013.トライアル(1)
しかし、予想を裏切らずまんま女の子だったとは。
多少はキャラ作りをしてプレイしているという方の読みは完全に外れたものの、あんなゲームと無縁そうな女子高生もRLをやるんだなと改めて世界の広さを知った。
まぁ、目的がダイエットというのだからしっかり太らせて引退しないように配慮しなければならない。
それはさておき、たこ焼きの匂いを電車の中に振りまきながら無事に最寄り駅まで辿り着いた。
『無事最寄り駅に帰還、もう少しでいつでも参戦可』
先ほど教えてもらったアドレスにそんな文章を書き込み送信すると
『家遠いんだねー? ごめんね、呼び出しちゃって。でも奢ってくれるならいつでも都合つけるよ(ニッコリ)』
なんて返信が数秒もせずに返ってきた。恐るべし女子高生の高速フリック。
てか、メールに写真載せるのが流行ってるのか? そこには既に部屋でだらしなく寝転がりながらピースをする女の子が映っていた。
そっと一部を拡大するも、ソレが見えないのを確認してそっと携帯を仕舞った。
そんなメールのやり取りをしながら家に着くと、中から人の気配を感じ取った。
親がわざわざここまで来ることは無いし、家に遊びに来る友人なんて居ない。
むしろ鍵も無しに入れる存在をあげてしまえば、すぐに答えは出てきた。
「なんですか綾さん、人の部屋にまた勝手にはいっ……って……あはは」
「ふふふ」
そこには俺の椅子に座って紅茶を飲んでる女性の姿があった。
「し、、、師匠っ!?」
この甘い香りは師匠が目に良さそうだから、という理由で飲んでいるブルーベリー系の香りだ。
だから、今師匠が飲んでいるのは棚にストックしていたブルーベリーティだと推測出来た。
ああ、うん、そんな推測して現実逃避しててもダメだよなぁ。
「いらっしゃいませぇぇぇ!」
俺の人生の中でいちにを争う出来の土下座が決まった。
「ふむ、君は人に『たすけてぇ』『ししょう、ししょう』『だいて!』とかログに残すだけ残して家を空けるとは、何事かな? ん、それはまさか」
ツツッと歩み寄ると俺の手の中にあるものに食いつく。
「ほほぅ、本場のたこ焼きを用意してたのか。なかなか気が利くじゃないの、流石私の弟子ね」
「あっ、た、食べますか師匠!」
「今すぐ食べよう、ついでに私も食べても良いのだよ?」
「いや師匠、いつも言うてますやん」
男と酒は天下に居る限りやらんよ、というのがこの人だ。
「ははっ、そうだったね。でも君となら私も良いと思ってるんだよ」
「そ、そんなっ……」
「でもね? 待ってる間に何度か知らない女が訪ねて来たんだが誰なのかなぁ?」
「ふぁ」
「それも私と歳が近そうな、それも巨乳ときたじゃないか」
「し、師匠ぉ?」
「そんなに寂しいのなら、私の家に来れば良いのに」
「いや、学校ありますから」
「若すぎるのも問題だな」
しかし、師匠が俺の為にわざわざ来てくれるなんて嬉しいな。
「ところで師匠、確か今って五夜連続のFPS大会じゃなかったですっけ?」
「ああ、今夜はここから接続させてもらうから問題ないよ」
うぇ、生で師匠のプレイが見えるのか。
胸の中に熱い思いが生じる。師匠が初めて来たときに、いつでも私がゲーム出来る環境を用意するようにって一緒にパソコン買いに行ったのを今でも思い出す。
ちなみに、師匠が使うという理由でお金は全部出してくれたりした。
「RLやりたかったな……」
師匠のプレイをみたかったはずなのに、俺の思考とは関係なくそんな言葉が漏れていた。
「ん、流石だね。一つのゲームへののめり込み方は私好みだよ」
純粋に褒めてくれる師匠に、思わず顔がほころぶ。
「後、何か君から甘い匂いもするのは何故かしらね? たこ焼きって甘かったかしら?」
はいっ! 甘かったですよ! とは言えず冷や汗を流すしか出来なかった。
「まぁ良いわ。そろそろだと思うしそこから話を聞きましょう」
チャイムが連打されると、ガチャリと鍵が動く音が響く。
「あっ、あれっ、鍵しまっちゃった!? もぅ」
空いてた鍵をわざわざしめて入ろうとする下の住民が、ドアノブと格闘を終えたのちに部屋に入ってきた。
「はぁーい、遊びに来……あら、あらぁ?」
師匠と綾さんがお互いを見つめたまま固まる。
一気に部屋の空気が重くなる。
「巨乳さん、だな」
「クールお姉さん系!?」
「「どっちが本命かな」」
何故そこでそうなるんですか!?
「えっと二人とも、一旦落ち着いてたこ焼き食べません?」
「それもそうだね。君がテンパッてた理由もわかった気がするし、ゆっくりと、そう、ゆっくりとね」
師匠の読みの鋭さはゲームの中だけではなく、こういう場でも発揮されるのが助かる。
きっと今の状況も師匠の中では既に『解』に辿り着いているのだろう。