136.絶望の壁(1)
と、そんな実演もあり横一列という隊列を組んでいる訳で。
闇が暗闇底の視界を覆いつくすまでにまだ数時間の猶予がある。
移動してからの手順を頭の中で反復する。
1:ワープ後、左右に展開。
私の銃之支配は機動力がいうほど無かった事がわかったから中央を陣取る総隊長の右側を預かる事になっている。
2:展開が完了次第、各主砲にて時間逆行の効果をミサイル兵器にて飛ばす。
ミサイル兵器の搭載がない艦については、奇跡の力にて量産された戦闘機を投げ飛ばす方法でスクロールを運ぶ手筈となっている。
後はただひたすらに、左右に展開をしつつ奇跡の力をばらまくという、いたって単純かつ効果的な戦法をとるだけだ。
ただ、このスクロールを自分たち、もしくは地球に向けて打ち込まれたと考えると気が気ではない。
まぁその考えは誰もが抱き、誰一人として口に出すことはしなかった。
『菜茶、通信が入っているぞ』
『ん、繋いで』
「菜茶さん? 私です、綾乃です」
「あら、綾? どうしたの」
「ちょっと世間では暴動が始まってる地域が増えつつあるんです。そっちに私の信頼のおける方々を集めても良いですか?」
「そっち、というのはビックサイトに、という意味で良いかな?」
「はい。ようやくメディアも笑ってられない事実を無視できなくなってきたようで、WEB上では早い段階から危険性を訴えてた人も少数ですが居て、それが数時間前の報道で一気に現実味を帯びてしまって。
要するに私たちは一週間後には滅亡するんじゃないかって。情報操作が追いついてないようで、不安を抱く人々が次々に暴れ出しているようで。でも……菜茶さんが動いている事を知っている私は信頼のおける知り合い達に声をかけ、守備隊としてそちらに派遣する事にしました」
「信頼のおける、ねぇ。綾、明日死ぬかもしれないって状況の人たちが本当に信頼できるのかしら?」
一瞬の間があるも、綾乃は強く頷き。
「はい。助かる可能性の一つに賭けた私に賛同してくれた人たちだから。まぁ、お母さんの叱咤があるからこそ、信頼出来るんですけどね」
ああ、あの人が動いたのか。
確かに、死ぬよりもアノ人に目をつけられたら大変かもしれないね。
「話はわかったよ、綾の分のハウルを転送しておくから、ナビゲーションはそっちを頼って頂戴。私たちはこれより作戦を開始するから」
「ありがとう菜茶さん」
マルムにあっさりと侵入を許したり、奇跡持ちが現実を犯しだしている今、いくら人の手があっても足りないくらいだろう。
「皆、準備は良いか! 暗闇を超えて! 転移!」
そして私たちは240リミットの脅威へと向かい合う。
誰だろう、全体回線で呟いた声がつかの間の静寂を脅かす。
「嘘、だろ?」
延々と続く壁。
体積が毎秒倍に広がり続けているとは言葉で聞いて理解していても、実物を目の前にした私たちは震えた。
「俺達十艦だけでカバーしきれるのかよ!?」
そして私たちの緊張の糸を弾くそんな言葉に、総隊長は震え声を隠しつつ伝えた。
「お前ら! 作戦開始だ、一秒も無駄にすんじゃねぇ、アレが地球にとか絶対こさせんじゃねぇぞ!」
端が見えない程巨大化しきっていた絶望の壁を前に、私達は作戦を開始した。