124.奇跡艦隊(2)
何だかんだと一緒に悩んでくれたマルムとうんうん唸る事二日が経過していた。
結局俺は体力が回復するたびに師匠の意識がひっかからないかと二度程WYを試みたが、残念ながら師匠とのコンタクトは叶わなかった。
「はぁ、あの時ちゃんと作戦伝えれてたらなぁ」
「まだあの時は決まって無かったかしら。イイは行動力があるくせしてうだうだ言い過ぎなのよ」
「イイに近づきすぎよっ。ああもぅ、他の女の匂いがうつるなんて我慢できへんわ」
そんな台詞を吐きながら抱き着いてくるマルムに、最初の頃はこんな感じで好き好きオーラを放ってくれていたなぁと懐かしく思う。
「や、それよりもどうやってこの秘策を渡すかの議論をだな」
「無駄なのかしら。私たちは見守るのよ、それから考えたら良いのよ」
うぅむ。結局は姫様の言う通りにしか出来ないって訳か。
「いや、俺は諦めが悪いんでね? もう一度WY使ってくるわ」
既に体中が悲鳴をあげるほどにボロボロになっているわけだが、ここで妥協するくらいなら最初から挑戦すらしようとはしないだろう。
『……あれ、ここは……』
『しょうがないから、私が調べておいたかしら。もうすぐ師匠さんはここを通るかしら』
黒い部屋に黒い椅子。
真っ黒の中に、赤い線だけで立方体に引かれた線で構成された、不気味な空間。
そこに姫様の予言通り、師匠の姿が構成された。
『ん、ここ、は?』
『し、師匠! お久しぶりです!』
主に200年と少しぶりですよ。
『君は確か、以前もあったような……自白剤でも打たれたらこんな感じなのかしらね?』
『例えばちょっとアレですけど、俺と師匠は今意識の世界に居ます』
『へぇ。それにしても、師匠師匠と呼ぶ貴方は何者? このイベントは一体何なのかしらねぇ』
椅子に座って見せると、師匠も同じく着席してくれた。
『まずは今、地球側で何か行動を起こしているか知りたくて。後、その内容次第でプランをいくつか提供しようと思っています』
『協力者、と思って良いのかしら? まぁ隠すべき内容なんて無いから、良いわ、教えてあげる』
足を組み、俺の視線を完全に捉えた状態で師匠は語り出す。
『私の作戦は三つ。一つはRLで転移先の宇宙船の操縦を集めて、あの星を撃破に向かう事。二つ、地球上の兵器をロケットに詰め込むだけ詰め込んでファイアする事。三つ、地球を捨てて生き残れるだけ逃げ続ける事。私の頭じゃそれくらいが限界ね。全部ゲーム脳って笑ってくれて結構、あの馬鹿達はどうしようもない程までに追い込まれなきゃ、何も理解出来ない低能よ全く』
珍しく悪態をつく師匠に、ドキリとしながらも凄いなこの人は、と改めて思い至る。
『凄いですね。ほとんど情報が無い中、そこまで行動出来るなんて、やっぱり師匠は宇宙最強ですよ』
『褒めてくれるのは、どれか一つでも作戦が成功したらにしてくれないかしらね? 案外、私も余裕がなくなってきているのよね』
弱気な発言をするのも、これまた珍しい。
『俺は師匠のプランAとでもいいますか、最初の撃破案に賛同します』
『ふふ、君は笑わないのだね? 巨大な宇宙船で巨大な星を破壊するってのは、どこまで現実的なのかしらねぇ……言ってる自分が実は一番非現実的だとしか考えれないのが悲しいわ』
苦笑を交える師匠は、たぶん相当疲れているようだ。
でも、師匠しかこの脅威を跳ねのける指揮をとれる人物はいないだろう。
だから。
『師匠、俺のプランを加えてもらう事、出来ますかね? 実は……』
こうして奇跡艦隊の構築が詰められていく。
後は師匠の指揮能力を信じています。
WYの力が解け、元の場所に戻った俺はカハッ、と吐血をしていた。
「汚いかしら。精神も、体もボロボロのまま進まぬ時を生きるなんて、残酷すぎるかしら……」
「イイ!? ねぇ、起きて、ララ、ララァ! イイが、イイがぁ!」
取り乱したマルムの声と、低く冷めた声で罵る姫様の声を最後に俺は意識を手放す。