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122.話は振出へ戻る

 俺は凡人だった、というのが結論なのだろう。

 五十年を過ぎた辺りから知り合いは減りだし、百年を過ぎた頃にはすっかり代替わりした子供たちが主役となったこの世界で、ただひたすらにダンジョン攻略を進めていた。


 いや、昔はもっと色々な事を試みたか。


 第千弐百零零号艦大陸だいにひゃくぜろぜろごうかんたいりく消滅時間クロックロストの中で渦巻く策略の最中で、国を相手に立ち回ったり、村を守るためにレベルファイブの五人と共に暗躍したり。


 それも昔の話、百五十年辺りを過ぎた頃には村と国のいがみ合いも無く、ただひたすらにダンジョン攻略を目的として動き出したのだ。


 プレイ時間は二百年、24hx365日x200回=七万三千日(ななまんさんぜんにち)という暴力的かつ無慈悲な時を得てようやく第十階層へとたどり着いた俺は涙すら流して喜んでいた。


「君が姫様、だよね?」

「まさか攻略者が出るなんて、思っても無かったかしら」


 まさに地獄ヘルと言って過言ではない階層を突破してきた自身が一番、まさか、と思う。

 バッドステータスに陥った仲間たちは時間対策の隙間をつかれ次々と脱落。

 それも運が悪いと存在自体無かったことにされ、まさに災厄であった。


「俺もこんな体質チートがなきゃ、ここまで来れる自信なんてこれっぽっちも無かったよ」

「それでも、なのかしら。人の思考は百年が限界、それを超えて生きていける程柔軟な思考力は無いかしら。大抵は思考を放棄して、自ら存在を消していくものかしら」


 何度現実に戻り、涙を流したか。

 何度知り合いが他界し、涙を流したか。

 何度一人取り残され、涙を流したか。


 でも、俺だけがこんな思いをしている訳ではない。

 密かに心のよりどころとなったのは2cm程移動をしてみせたサーサ、彼女だった。

 きっと心と体と時間のバランスが崩壊している今、彼女サーサは死んでいるのと同等なのだろう。

 それでも生きている彼女を、見放すわけにはいかなかった。


「ちょっとあまり褒められた理由じゃないが、人間すがる物があれば何とか頑張れるんだなって、そう思うよ」

「それで、私を連れ出してどうするつもりなのかしら? 世界掌握でもするかしら? 既にそれだけの時を生きている貴方に何か目的があるとは思えないかしら」


 確かに。

 今の俺が過去リアルに舞い戻ったところで、きっと周りとの価値観や思考力、何もかもがかみ合わないだろう。


「いや、こんなに生きていても目的はあるんだな、これが……」


 俺は困り顔をしてみせる。

 こんなに無限時間というアドバンテージを得ながら、クリアタイムがこれでは何と言われるか。

 もう生きていないだろうが、師匠ならばきっと一日もかけずにクリアしてしまったかもしれない。


「俺は師匠にいつか勝ちたいって思ってたからさ。やっとここをクリアできた今、二百年越しの挑戦権を得たって考え、出来ないかな?」


 地球最強の存在は、もしかしたら宇宙最強だったのかもしれないと。

 宇宙最強だった人が、唯一とった弟子が俺だったのならば、師を超えていかねばならぬのだろうと。

 初めて出会った時ですら、ひたすら挑戦を続けた俺なのだから。


 戦闘狂バトルジャンキーは諦めが悪いのだ。


「ふふふ、なのよ。でも一つ理解していて欲しいのかしら」


 姫様は伸びをしつつ優雅に言い放った。


「この星以外は既に全滅しているかしら。願い事という名の呪いが伝播して、最終のカードはとっくの昔に切られたかしら」

「ここ以外が全滅?」

「勿論、貴方の生まれ故郷の地球? かしら。それも例外なく消滅しているのよ」


 反論をしようとするも、何もかも無くなっているという事実は思いのほかダメージがあったようで声が出なかった。


時間逆行リタイムで戻れる、という考えは確かに使えるけども、使用者の心への負担は計り知れないかしら。対象を全宇宙全てにするのだから、ただでさえ取り残された貴方は完全に孤立するかしら。普通の時間、停滞した時間、その上に逆行した時間という三つの時間軸にとても耐えれるとは思わないかしら」

「い、や、で、、、も」

「でも」


 ニィ、と邪悪な笑みを浮かべる姫様は言い放つ。


「貴方程のタフネスがあれば面白いかもしれないのかしら。私は時の支配者、名前なんて何万年も昔に捨てたかしら。これから先のうん万年、うん億年、永遠という時間の渦へようこそ少年」


 体の周囲を『…………DL中…………』という簡素な文字フォントが浮かび上がると、グルグルを集会を始めた。


 それと同時に、俺の意識は闇に溶け再構成が始まる。

 とっさに伸ばした手は消滅して、その勢いが現実に戻った瞬間俺はベッドからガバッと跳ね起きる行動となって表れていた。


「ひゃ」


 小さな悲鳴。

 どこか懐かしい、そんな声色の発信元に顔を向けると。


「イイ? どうしたのそんな怖い顔して?」

「えっ、あっ、あぁ!?」


 幼女の顔がのぞき込む。

 その顔は俺と唯一結婚した相手であり、子をなした相手、妻の顔があった。

 つまりここは。


「マルムか!? ここは一体?」

「何寝ぼけてるねん? うちを助けてくれたのは嬉しいけど、そんなポケポケさんはこうやで!」


 ウチュゥ、と幼女に口づけをされ思わずうなる。


「朝から何やってるの二人とも?」


 そんな俺達の姿をマジマジとガン見しながら言うのは。


「ラ、ラ、ララ!?」

「私の名前に何か文句でも?」

「いや、ちがっ、そうじゃなくて……という事は」


 ゲームクロックは当初、ラブリィイイィートダンジョン攻略の翌日までさかのぼっている。


「補足だけど、今日から九日後が全人類の命日かしら。主様ぬしさまの故郷ならまだ十日前くらいかしら? 遠い星は時間把握が難しいから適当なのよ」


 そしてベッドの中でもぞもぞと動き顔を出した幼女は、一糸まとわぬ姿で立ち上がった。


 世界が冷たく凍ったようだった。


「な、なななな、何やねんアンタ! うちとイイに何したんや!」

「ちょっと、流石に破廉恥過ぎないかしらイイ?」

「ふ、二人とも落ち着いて! てか何で裸っ!」

「逆行した際に私の服は消滅したみたいなのよ。何か文句ある、かしら?」


 こうして俺は世界滅亡前の時間軸へ降り立った。

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