126.奇跡艦隊(4)
宇宙空間のマップがあるとなると……。
私は興味本位で銃之支配から240リミットの脅威までのコースを確認した。
残念ながら真っ直ぐ進めないことがわかったが、他の宇宙戦艦との合流も考えれば問題では無かった。だが、ついでにコース上の嫌な物をみてしまい少し悩み込んでしまう。
『マイティ、フレンド送ったからこっちに来てくれますか』
突然脳裏に響く声は桜井のものだった。
『ああ、そちらに行かせてもらうよ』
私は桜井の元にジャンプするも、今回の移動中に例の男からの接触は無かった。
「やぁ、一番ノリおめでとう。これで私と遊ぶ権利は君のものだよ」
「……マイティ、いや菜茶さん」
改まって私に話しかける表情は真剣そのものだった。
「俺、ただのイベントか何かかと思ってました。この宇宙船もめちゃくちゃだし、何もかもが人類の想像を超えたスケール、まさにSFといっても過言じゃないところまで来ていたなんて、俺思いもしなくて」
「待った。桜井? 何を思い詰めているんだね?」
「なっ、貴女ならわかっているはずだ! あの240リミットの脅威と呼ばれる星は、人類を滅ぼす。それもほぼ確実に! 俺達に残された時間は僅かしかない!」
肩を掴んできた桜井の行動をあえて受け入れる。
わたしだって本当はそういう当たる場所が欲しいくらいなのだから。
「ふふ、そういう悲観的な考えは宜しく無いな? RLとは何か知っているか? 『奪い生きる者』をさすんだよ。この意味がわかるかい?」
勿論、私にはわからない。
でも、信じる事だけは出来る。
「RLは人類救済の奇跡なんだよ、ならば全力で活用するしかなかろう?」
「なっ、でもっ!?」
「誰がこの『ゲーム』の指揮をとるか理解していないようだね? 私だ、私が勝利条件を納めてみせるよ、ただ」
私は肩を強く握られている手に自らの手を乗せ、優しく包んで言ってやる事にした。
「ただ、私一人がいくら強くても意味がないんだ。力を貸してくれないか?」
「……マイティなら、この『ゲーム』に勝てると……?」
確信なんかない。必勝のイベントもいくらか取り逃しているかもしれない。
何せ蓋を開ければゲームどころか、奇跡まみれの宇宙の彼方での出来事に巻き込まれていただけなのだから。
でも。
「ゲームで私が負けると思っているなら、桜井、君の目はまだまだだね」
「……は、ははっ。参りました、マイティ。そうですね、貴女は無敗故に最強。ただの地球最強では無かった」
『お兄ちゃん! 菜茶は宇宙最強だよ!』
「ちょっ、ハウル。あはは、ハウルは勝手にしゃべるから困るなぁ」
「……桜井、突っ込みたいところは色々あるけど、そろそろ操縦について話を進めよう」
ハウルのカスタムは自由だし、何て呼ばせようが別に構わない。
それよりも、今は桜井がどこまでココを掌握出来ているかを知りたい。
「その事なんですが……」
説明を聞くと、この世界は戦闘機が主体となる様変わりの奇跡の世界だった。
戦闘機で大陸を進むことにより階層が進む扱いとなるという。
「最初は戦闘機手に入れるところから苦労したよ。敵が最初から戦闘機なんだから質が悪かった」
前へ進むタイプもさることながら、大陸移動とはこの宇宙船は相当巨大なのだろうか。
「無事、最終大陸であの子、サササの祈願、『宇宙を駆ける物』を得ました」
「色々アウトそうなネーミングだね、そりゃ」
「ハハハ、俺も最初はそう思いましたよ。でも、祈願者と繋がってから一気に世迷言が現実だという確信へと変わりました。すいませんマイティ、俺は攻略した瞬間までこの未曽有の危機を理解しようともしていませんでした」
「いいさ、それが普通なんだろうと思うさ。普通なんてクソだって理解出来ないからこそ、普通なんだろう」
「そう、ですね。それで」
桜井は言った。
「この世界の操縦ですが、どうも11個前の大陸まで戻った先がこの世界の先頭で、そこのトップの人たちが管理しているそうなんですよ」
「ほぅ? それで」
「通信でお願いしたんです、アレに立ち向かう為に操縦権が欲しいと。でも攻略者だろうが余所者の世迷言なんて聞いてられん! の一点張りで取り次いでくれなくて」
要するに、攻略者にはなったがここを支配出来ていないと。
「はぁ、他の皆もこんな感じなのかしらねぇ……」
ダメだ、我慢出来ない。
ニヤリ、と悪い笑みが浮かんでしまう。
「桜井、君は割り切りが足りてないね。この世界は何だと思う?」
「そりゃ、地球のはるか彼方に存在していた宇宙人類、とでも言いますか……つまるところ、NPCなんて嘘っぱちで、皆本当に生きてます、現実ですよ!?」
「はんっ! VRMMOが正解だ馬鹿者! いいかい、私達は今余所者としてここにきている。ローグライフは、奪ってなんぼなんだよ! 戦闘機をよこしな、私が手伝ってやるよ」
地球での撃墜はそもそも技術も何もかもが手遅れだ。
本当に人類は馬鹿だよね、地球内で争うようの武器しか未だに持ち合わせていないのだから。
……RLは一応対宇宙兵器って事かしら?
まぁ、そんな邪魔な思考は今は不要だ。
「タイムオーバーなんて私はゴメンなの、サッサと完全攻略してしまうよ!」
戦闘機は、ジェット機タイプで少し古いが第六世代と呼ばれるタイプだった。
というか、見た目からしてほぼほぼF-35シリーズである。
360度の視界をカバーしつつ、ステルス性能付き。
中央の操縦桿に加え、左右にそれぞれレバーがある。
「ふむ、地球の技術が宇宙側にも漏れているのかしらね? それに中身の作りは本物そっくりだし」
『菜茶、マニュアルはこれだ』
「ああ、ハウル。私は一通りの旧世代の戦闘機は実物を触ったことがあるから必要無いわ。それにこの体なら大丈夫でしょう?」
高い負荷がかかろうと、この世界の私なら意識を飛ばすような失態はしないだろう。
「マイティ、ブーストとか絶対使わないようにしてくださいね! 俺達は何度も意識飛ばしてロストしちゃいましたから」
そんなアドバイスを聞く前に私は全力で滑走路を走り、そのまま意識を手放していた。
初のデスポーンはまさかの自爆で終わった。
『菜茶、安心していいぞ。先ほど受信していたデータと奇跡の力は失っていない』
「うん……」
しょんぼりしつつ、ほんの少しだけ気に入りかけてきたKATANA(氷)を失ったことに口惜しさを隠し切れなかった。