129.奇跡艦隊(7)
「では、投票結果より総隊長をカナダ代表のLESS君……LESS総隊長に決定する」
私が告げると、異議の声は誰からも上がらなかった。
そう、本人から以外は。
「なぁ、こんな決め方で大丈夫なのか? 100位代のランカーが貴方達を指揮するなんて、問題があるのではないか?」
日本語がそこまでうまくは無いが、彼の性格がにじみ出ているようだ。
疑がり深く、慎重派な彼は物事を『考える』力がある。
それが例え、非常識な場面だろうが『ブラックジョーク』を交えつつも真剣に答えを探そうとする姿勢は素晴らしい。
少し残念な事があるとすれば、収納の奇跡は今回の盤面ではあまりにも使えない事だったくらいか。
「何も問題ないさ。LESS総隊長は皆の胃袋をしっかり掴んだ、これだけで貴方の事を皆信頼しているって、そう思わないかい?」
「だが、うぅむ」
「そう、ならこうしましょう? 私からの命令よ、総指揮をとる私にまさか逆らうとでも?」
「ひどいな、それじゃまるで俺が人類がどうなっても良いと我儘を言っているようではないか。わかった、隊長艦として指揮させてもらうよ」
「ふふ、助かるよLESS君……おっと、LESS総隊長」
いろんな国の集まり故に、『私同様』色んな人が食べれるように彼は数種類のカレーを作っていた。
それも普段は料理をしないというのに、味はしっかり全てが美味しかった。
『我が相棒LESSが他に後れを取る訳がなかろう! カッカッカッ!』
お前誰だよ、と突っ込みたくなるが彼のハウルは少し傲慢なタイプになっていた。
それはさておき、普段料理をしないのに美味しく作るには一つ裏技がある。
その名もレシピに完全依存するという、理解していてもアレンジしたくなったり、軽量を軽んじたりしてしまう妥協を一切せず、忠実に再現してみせる腕と心。
それを持ち合わせ、かつ食べてもらう人の事を思いレシピを複数用意するあたり、周囲を見れている証拠である。中国ペアのジャン・チュンとジェ・ジェンは二人そろってコレは金になる! レシピを是非教えてくれって頼みこみに行ってたな。
『あれはここのサイトに載ってるぞ』
と、返したLESSの真顔と驚く二人のやりとりは傑作だったな。
「LESS総隊長意外については甲乙つけがたし、という事で私が適当に役職を振り分けるよ」
これについても異論は出なかった。
まぁカレー作って食べただけでここまで評価出来たLESS君が凄かっただけであり、儲けものだったというべきだろう。
「では、そうね……AI君、書記お願いしていい?」
「極力日本語でお願いしますね」
音を拾うのに優れたAI君に書記をお願いしてっと。
「モニターの向こうの皆も準備はいいかね? A会場!」
「こちら技術チーム、Aは常に準備万態よ」
技術チームは、ハウルへの情報付与を常時行っているスペシャリスト達の集まりだ。
「B会場!」
「こちらIT技術チーム、Bも不眠不休でサポート体制入ってる!」
IT技術チームは、現実サイドの防衛線をしてもらっている。
ただでさえここビックサイトにRLの機器を集結させネット回線が超負荷状態なのだ、それに加えクラッキングしてくる馬鹿もいるのだ。
回線がパンクした、やら不正アクセスによるRLへの没入不可などあったらたまったものではない。
「C会場はどうよ!」
「こちら軍事チーム、Cは常にお前たちを守る」
こちらも同様に現実への介入を阻止する軍事チーム。説明は省略。
「A会場に居るDチーム、Aとのセッション状況は!」
「こちら軍事技術チーム、DはAの支援の元、情報操作中」
ふむ。
軍事技術のスペシャリスト達はハウルにその技能を教え込ますため、技術チームの支援を受けながら次々とカスタマイズを続けている。
流石だというべきか、軍事技術チームの皆はあっという間に操作を覚えていき次々とハウルをカスタムしているようだった。
この4チームの技術支援者、総勢百名ジャストはモニタの向こう側(といっても、同じビックサイト内だが)で和気あいあいと技術交換をおこなっていた。
そして現在はカタリナ・ホワイト率いるレース軍団16名とハウル現場サポートとして開発者のLuca、RTSオタクのドクタータクトが現場で合流している。
総勢40名という大所帯になっている。
「さて、皆順調そうで何よりだ。ではさっそくだけど私のプランを元に、攻略法をつめていこう」
私は各自が持つ端末にデータを転送した。
マップを見た皆は、その中に記された私のプランを見て渋い顔をした。
「早速だが俺から良いか?」
「ん、意見は出し合ってなぼだからね、どうしたかしら?」
LESS総隊長は渋い顔で言い放つ。
「この作戦は俺達には無理だ。主に技術的な話でだ!」
何故だろう。幾重にも重なる流星群をショートカットで突っ切る案はシンプルイズベストだと思ったのだけども。
「いくらハウルのサポートがあるからといって、これは無謀だ。下手に宇宙船を壊しでもしたらそこに生きる人々に謝って謝り切れないぞ」
「ああ、説明が不足しているわね。操縦は確かに攻略者にお願いはするけども」
ニヤリ、とカタリナ・ホワイトと視線が交差する。
「こういう時のためのレースゲーマーってね? カタリナ・ホワイト達のメンバーが一人ずつサポートに回るわ。流星群くらいちょちょいのちょいで抜けてこれるでしょう?」
「ふふ、マイティは良くわかってる。米粒レベルの隙間さえかすらず通って見せるわよ!」
カタリナの言う米粒程度の隙間では宇宙船は通れないよ? とは突っ込まないでおこう。
「そういうわけだ。コースはこのまま行こうと思う」
「ちょっと待った、俺……私からも良いかな?」
そこに更に意見を出したのはドクタータクトだった。