144.とろろ昆布クエスト(3)
外へ出て数分。
まわりの熱い視線がきつい。
そんなに私を見ないでくれ。
もうすぐ二十歳だというのにセーラー服もどきを着用しているのが原因なのか、そうなのか?
周囲を見渡すと、何故かセーラー服姿の若い子たちが目立った。
いや、むしろ若い女性は全員着用しているまである。
一体何を考えているのよここの人たちは。
歳を取り過ぎた私がこんな中にいつまでも居られる訳も無く、足早に顔見知りの店へと逃げ込むように駆け込んだ。
ウィン、とガラス戸がスライドするいわゆる自動扉をくぐり抜ける。
外観はコンビニそのものである、そんな店内へと入った。
「あの、おっちゃんさん」
「おぅ、とろちゃんじゃねぇか! いやぁ、救世主様に御贔屓にされちゃぁおっちゃんも腕が鳴るぜ! 今日はどうしたんだい? 武器かい? 雑貨かい? はっ、まさかおっちゃんに」
一人で勝手にテンションあげまくっているこの人は、おっちゃんさん。
本名は知らない。
私が街の中を彷徨っていた時に、コンビニあるじゃん、と思い立ち寄ったのが最初の出会いだ。つまり、このおっちゃんさんがここ刃物屋の店主である。
「ちょっと聞きたい事があって」
「聞きたい事だったな、何だい?」
「私みたいな、ローグライフプレイヤーの情報何か無い?」
「……とろちゃんみたいな美人さんが他にも居るのかい? あぁ、他意はないからな? その服装だって可愛いから、一気にブームになったし、その太ももの見せ方なんて特に」
「セクハラで訴えますよ」
「……そうだ、ホテルパニッシャーの息子さんが何か地表を歩いている人を見たって騒いでいたな。先住民だろうが、何もない陸地を延々と歩き続けるなんて普通なら助からないよなぁ? とろちゃんみたいな、不死の祈願もちなのかもなぁ。参考になったかい?」
不死の祈願、か。私のコレはRLというゲームの特性であって、実体を失っているであろう今となっては死んだらどうなるかわかったもんじゃない。
「知り合いの可能性はあるかな。ありがとおっちゃんさん」
いつまでも太ももあたりに視線をおくるおっちゃんから逃げるかのように踵を返し背を向けると、もう一声かけられた。
「あぁ! そうだ、遅くなっちまったがありがとうな、とろ様。あんたが居なかったら今頃俺達は宇宙の藻屑になってたぜ。本当に感謝しているぜ」
何よ、恥ずかしいじゃない。
「これ、買っていく」
「まいどあり。これ、オマケだよ!」
「ん、ありがと」
情報だけ聞いてハイさよなら、が出来ず結局不必要なステンレス包丁とオマケの伽石を買ってしまった。
ピンアウトして所持品をアイテムボックスへ収納すると、再び視線が集まる外へと出た。
「とろ様、ありがとう」
「あっ、とろ様だ!」
「とろ様可愛いー!」
などなど。直接私に話しかけるでもなく、キャッキャッと離れた場所で盛り上がる野次馬達の視線に次の退避場所へと駆けるようにダッシュをした。
風属性耐性(強)のおかげで、スカートは鉄壁だった。
それはともかく、ホテルパニッシャー。
ホテルの名前に処罰者とは恐ろしい。
名前負けせぬ、五十階建てのビジネスホテルがRLの世界にあるなんて誰が思うだろう?
そもそも、地球よりここって少し進んでいる部分が目立つわよね。
一階のロビーにいくと、再び情報集めのために早速フロントへ向かう、前に。
「私の格好、まだ大丈夫、だよね?」
『姫、姫はとても可愛い。180cmの高身長にミニスカートだけでもエロカワだし、長く伸ばした黒髪もポイントが高い。僕はずっと姫のそばにいるよ!』
『ハウル、茶化さないで。後、あなたもそれ以上言うとセクハラで訴えるよ』
『姫、女の子がそんな言葉の武器を振り回すのは感心しないな。そもそもそんなのだから彼氏の一人も出来』
私の体から真っ黒なエフェクトがブワリと溢れ出すと、ハウルは言葉を遮り黙り込む。
この格好だってOP激選した結果の姿だし、身長に至ってはしょうがないじゃない?
出るところ出なくて、縦にだけ伸びちゃったんだから、しょうがないじゃない!?
姫川乙女という名前負けした自分の姿が恨めしい。
くっ、せめて胸だけでもあれば……。
何分間大きな鏡の前で自分の姿を確認しただろうか。
ようやく落ち着いてきたところで、改めてホテルのフロントへと声をかけた。