118.プロゲーマー達の挑戦(3)
同人誌の大量に詰まったカバンを泊っている旅館に残したままマイティに導かれるがまま、聖地へとやってきた私は大変テンションがあがってピョンピョン飛び跳ねる気持ちを抑えるので一杯だった。
本当は女性のヒーローもののコスプレをしたいのだが、武骨な体がとても悪い。
身も心も女性よりな私が夢中になったのはコスプレと、成り切った状態で女性キャラクターを自身の如く扱う事だった。
気が付けば格闘ゲーム、世界ランク123位とそこそこ上位陣に食い込むようになり、私の趣味に賛同してくれる多くのファンも増えてきた。
そして今まさに、夢のようなシチュエーションが訪れていた。
プロゲーマーがプライベートと呼んで良いのだろうか? 良いよねきっと?
この聖地に集い、世界の危機を救うための助力が出来るというの。
燃えない訳が無い、24時間という時間制限があるものの、私はキャラクターエディットに余念が無い。
『CCC、説明を聞いていなかったのか』
ハウルちゃんが威嚇するかのような声色で私を諭すけど、私は『成りきる』事が必須なのに、何故わかってくれないのかしら。
『……確認。何か意味があるのか?』
あら、案外一方的な言い草じゃなくて私へヒアリングしてくれるのね。
「私、形から入るタイプなの」
『……理想のアドバイザー像はあるのか?』
「人工知能なのに、気を使ってくれるの? そうね、あえて言うなら喋るクマのぬいぐるみとか、可愛いのが良い」
髪型はツインテールにしようと、カスタムを選んだ時だった。
『わかったわ、ワイがアシストしたるからうんとかわいいの選ぼうや!』
「ッッ!?」
体温の上昇を感じる。
この声質、この喋り方、まるでケルベロンちゃん!? まさかの降臨!?
『ああ、勘違いだけはせんといてぇやぁ? ワイはハウルやから。それと、その髪型やと310番にあるアクセサリー、ドデカWリボン(白)がおススメやな!』
何て事だろう。
私はこの一瞬で心の友を得た気になっていた。
「後5分だけ、良いかな?」
『ええで、その代わりダンジョンじゃ思いっきり頼んだで?』
「任せて!」
服は旧世代に流行った型のセーラー服に、ツインテールのそれぞれに巨大な白色のリボン。
スカートは短めで、下着も純白。
王道も王道まっしぐらのキャラクターエディットを終えた私はRLの世界へ降り立った。
「ふわぁ」
思わず感嘆の声が漏れる。
私、本当に主人公になった気がする。
もっと早くからRLをプレイしていればよかったと、今更ながら思い知る出来である。
「それじゃ、いざヘルダンジョン」
意識が闇に溶け、一瞬という時間を得て私の体はヘルダンジョンに生成された。
が、いつまでたっても視界が開かれない。
「あれ、バグっちゃった?」
『……これ、もう始まってるかもしれんわ』
体を動かすと、足の裏には確かに土っぽい上を歩く感覚はある。
五感を得る事が出来ず、平衡感覚が狂う中何とかしゃがんでみると、這いずり回るように移動を開始する。
「ねぇ」
真っ暗闇の中、心細さからハウルへ問いかける。
『何や? ロード中に判明しているダンジョンの種類も説明したと思ぅけど、全く灯りが無い第一階層は初めてやから、情報はあてにせんといてぇやぁ?』
「いや、そうじゃなくて……」
涙の流しながら、私はハウルへ訴えかけた。
「せっかく可愛く作った私なのに、何も見えないじゃないのぉぉぉぉぉ!」
『そこかぁあああああああ』