130.奇跡艦隊(8)
相変わらずドクタータクトの女性的な声質に、一瞬誰か別人が喋っているのかとあたりを探してしまいそうになる。
そんな彼は、ロングコートでも着こなしているかのように羽織った白衣をなびかせながら言う。
「君たち、僕たちの目標は一つの惑星の完全消滅を狙っている訳だ。それも巨大化が止まらない規格外ときた。急いで目標を一方的に攻撃できれば、ラスボスのいない一方的な星破壊だという感覚でいるならば、今すぐ考え直そうか」
そんなタクトの発言に、カタリナは反論する。
「あら、私達レースゲーマーの腕が信じられないって事かしら?」
豊満な胸を全面に惜しみなく出しつつの抗議に、タクトは前かがみに後退しながら手を前に出し制止させていた。
「ま、待てカタリナ・ホワイト。俺に、、、私に近づく出ない! ……はぁ、はぁ。ん、何の話だったかね」
「アンタがマイティの示したコースに難癖付けたところよ」
「ん、んん! そうだ、そうだよ! 君たち馬鹿なの死ぬの? 私達は現実の目的を遂行させなきゃいけないんだよ? 成功率100%目指す必要があるんだよ?」
「ドクタータクト、悪いけど指摘部分はもっと簡略化して伝えてくれないかな?」
カタリナといがみあっていたタクトを諭すと、腕を組みクールダウンをしたようだ。
「すまないマイティ。私が言いたかったことは一つだよ、これはゲームではなく現実だと」
「だから何よ!?」
カタリナが噛みつきそうな勢いでズズッと体を寄せていたが、LESS総隊長からの助け船がでた。
「そうか、俺も少し硬く考えすぎていたかもしれない。カタリナ、お前の腕に非があると彼は言いたい訳じゃない」
「じゃ、何だってんだい!」
「彼は言っただろう? これは現実だと。コースデータがあったところで、米粒ほどの隙間が本当にあると言い切れるかい? カタリナ・ホワイト」
顎に手を当てながらそう言うLESSに、なるほどといくつか呟きが上がった。
「つまりドクタータクトが言いたいことは、攻略不能の道があるかもしれないという事だ」
「わっかんねぇ、私ならどんな隙間でも見逃さないよ!」
「落ち着け、そもそも隙間すらなかったらどうするつもりだ?」
「そっ、問題無いだろう? 流星群なんだから、隙間を縫って」
「だからそこだよ。必ずどうにかなる、それがあるのがゲームってもんだ、俺達はそんな当たり前に汚染されすぎている」
カタリナはやっと落ち着いてきたのか、自分の席に戻るとドカッと腰を下ろしていた。
「つまり、流星群を通り抜ける事自体、下手すると攻略不能みたいな状況に陥ってしまうんだね」
なるほど。
どんな状況だろうと確かにゲームならば何とかなるけども、現実には不可避な状況を回避する術は簡単には生まれない。ならばどうするか? そんなリスクをおかさず堅実に行けばいいだけだ。
「わかってもらえて嬉しいよマイティ。ただ否定するだけなら幾らでも誰だって出来るからね? 俺はこんな案を練ってみた!」
思わず額に手を当てたくなった。
が、そこは腕を組んで抑えきれない笑みを噛み締め堪えつつ言ってやった。
「何が現実だ馬鹿めが! 私よりもよっぽど酷い案を出してくれたな!」
そんな私の声に反応するように、ヒソヒソとプロゲーマ達はタクトの案を吟味していた。
「……あんた、ドクタータクトだっけか? さっきは済まなかった、あんたみたいな大馬鹿野郎、私は嫌いじゃないよ」
カタリナ・ホワイトが頬をかきながら資料への感想を告げた。
「私、空間移動って響き嫌いじゃないよ」
彼、ドクタータクトが告げた案は人類が未だ成しえていない空間移動だった。
「俺はむつかしい事は言ってないぜ? なんせ、RLのデバイスだって疑似体の空間移動があるんだ、わざわざ移動に時間を費やす必要はないだろう? 俺達がしなきゃいけないのは戦術と練度をあげることだ」
ふむ。
確かに、慢心して戦闘機に乗り込んで即落ちした自分が良い例だろう。
「なるほど。でも、僅かな時間でそんな技術が確立できるとは思えないけどもそこのところは?」
悪い顔をしてドクタータクトは言い放つ。
「何も問題ないさ? だって人類は大量のSFを生み出してきたんだ、空間移動理論なんて大量にある、ならばそれを実行する思考を持った者に祈願してもらえば良いさ」
ああ、なるほど。
既存の奇跡を頼らず、SF知識のつまった移動系の奇跡を得ればいい。
しかし、そんな役を誰がする? そしてそこを攻略しなければ奇跡の力は……。
「待って! 私はRLの世界で聞いたことがある、空間系はヘル認定されてて祈願出来ない可能性があるぞ!?」
思わず口調が崩れてしまう。
ロマンてきな空間移動案だったが、これも成功率が低いだろう。
「なっ、そんな情報もあったのか。ログが多すぎて見落としてたよ、すまない」
いや、彼に非は無い。
こういう戦術を用意してくれるからこそ、頼りがいがあるんだ。
しかし、ショートカットも、とんでも理論もダメとなると迂回コースしかとれないが。
「この迂回コースだと、半分以上の宇宙船が現場に間に合わない、わよね」
プランの更なる練り直しが必要かと思ったその時だった、会場に知らない人物が紛れ込む。
「ん、あの子は誰かしら?」
厳重なセキュリティで守られているここに単身で乗り込めるとなると、どこかのプロゲーマー?
それとも運よく辿り着いた部外者?
そんな様々な思考を遮るように、その声の主は真正面で言い放った。
「そのワープ理論、この子ならばできなくないかしら」
その小綺麗な少女の隣には、今にも死にそうな老婆が杖をついてたっていた。
私達は、突如現れた二人に対処が何一つ出来なかった。