112.240リミットの脅威(5)
『銃之支配起動開始。
超拡大鏡起動。
拡大率15000パーセント』
ちっ、この倍率で米粒程度にしか見えない。
私は宇宙船の銃型の五つの操縦桿を次々と微調整を加えながら操作する。
カチリ、と引き金を引くたびに宇宙船全体がガクンと揺れる。
しかしどんなに方向転換しても、いくら加速を行っても米粒の大きさにしか見えないアレは振り切れない。
『ハウル、間違いないんだね?』
『完全一致、菜茶の録画していた番組の画像の星と同一の物と判断される』
ドラマの再放送は軒並みワイドショーにくわれ、新惑星発見! 等といった見出しで世間は盛り上がっていた。
録画していた番組も案の定、このワイドショー群に呑み込まれ一つの悲しみを背負っていたわけだが、その中に登場した惑星の画像と、今私がVR世界で見ている物と完全に一致している。
『つまり何? この宇宙船は地球の近くを航宙していて、VRの技術で疑似的に得た体で降り立っているとでもいうの?』
『是、そういうトンデモ理論が成立する』
この発想は完全にぶっ飛んでいる、でも……。
『このメッセージを聞いているという事は、銃之支配は無事に後継者へ渡ったようだね。初めまして、僕はこの世界の王をしている。ナヴィ、銃の祈願者と航宙している時に知ってしまったんだ。いや、知らされたというべきかな? この近くの宙域に立ち入り禁止エリアに指定されている非常に危険な祈願者が封印された場所があってね? そこで時の支配者と偶然、いや必然かな? 出会ってね。教えてもらったんだよ』
映像がフリーズしたかのように、一時止まる。
いや、正確には言い淀んでいる。
『240リミットの脅威。
このカウントダウンが次期に始まるという事実を』
240リミットの脅威、何かログにあったきがする。
同じ文字列で検索すると、すぐに引っ掛かった。それはカウントダウンを始めていると。
『ナヴィを知っている貴方なら祈願者の事を少なからず理解できているとは思う。
祈願した人間の知識領域での願望を叶えてしまうこの奇跡。
当然、『死ねばいいのに』といった死の願いですら例外に漏れない。
ただ、『皆死ねばいいのに』と祈願した場合どうなると思う? その人間が【知る限り】の人間だけが死ぬだけで済む。
勿論、その事実を覆す祈願者だって現れてもうめちゃくちゃさ?
でも祈願者が生まれてきた中で最悪の問題が発生していた事に、我々は今更ながら気が付いたのさ』
うつむいたまま、震える声で話が続く。
『視える物全部壊れちゃえば良いのに。こんな単純な願い事。
ただ、破壊の発想がダメだった。
宇宙の端から端まで、巨大な一つの隕石で撫でれば良いや。
でも、そんなに大きな隕石は思いつかない。
そうだ、自分の住んでいる星を毎秒倍にしよう。
そうだなぁ、十日、十日間倍々ゲームをすればきっと端から端になるや。
そう願ったそうだ』
巨大な隕石が完成した暁には、それが宇宙の端から端へと移動する。
いや、端という概念があいまい過ぎて少しも動かないかもしれない。
でも。
『あまりに巨大な隕石が少しでも移動しただけで、宇宙系は一瞬で崩壊の道を辿るだろう。
祈願者が願った以上の災厄となって、我々の目の前に現れたという訳だ。
既に巨大化は始まっている。
時の支配者は言っていた、助かる術はあると。
そして、それが出来るのは宇宙最強の人だと。
ここ、銃之支配にやがて訪れるだろう最強の人よ、勝手を言って済まない。
皆を頼む』
一体何者なのよ、時の支配者って。
それに宇宙最強って、私を指している、訳じゃないわよね? でも……。
あの巨大な悪魔を、このVR世界の力を使って何とかするしか私たちに残された道は無いのかもしれない。
いや、そもそもが勘違いならどれだけ良い事か。
『後十日で、人類は滅びの道を歩む、か』
宇宙船の航路を何とか240リミットの脅威から逃れようと試すも、一向に距離は開かない。
絶対的な不可避。
焦る私とは裏腹に、ワイドショーでは芸能人達が冗談を交えつつワイワイガヤガヤ。
それを見てワイワイガヤガヤとはしゃぐ人類は未だ遠い他人事でしか無かった。