014.トライアル(2)
「こっちのたこ焼き食べるの初めてなんだ?」
「ああ、私がこっちに来たときはいつも弟子の手料理を食べていたからな。たこ焼きを作ってくれたことは一度もないね」
「いやいやいや、たこ焼き焼く機械持ってないからね俺?」
「薄々気が付いていたが、君はもっと道具に頼るべきだと私は思うのだよ」
「えー! 基本装備だよ基本!」
12個入りのたこ焼きはあっという間に無くなると、追加のご所望があったが自宅で作れないと答えると作れと言いだされる始末。作れないものはどうしようもない。
「それで、そのサクラって子とは契約継続できたの? 協力プレイは息が合うパートナー探しが一番難しいから、ちゃんと囲っておくのよ?」
「師匠、いつもぼやいてますもんね。パートナーが居ない(友人が)、居ない(恋人が)、居ない(遊び相手が)って」
「やーん、私と一緒じゃない」
「一緒にしないでくれ。私の領域についてこれる人類が居ないのが悪いんだ」(何故かドヤ顔)
「やっぱり一緒じゃない。私の美人具合に恐れおののいて誰も近づけないの」(何故かドヤ顔)
「私たちの話よりも君の話だ。それで、どうだったんだね?」
「はい、今後も一緒にRLをプレイしてくれることになりました」
「へぇ、それでどんな子だったの?」
「女子高生でした。運動目的のプレイでしたが、俺には無いものを持っているので全力で口説いたつもりです」
「「チッ」」
何故か舌打ちが同時に聞こえた気がする。
「あ、あの師匠。まだ夜の大会まで時間ありますしRLでもやりますか?」
「……良いでしょう。綾、パソコンは使えるかしら?」
「ふふ、私に出来ないことは無いわよ」
「交渉成立、これ使って」
「サンキュ」
師匠が小型のヘッドセットを綾さんに手渡しすと、師匠はダンボールの中へ。綾さんはパソコン前で操作を始めた。
あの二人、何だかんだでめちゃくちゃ息が合っている気がするけど同世代だからなのだろうか?
「君に少し遊びというものを教えてあげよう」
自分で学べと、滅多に指導なんかしてくれない師匠が珍しくそういうと俺のデバイスを身に着けながら扉を閉めた。
「ふふ」
扉が閉まる瞬間、何故かデバイスを顔に近づけながら笑っていたように見えた。
「はいっ、聞こえます。はい、これをこうして……見えました、座標は10348.310932.-12です。類似マップを発見、情報をサーチしますのでそれまでは自由行動でお願いします」
「綾、さん?」
「……リード。10分で用意します」
綾さんはパソコンの画面をみながらいくつかツールの起動をしていた。
「俺のパソコン、そんなツール入ってなかったですよね?」
『カチカチカチカチカチ』
俺の言葉に反応することなく、操作に集中を続ける綾さんの手は次々にコマンドを打ち込んでいく。
RL上の映像や情報はパソコンを経由してデータのやり取りをしているためゲーム内で表示されている画面がパソコン上にも映っている。勿論、没入感はなく普通にディスプレイをみるとぼやけた背景にしか見えない。
ヘッドセットをつけなければ、疑似3Dゲーム(それも焦点が合ってない)ただのゲームになりさがってしまう。
そんな画面の横に開いたツールの一つが、鮮明にゲーム内の光景を描写しなおしていた。
更に、綾さんは自動マッピングツールを駆使して師匠の視野情報を入力、類似ダンジョンをネット上から拾い上げ、次々に捌いていく。
プロゲーマーでも深い階層に潜れない理由の一つに、時間をかけすぎてしまう点が良くあげられていたが、師匠は独自のヘッドセットを持ち込み外とのやり取りを行う事で外部からの情報を収集し、効率化をはかっていたのだ。
「って、それチート臭くないですか師匠!」
「……はい」
ライチという通話ツールを開くと、師匠の声がパソコンを通して発信された。
「君、真面目にプレイするのは勿論良い事さ。でもね、このゲームは真面目にクリアできるようには組まれていないって事にそろそろ気づいても良いと私は思うんだ。これらのツールは全部私が作ったと思うかい? これの追求を本当にやっていると、そう言えるのかな? まぁ、見ていてくれたまえ」
最短コースで下の階層へ移動する道順を選択、敵との遭遇は全てスルー。ローグライフといえばドロップ品でパワーアップしていくものなのに、そんな当たり前を無視して進めていく。
あっという間に二階層に入ると、そこはヘル系だった。
細い一本道。これと似たダンジョンで俺は一度弓の嵐に瞬殺されたのは記憶に新しい。
この一本道系は実は種類が多く、トラップの種類や敵の種類、下の階までの距離などてんでバラバラなのだ。
初期装備状態では、この第二階層では手も足も出ないはずだ。第一階層で戦利品を集めなかった師匠のミスプレイであろう。
が、俺は驚く光景をみてしまう。
『パシッ』
槍が三本同時にプレイヤーに向かって飛んできたのを、全てさばききっていた。
顔から迫ったものは素手で。
肩付近に迫ったものは身を逸らして。
胴付近では膝と肘で挟み込んでいた。
「あ、ありえねぇ!?」
更には、そのうちの一本を手にとると逆に槍を闇の向こう側へと投げ放っていた。
「ぎゃぁぁぁ」
低く野太い声が洞窟内に木魂する。師匠が歩続けるとそこにはレアドロップだろう一品があった。
「リード。第二層でこの構成では次の罠、敵の確認はゼロ。警戒から注意へ」
「リード。注意のまま進む」
10分程真っ直ぐ進んだところでやっと下の階層への階段が現れた。
あのまま警戒を続けて10分も歩き続ければ集中力はボロボロになっていただろうが、綾さんのアシストと情報を元に疲れを見せずに師匠は次の層へと降り立った。
「リード、アンノウン」
「リード、ここは自力でいくから少し休憩してていいわよ」
「リード、了解しました」
降り立った場所を中心に、四方にマッピングを広げつつ行動範囲を広げていくが、敵との遭遇も二本の槍で捌くと
「この程度なの、貴方達は?」
とまさかの敵へ向けての挑発を行っていた。
結局、そのまま第四階層まで進んだところで大会前のブリーフィングがあるとログアウトを余儀なくされた。
俺はそんな師匠のプレイをみて、この人には本当に適わないという思いと共に心の声が漏れ出ていた。
「すげぇ、俺もいつか師匠を超えたいな」
『今の俺』では師匠の足元にも及ばなくとも、いつか必ず追いつき追い抜いて見せると闘志を燃やす。
この俺ならば、必ず超えれると信じてやまなかった。
自信家の俺は、無理なことなんてないと、ただ純粋にそう思っているのだ。
「ふふ、だからこそ君は良い」
「若いって良いわね……って、あれ、私なんでまたここに……ひっ」
どうやら酒が抜けたのか綾さんは小さな悲鳴を上げたまま自分の家へと戻っていった。
この後、めちゃくちゃ師匠のFPSプレイを見守った。