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146.とろろ昆布クエスト(5)

 とりあえず何処かにカードキーを入れるソケットが無いか探し、見つからずカードキーを握り締めた状態でドアノブを握ってみる。


 が、当然開錠されていることも無く。


「うっ、これどうしたら良いのよ」

『姫、ここは僕が突っ込むべき場面なのかな?』

『な、何よ!?』

『いや、カードキーを何故使って扉を開けないのか僕には理解出来なくて……もしかして突っ込み待ちだったのかな? なんて? なんでやねん?』

『うぅ、そんな疑問形で色々言わないで。つ、使い方がわかん、ないのよっ』

『……ドアノブに黒い場所があるだろう? そこに触れるだけだ』


 心なしか、初期のハウルのような喋り方で説明を受け、私はカードキーを握り締めたまま右手でそっと黒い部分に触れた。


『なんでやねん! はっ、これが突っ込み、これが突っ込みなんだね? 僕、今学習したよ!』

『あの、あかないんですけど』

『姫、そのカードキーをそこに触れさせたら良いんだよ。覚えといてね』


 言われるがまま、カードキーを黒い部分にあてるとピッ、と電子音と共に鍵が開錠された音がした。


「わぉ、近未来」

『……』


 いや、そこは突っ込んでよ。


「おじゃましまぁす……」


 そっと扉を開け中に入ると、そこそこの広さがある空間が広がっている。

 あぁ、私たちが泊まるような安いビジネスホテルより幾分も広い空間に少し緊張してしまう。

 きょろきょろ周囲を見渡すと、更に扉がいくつかある。


「あれがトイレだとして、じゃあアレは浴室? ユニットバスじゃなくてわかれてるの? でもだとしたらあの扉は? あふぅ」


 この部屋にはベッドも何も見当たらないあたり、まさか別にベッドルームがあるのかしら。

 これ、相当いい部屋なんじゃない? 最上階で、一番奥の部屋で。


「っておい! いつまで一人漫才しとるんや」

「ひっ」


 思わず身構えてしまうも、正面の扉から一人の男性が出てきた。


「ほら、こっちはよ。立ち話もなんだろう?」

「……はい」


 馴れ馴れしい喋り方に、少しぎくしゃくしてしまう。

 いや、それよりも私と同じくらい大きな男性ひとがホテルパニッシャーの息子さん? あれぇ?


『姫、息子さんといっても大人のようだ。襲われないよう十分なリーチをとってね』

『あれ、どうみても40代か50代だよねぇ』


 息子って聞くと、十代前後の少年とか、あわよくば同い年あたりを連想するじゃない?

 なのにいざ会うとオッサンだなんて、それもホテルの部屋で二人っきりって。


『私は年下が良いのにっ!』

『姫、息子さんのイライラオーラを察知した。早く向かうべきだよ』

『うぅ、わかったよぉ』


 扉の奥には想像を絶する広さのベッドルーム、というか客室が広がっていた。

 察するに、先ほどまで居た場所は玄関という扱いだったのだろう。


「やっと来たか。とろろ昆布様は可愛いが、とろくさいのが玉に瑕だな」

「うっ、すみません」

「まぁ良い。地表に居た人物の話、聞きに来たんやろ?」

「はい……」


 何故知っているのか聞きたいと思っていたら、息子さんが勝手に喋り出す。


「とろろ昆布様はここに来てから短いもんな。疑問に思ってることから話したるわ。まず一つ、この地域では誰もがお前さんを監視かんししているよ」


 ドクン、と嫌な鼓動の音と共に一歩後ずさりする。


「ああ、安心しな。俺は手を出さん、いや俺達は、というべきか? ここじゃ覗き見なんて日常茶飯事やからな。でもここホテルパニッシャーは全力でプライバシー保持出来るよう努めてるで?」


 覗き見が日常茶飯事?


密着不可分ツキマトウモノじゃ、好きな相手と四六時中一緒に居たいと妄想する輩ばかりやからな、可愛いものなんかみつけたら覗き見し続けるのが普通やで? 城内でパンツ丸出しにして歩き出したところなんて、男性陣の支持率が更に高まった瞬間だったな」

「ひっ」


 スカートの裾を思わずつまんでしまう。

 見られていた? どこから? いや、城内の行動全部みられてたってこと!?


「まぁ疑問の一つ目の回答はここやな。覗き見対策していないとろろ昆布様の自己責任やで? おかげで欲しい情報もすぐ渡そうと思い至った訳やけど。ちなみに今の姿も可愛いな、この部屋も監視可能にしてしまうか?」

「や、やめてください……っっ」


 プライバシーの侵害が声帯に影響を及ぼしたのだろう、私の意思に反してほとんど声が出なかった。


「そういうとこやで? 英雄やなかったら襲われまくってたやろうに、ヤレヤレ。ほら、落ち着いてそこのベッドにでも腰おろしとき?」


 ダメだ、絶対にダメだ。

 座った瞬間あいつはオオカミになる、間違いない。


「もう一回言っとくで? 誰もとろろ昆布様に手を出そうって輩は居ないから覗き見るだけなんやで。自分が一番良く知っているやろ? ダンジョン攻略者に手を出してみ、瞬殺されるのは目に見えているからな」


 あぁ、確かに今のこの体ならばいちいち怯える必要も無いのか。

 ……無理、無理無理無理! 私はやっぱり馴れ馴れしいのは無理っ!


「強情なやっちゃな。まぁええ、そのまま聞いててええで」


 窓際まで移動した息子さんは、語り出す。


「昨日やったかな、いつも通りこの部屋からジュンエッタ・ミ・ナータの部屋を光学望遠鏡で覗いてた時やった。着替え中にカーテンを閉じよったんや、信じられるか? 今まで一度たりとも覗かれる事上等でカーテンあけてたあのナータちゃんがカーテン閉じたんやで? そりゃ流石の自分も動揺が隠し切れず原因を探すために周囲を見回したのだよ。するとどうだろう? 地平線の彼方に人影がみえたんや。まさかと思って倍率あげたら、女の子が一人大地の方を歩いてたんや。あぁ、大地って言い方で伝わるよな?」


 女の子が一人、240リミットの脅威の大地を歩いていたと。


「まぁ、そういう訳でとろろ昆布様の知り合いかもしれねぇな? ちなみに俺達の宇宙船には目もくれず西へ歩いて行ってたぜ」


 なるほど。一日前ってことは少し西へ舵をきって後退すれば遭遇出来るだろう。

 すぐにでも戻って操縦桿を握らなければ。


 はやる気持ちを抑え、私は息子さんに向かって一言。


「覗き見、犯罪ですからね!?」


 やっと声が出た。良し、言いたい事は言ったし私は帰るっ。

 操縦桿握ってオート操縦にしたらマイルームに帰って寝るんだ。


 息子さんが何故かうれしそうな笑みを浮かべ頬を赤らめていたが、私は踵を返すと。


「情報、ありがとうございます」


 とだけ顔を見ず伝えて部屋を出た。

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