にも出てくる事があるようだし」
道中で何度か、明らかに動物とは違った狂暴性の塊が襲い掛かってくることがあった。
まぁ弾の節約で私が近接戦で捌いたけども。
「魔法のような、スキルのような常人には扱えないような事象も普通に飛び交うこの世界で、あの町の形態は違和感があるというか」
続けて話をする儚夢さんの言葉に、なるほどと思う。
確かに他の皆の城下町とか、城壁があるところが多かった。
空飛ぶモンスターを外で確認したことは今のところないけど、TODONATIONの桜井さんのところは対空ミサイルとか、固定砲台が並ぶ迎撃台がいくつか並んでいた記憶がある。
では目の前の町の入り口以外から近づけばどうなるのだろうか? 下手すると即死するような何かがあるのかもしれない。
道が残っていれば良かったが、巨大化を続けた大地は荒れ果てており、まっとうな道はどこにも見当たらなかった。
「そうだ、試しに私たちが通るコース上を打ち抜いてみるとか。ほら、石を逆側に投げて気をそらすアレみたいに!」
私、ナイスアイディア。
「良いかもしれないね。スナイパーの固定が難しいから肩貸して」
「はいきたっ」
マイティに用意してもらった専用スナイパーがあって本当に良かった。
近距離ならば弾数を気にしないで良い空砲で良かったのだけど、私たちのは改造した遠距離用、実弾をしっかりスナイパーライフル仕様で放てるように作り上げたものだ。
おかげで弾も専用の物を作ったし、自分たちだけではとても用意できる物でも無かった。
つまるところ、残弾は非常に大切な訳で。
ちなみに私も儚夢さんも手動装填方式のタイプを一丁ずつ、お互いにまだ弾を消費していないためお互い10発装填されている状態だ。
知識が無ければ用意する事も出来ないこの世界で、必死に実物のスナイパーライフルについて学び、導入したため弾の予備の用意も無いし、自動装填方式やスコープの用意は出来なかった。
まっ、スコープに関しては私の魔力が尽きない限り問題がないけども。
「いやっ、儚夢さんスコープ無いし私がやろっか?」
「魔力も大切にして。回復が追いついてないでしょう? 良い、これくらいの距離ならスコープ無しで余裕」
まっさかー? 軽く見積もってもまだ5キロは先にあるよ、あの町?
そんな私の思考を遮るように肩にズンッとスナイパーをセットする儚夢さんは銃口をえらく高めにセットしていた。
「あの、もう少し近づいてからでも?」
「問題無い。ちょっと肩が痛いと思うけど我慢してね」
反動に伴う痛みはこの際我慢するとして、自信満々に言って見せると、射角が決まったのかピタリと静止したのがわかった。私も同様に狙いがズレないよう静止する。
「イクッ」
思わず体をブルわしそうになる。
その中世的な声でその台詞はダメだあぁぁぁぁっぁああ。
ダンッ、と放たれた弾道はやや高めに跳躍すると、町の中にある建物の看板にカンッ、とヒットしてソレに穴を穿っていた。
うん、凄いよ。凄いけどその前に。
「っいっつぅ……肩固定、次から無しの方向で」
体力に影響はなかったものの、肩が吹き飛んだかのような痛みを伴い儚夢さんの台詞にドキドキする事が出来なかった。
何と勿体ない。
とりあえず私たちがこのまま進んでも、迎撃も何も無かった訳だから何も問題は無いという判断が出来た。
「ごめんねLiLy。大丈夫? そうね、行きましょう」
「う、うん」
ちなみにこの場合の大丈夫? はたぶん町へ行くルートは大丈夫だよね? って意味で私への気遣いは最初のごめんねに全て集約されている。
ふふ、付き合いが長いから儚夢さんの言葉の解釈は完璧なのだよ。