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012.レディ(11)

 約束の時間を過ぎていることに気づいた俺は、慌てて教えてもらった番号に電話をかけていた。


 いざコール音が鳴り出すと、途端に緊張してくる。

 初めてかける番号から聞こえてくるのは、果たしてどんな声なのだろうか。

 ピッと軽い電子音が鳴り、ついにその答えがわかろうとしていた。


「ぁ……」


 あのぅ、と言うつもりが緊張から声がかすれて言葉にならなかった。だが、そんな俺の喋りよりも先に電話先からパァッと明るいソプラノボイスが聞こえてくる。


「もー、遅刻だぞー! 今どこー? すぐ並びに行かないとどんどん遅くなっちゃうじゃん!」

「ぅ、ぇ……ぁ……?」

「なーにっ? んん? なんかうちの声ハウリングしてるような、新品なのに不良ひ……ン……?」

「あ、の、その……」

「ンンン……?」


 先ほど一瞬視線が交差した女子高生の顔が、徐々に俺に向かう。

 そしてついに。


「「……」」


 視線が再び交差する。

 とりあえず、そんなまさか、そんなことないという思いを抱きつつ声を出す。


「あの、サクラ、さん?」

「……はい」

「あの、俺」

「ひっ!」


 思いっきり目線を逸らされた。何か色々かみ合ってない事に薄々気づきながらも、俺は話しかける。


「俺、イイですけども。もしかして、もしかしなくても隣に居たりします、よね?」

「……は、い」

「いや、その別に俺怪しくも何もないですから!」

『ビクンッ』


 無言で肩を震わせてみせるサクラに、何をどうしたら良いのかと悩みながらポケットに手を突っ込むとそこにはアノチケットがくしゃくしゃになりながらも俺に存在感をアピールしていた。


「その、電話切りますね? ……あの、これ」


 座ったままで、怯えているサクラの肩を叩くとハイッとチケットを一枚差し出して見せた。


「これでも食べながら少しお話でも、しませんか?」


 チケットを食い入るように見たサクラは、パッと立ち上がると今度は俺の両肩に手を置いてきた。

 どうやら、俺の知り合う女性は俺よりも背が高い人が多いようだ。


「これ、これって一日10個しか販売しないスイーツたこ焼きプレミアムの専売券じゃないですかっ!」


 いきなりテンションをあげたサクラ、と推測される人物はコロリと表情を変えていた。


「うん、そうだよね。うちも色々おかしいと思ってたけど、まさか別人だったなんてね。うんうん、でも悪い人じゃなさそうだし良しとしよう」


 凄い前向きな考えに切り替えただろうサクラは、俺の思いを一切気にせず手を掴むと歩き出す。


「その前に並ぶよっ! 並びながらでもお話は出来るからね」

「お、おう」


 連れられた先は行列が出来た店から数十メートル離れた列の最後尾だった。クレープって、こんなに人気なのか……。


「それじゃ、自己紹介。私は香内 桜っていいます、高校一年です」


 ペコリと頭を下げると、サクラは手をサッと出して今度は俺に名乗らせようとする。


「あ、ああ。俺は……イイだ、イイで良い。今日はお前とプレイする相棒継続権を手に入れる為に来たんだからな」


 至極真面目にそう答えるとサクラは吹き出して笑い出してしまった。つば、とんでますよオイ。


「ひぃーひっひっひっ、変な人じゃなくて良かった。変だけど!」

「何おぅ!?」

「いや、だってやっとアイからの電話が来たと思ったら全然知らない人で、スグ隣に居たのが知らない男の子なんだもん。闇の組織に攫われてエースされちゃうかもとか」

「何故そこで……いや、そういう意味なら俺だって似たような思いをしたんだぞ?」


 エースという単語を何とかスルーして、返答内容を軌道修正しておいた。


「いきなり番号と待ち合わせ場所だけ伝えられて、しまいにゃ相棒解約の脅しときたもんだ。唯一無二のフレンドのお前が居なくなったら、攻略が遠のいちまうじゃないか」

「んんー? イイって他にフレンド居ないの? 私もイイしかフレンドはいないから、そんなものなのかしら?」

「いや、掲示板で募集したんだがサクラから以外はこなくて……」

「ふふっ、という事は私はイイにとって特別枠におさまってるのね! あっ、列動いた」

「お、おう」

「でもおかしいなぁ、記憶ではフレンドIDは****だったと思ったのになぁ」

「……ん、記憶?」

「うん、アイに誘われてアレを始める事にしたの。ダイエットに良いって聞いたから」


 まさかの運動ダイエット枠での購入者様だったとは。


「それで買った当日、あの荷物ゲームの下敷きになって携帯壊れてさぁ。先にプレイ始めてるってメールで読んだIDを記憶通り入力したつもりなんだけど、そこで間違っちゃったみたい」


 ペロッと舌を出して御免ねと片手で謝って見せる姿に、少しドキリとしてしまう。


「いや、まって! 記憶にあるIDを入力したって事は」

「うん、イイには悪いけどその掲示板みてフレンド申請したわけじゃないの」


 まさかの唯一フレンドサクラさんは、偶然IDを打ち間違えて偶然俺のところへ申請が届いた一般人レディでした。


「なっ、それじゃおれの書き込みはまさかの完全スルー!?」

「間違えて書き込んだんじゃないの? どこのサイト使ってるの?」


 新品の携帯でお姉さんが調べてあげるといわんばかりに、体を寄せて問い詰めてくる。


「えっと、****だけど」

「おー、イイよねあそこ! 私もアイも同じトコ使って攻略あそんでるなー。あっ、これかな?」


 俺の書き込みをみると、再び噴き出すサクラ。

 いや、俺ゲームに真面目ですから! 俺があのゲームの最深部切り開きますから!


「イイってゲームオタクなんだね。まぁ色々知ってるからアイみたいに頼りになるし、私としてもこれからも一緒に遊んでも良いよ」

「アリガトウゴザイマス」


 何かめっちゃ上から言われた気がするが、これで俺の目的は完了した。


「それで、このID私が打ったのと同じね。偶然かしら?」


 どれどれと、肝心の部分を覗き込む。携帯の反射でサクラの顔が更に近くに感じられ、高鳴る鼓動を抑えつつIDコードを一つずつ見直していく。


 そして最後の部分で、俺は気が付く。


「うぇ、6と9ミスってる」

「変な声でたー! ひぃーひっひっ」


 うるせぇ、と突っ込みたかったがフレンド申請が来なかった理由がこれで判明した。


「まさかの凡ミスとは」

「ひぃー、でも私もメールみたとき寝転がってたし、それで覚え間違えたかー。やっちゃったね!」


 こんな出会い方(きせき)があるんだな、と思いながらお互いの話に花を咲かせながらクレープ購入までの30分はあっという間に過ぎ去っていた。


「たまに食べると美味いな」

「ダイエット中に食べる甘味、ああ、なんて背徳感」


 うっとりしながら手についたクリームをペロリとなると、先ほどのチケットを手に取って語り出す。


「それにしても、この専売券どうしたの? 簡単に手に入らない物持ってたり、もしかしてイイってすごい人だったり?」

「いや、貰いもんだ」

「ふーん」


 クレープを食べ終えた俺達は、その足で梯子を決め待ち時間無しで手に入れたスイーツたこ焼きを手に入れていた。スイーツたこ焼きを一つ摘み、口に含む一粒でギブした俺は全部サクラに譲るのだった。


 あんな見た目でめっちゃ甘いやん! とか、見た目に完全に騙された俺であった。


 スイーツを食べ終えた俺達は他愛も無い会話をして、そのまま何事も無く解散した。

 この後はあの世界へ潜るだけだ。


 準備レディは整った。

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