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147.とろろ昆布クエスト(6)

 情報通り、半日もしないうちに目標予想ポイントにその人物は徒歩で大地を彷徨っていた。


 ある程度近づいたまでは良かったが、いざその人物と会話をしようとすると大地に降りる必要がある訳で。


『どうやったら降りれると思う?』

『姫、マイルームにある滑り台から直接降りれるはずだよ』


 あの入口、固定じゃなかったんだ……。

 この宇宙船の真下に延々と続く大地へ、ヘルダンジョンへの入り口が使用できる、と。


『ん、わかった。試してみる』


 ふわり、と体が溶けたように感じた次の瞬間には頭上には停止した宇宙船の先頭があり、視線の先にはローブを身に纏った人物がギュッと顔を隠すようにフード部分を手で押さえていた。


『知らない、人? 私達、奇跡艦隊のメンバーじゃない感じ。一般のプレイヤー? わからない、とにかく話しかけよう』

『姫、わざわざ僕に言わなくて良いから早く会話しなよ』

『い、良いでしょう!? 予行練習は必要よ!』


「あの……貴女は一体?」

「ふぇ、あ、えっと」


 先手を取られ、あたふたしてしまう私。

 落ち着け、尋ねればすぐにわかることだ。


「あの、あなたはローグライフのプレイヤーです、か?」

「……一体何の事でしょう?」

「ありゃ、違ったか……」

「それよりも、もしよろしければ水と食料をわけてもらえませんか?」


 少し離れた距離から、お互いボソボソと小声で話しているにも関わらず会話が成立している奇跡に感謝を。


「えっと、水は今持ってませんが食料なら少々」


 インベントリをチェックすると、ドロップ品のチョコレートが3個程残っていた。

 いわゆる、おやつ用に持参していた訳だけどまさかこんな形で役立つとは。


「いただけ、るのですか?」

「えっと、はい。余ってますので」


 私はその女性(声質からそう判断した)に近づくと、ホワイトチョコレートを手渡す。

 ローブの中から出てきた素肌を晒していた手に、少し違和感を覚える。


『何も着てない、って事はないよね』

『姫、ノースリーブ系の服なら腕部分に生地がなくて当然かと』


 そう、だよね。

 でも、今確かにカチャリ、と金属音が聞こえたような気がしたんだけど。


 そんな私とハウルの内部通信かいわが続く中、パクリとチョコレートを頬張ったその人物はビクン、と体を震わした。


「ふぁあ、美味しい。美味しい、美味しいよコレ」


 パク、パクからバリッ、ボリッに変わり、板チョコは噛み砕く勢いで食べつくしてしまった。

 やがて、ペロリと指を舐めチュパッ、と音を立てると再び手を前に出してきた。


「おかわり」

「……はい」


 威圧的な感じで催促さいそくされるがまま、チョコレートを手渡そうとした時。


『カチャリ』


 再び金属音が聞こえた。

 他人頼りな私にも直感くらいはある訳で、それこそプロゲーマーの端くれだからこそ。


「ひっ」


 小さな悲鳴と共に、差し出そうとした腕を引っ込めると手を出そうとした場所に一筋の軌跡が走っていた。


「へぇ、良い勘してんじゃない。ヒヒヒ、雑魚なりに私を楽しましてくれるってかぁ!? あひゃひゃひゃひゃひゃ」


 喋りながらも、脱ぎ捨てたローブを目隠しに突進してくる謎の人物をバックステップで充分な距離をとり回避してみせた。


「な、何ですか急に!?」

「それはこっちの台詞よ? カモが宇宙船しょってやってきたなら、奪いとるのが礼儀ってもんでしょう? ソレを土産にアイツに復讐してやる!」


 紫色のプロテクターを身に着けた女は、まるで痴女のごとくそれ以外を身に着けていなかった。

 が、私達と同じように何もない空間からアイテムを取りだすと巨大な剣と盾を装備して私と対峙した。


「やっぱり、あなたはローグライフのプレイヤーじゃないんですか!?」

「ハァ? うっさいわねぇ。あんただただのカモ、狩られるだけの雑魚にすぎないんだよぉぉぉぉ」


 シールドバッシュを繰り出してくるも、一度距離をとった私にとっては対処は造作も無かった。


『姫は中距離じゃ無敵だからね、やーいやーい』

『ハウル、私にだけ聞こえるような挑発は邪魔っ!』

『はーい』


 シールドバッシュは強力な攻撃手段だが、視野が極端に狭くなる。

 故に今の私のように大きく跳躍すると大抵相手の姿を見失う訳で。


「えりゃぁ!」


 ムーンサルトに似た空中で体勢を半回転ひねると、遠心力と落下の力でシールドを大地に叩きつけるように蹴ってやる。ついでに反動による跳躍で充分な距離を再び確保する。


「ちぃ、お前もアイツと同じ狂人カァ!? お前みたいなやつは大嫌いなんだよぉ!」

「早っ」


 大地に埋まった盾を手放すと、単身で大剣を槍のように構え突進してきた。

 が、シールドバッシュと同じような行動パターンに内心呆れつつも、そのスピードには感心した。


 キンッ、と私も取りだした装備、大剣クレイモアを構えると、打ち上げるように相手の大剣を弾き飛ばす。

 だが。


「ニィ、かかった!」


 弾き飛ばしたハズの手ごたえは、思いのほか浅く。

 相手が元々大剣を手放す算段で突進していたことに気が付いた時には、私の鼻孔びこうに甘い香りが届いていた。


「あ、ぅ……」

『姫、状態異常確認! 麻痺毒だ、治療を早く!』

「ヒー、ハー! マヌケ、マヌケヨォォ! あぁ、一体どんなドロップを私に恵んでくれるのかしらねぇ? レアキャラはきっとお宝ドロップ間違いなしよぉ。死ね!」


 痺れる体は動くことを許さず、私は絶体絶命の瞬間を迎えた。


『やだ、死にたくない、死にたくないよっ!』


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