011.レディ(10)
時は経ち、やがて難波へと到着した。
時刻は三十分も前のAM9:00。
綾さんに言われた通りの改札を出て、指導通りの階段を上ると右手に商店街がみえる。
おいおい、綾さんの説明完璧じゃないか。
そんな事を思いながら商店街の中に入る。
途中、食べ物の甘い香りに心躍るも目的を忘れる訳にはいかなかった。
『サクラは俺のパートナーだ。必ず俺が良いと認めさせる』
例え相手がどのような人物だろうと、あの発想力と観察力は間違いなく他にはないオンリーワンのゲーム能力だ。
絶対的な読みを持っていたり、同じ手が二度通じないような馬鹿のような天才だったり、そんな特殊な何かを持たない、真面目な継続力だけが取り柄の俺だが……。
あぁ、そんな俺だがサクラのパートナーは他の誰にも絶対に渡したくない。
自然と歩が早くなり、十字路を更に右に曲がる。
すると、馴染みのある曲が聞こえてくる。
時計をみると待ち合わせの時間までまだ20分以上の余裕がある。
早く着きすぎてしまったか、と思いながらもグラン華月が正面に見える位置に移動する。
ここならば視野も広く、背も守れる壁際ポジション。俺の立ち位置は完璧とまで言える。
ふと、隣に制服姿の女子高生が携帯を両手で握りながら地べたに座っているのが視界に入る。
『最新機種、か』
先日発売されたばかりの携帯を操作するそんな女子高生に視線が何故かくぎ付けになっていた。
地べたに座るなんてはしたない、とそんな事を思いながらそんな女子高生を見下ろしていると、チラリとこちらへ向けて顔を上げたその子と視線が交差する。
思わず視線を逸らすと、俺は最新の携帯良いなーって見てただけだから! と胸中で弁解をしていた。
それにしても。
茶髪のストレートは肩まで伸び、白い長袖のブラウスの首元にはピンク色の小さな色の宝石が埋め込まれたネックレスを身に着けている容姿を再確認した俺の脳裏に邪な思考がよぎるが必死にそんな思考を振り払う。
いや、あと少しでブラがみえそうじゃない? みたいなやましい気持ちは無いんだよ? 本当だよ?
チラ見を繰り返していた結果、折角広域を見る事が出来る位置をとったのに視野が極端に狭くなっている事に気づいたのは、既に約束の時間を3分程過ぎた頃だった。