149.スナイパーズ(1)
とろろ昆布こと姫川乙女が『敵』と遭遇していた頃。
その様子を遥か彼方から覗き見ている人物が居た。
私の事だけど。
「てか、あの宇宙船の人たちヤバクない? 早く何とかしないと」
思わず呟きが漏れてしまう。
乙女が襲われているってのに、あの宇宙船の住民(主に男性達)はウォォ! と握りこぶしを作って歓喜の声をあげていたのだ。
いやまぁ、乙女のコスプレパンチラとかテンションあがるのは私も同意するけど、それでもね?
「LiLyも涎垂らしながらガン見するんじゃないよ」
ボーイッシュな声で私の口元を指摘してくるのは主武器がスナイパー仲間の儚夢さんだ。
HotGirlsの最大火力を誇る私達は今、観測宇宙船・宇宙の眼を失い240リミットの脅威の本体である大地を歩行していた。
「あそこまで行こうにも、視る事しかできないんだもん!」
「まずは私達の事から気にしない?」
ごもっともです。
成す術無くこの大地に呑み込まれた私達は、脱出ポッドに乗り込み脱出。
ズボッと大地に埋まるように不時着して一命を取り留めていた。
観測宇宙船というだけあり、この状況を予想していたようで。
ダンジョン攻略者である私達が何とか生き残れるよう、脱出ポッドを用意してくれたのだ。
他の皆は、残念ながらこのお粗末な脱出ポッドに体が耐えれるわけも無くそのまま自分の故郷と共に大地へ飲まれていった。
「そう、ね。あからさまなPKも居るみたいだし、デスポーンしちゃったら二度と会えないレベルで離れちゃうかもだし、気を付けよう!」
私が使える宇宙眼見は簡単に言えば千里眼のような力である。
アレの果てしなく凄い版。
それを使用して周囲をみると、かろうじて密着不可分を捉える事が出来て、更に集中してガン見してたら乙女の姿を捉える事が出来た。
お城の中ではパンツ丸出しにしたりと、やだアレ恥ずかしい。
「また涎が出てる、ほら」
ほらって良いながら私の顎をクイッと持ち上げるとドロップ品のハンカチで私の口元をふきふきしてくれる。
「よし、綺麗になった」
「うっ、ありがとう」
儚夢さんは何の気兼ねも無くこんな行動しちゃ子なので、私は少し胸がドキワクしてしまうね。
「それと、その力は透視も出来ているんだろう? あまりプライバシーは覗いちゃダメだからね」
「あぅ」
何故バレたし。
いや、スナイパーの勘を持つ儚夢さんは視線一つで全てを悟れるのかもしれない。
「それにしても、移動が不便。戦闘機のスクロール、貰っとけば良かったかな」
「あれ、私は無理だから持ってても乗りたくない」
あれは乗り物とは呼べないね。
一瞬で意識が吹き飛んでデスポーンしちゃう黒歴史を作った私は、カッコ悪すぎて二度と乗りたいと思えないもん。
「そう? 車の運転みたいなもんでしょう?」
「相変わらず何でも器用にこなしますねぇ」
乗り物系の扱いも特異な儚夢さんは戦闘機も一発で乗りこなして見せた。
移動、ポイント取り、スナイプと一連の行動ルーティンが完璧なレベルで、いわゆるスナイプの申し子だ。
私みたいな至近距離でスナイパー撃ちまくる異端児とは真逆の存在だ。
「何ならあの敵を討っとく?」
「いやいやいや」
流石に訳が分からない程の距離がある相手を討つとか、無理っしょ?
そんな私の思考を読んだのか、やってみせようかとジェスチャーしてみせる儚夢さん。
「無理だと言ってよ!」
「ごめん、流石に外れる」
色々と間違った返答が来た気がするけど、ここはそっとしとこう。
「わざわざPKに絡みに行く必要は無いよ、ほら、それよりも行こ」
「……うん」
乙女の居る地点を背に向けると、私たちは再び歩き出す。
未知の地域だが、この大地にも人が暮らしているようで。
「いざ、謎の町へ!」
こんな世界で生きている原住民の人たちの居る町へ私たちは向かった。
ちなみに、徒歩3日で着くくらいの距離だ。