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108.240リミットの脅威(2)

「お疲れ様です、お二階へどうぞ」


 ピンク色の着物を着た女将さんらしき人物がキリッ、と挨拶をしてくれる。

 二階にのぼると、窓側の一番奥の席へと案内してくれた。


「わぁ、道頓堀ですっ!」

「せやね、ちょっと緊張するわぁ」


 桃が外を見て喜び、AIが少しビクついている。


「あら、AI君ならこういう店も来るでしょうに?」

「いやいやいや、菜茶さんの腕前ならいざ知らず、二桁ランカーなんて全然稼げませんからね? それも格闘ゲームはただでさえ金額低いんですよっ?」

「その割に、雑誌で特集とか組んでもらっているじゃない?」


 女子高生プロゲーマーなんて、その希少価値だけでいくらでも儲けれそうな気もするけども。


「あれ、1ページ4万しかもらえませんよ?」

「よ、よんまん……」


 桃が凄い勢いでくいついてるね。


「まぁまぁ、お金の話もそこそこに飲みましょう!」

「綾君……まぁ、君は出来上がってからが本番だし、すまない!」


 謝った訳ではなく、近くに待機していた女中さんにかに酒を頼んだだけだからね。


「外側に若者二人と、私たちはこっちで良いね?」

「「「はーい」」」


 各々ドカッと椅子に座ってしまうあたり、誰一人として女子力は持ち合わせていなかった。


「ところで、このタイミングなんですが綾乃さんってアノ綾乃さん、ですよね?」


 まぁパッと見、アノ頃の清楚さは何処からも感じ取れない。

 いや、かろうじて見た目だけは清楚っぽいか。


「何よぉ、今失礼な事考えてたでしょ菜茶?」

「まぁまぁまぁ、ほら、これでも飲んで、さ?」

「ふぁぁ、良い匂い。ふふ、匂いだけで気持ちよくなってきちゃうわ」


 子供の前でどうかと思うが、まぁ本調子の綾君になってもらう為にしょうがない。


「お待たせしました、こちら前菜になります」


 かにみそドレッシングと称した黒っぽいソースがかかったサラダに、カニ酢が二種類。


「わぁ、キャニずくし!」

「こ、これがカニ!?」

「お先にー! いただきますっ」

「「あぁぁ!」」


 桃と愛が同時に叫ぶも、綾乃は口の中一杯にカニ酢を頬張ると、んぅふぅと変な声をあげながらキュッ、と酒を煽ってスタートを決めていた。


「ふたりとも、気にせずドンドン食べて。今日は私の奢りだしね?」

「「い、いただきます!」」


 私も始めるとしますか。


「いただきます」

『んふぅ』


 思わず変な声をあげてしまうところだった。


「カニって、カニって溶けるんですね!」

「これが最強の味っ」


 キャッキャッしながら次々に食していく。

 すべてを食べ終わる絶妙なタイミングで次の品、カニの天ぷらがやってくる。


「かにの天ぷらも絶品だからね。気に入ったら単品で頼んでも良いからね?」

「そんな、悪いですよ」


 愛君は真面目だね。

 だが。


「はむっ、ふぁっ!? 溶け、あっ、はむはむはむはむはむ」

「このつゆにつけても美味いのに」

「アァッ!? な、何故私の手の中には何も無いの? まさか時を止めた必殺技!?」

「おかわりは?」

「お願いします」


 愛君もこの美食を前に食欲を抑える事は出来なかったようだ。

 素直な事は良い事だ。


「くぅ、この汁物も良いわねぇ。お酒とのシナジーが素晴らしいっ! そう思うよね、ね二人とも!」

「こらこら、未成年に酒の話題を振るな」


 それに相乗効果シナジーて、お前さんは業界人か。


 その後もかに造りを食べ、メインである焼きタラバ蟹を無心でしゃぶりつくすように黙々と食事をつづけた。


「……このお寿司も美味しいです。ところで菜茶さん、私達何かお値段気にせず次々食べてるんですけど、本当に大丈夫なんでしょうか?」

「ん、子供ちゅうがくせいが気にする事は無いんだよ?」

「いえ、でもその」

「桃の言いたいことは良くわかるわ。私だってすこーしばかし調子にのっちゃったかなぁ、とか」

「一番食べてる子が良く言うわねぇ。まぁ、お姉さんたちのレベルになると余裕よ余裕、ね?」


 支払うつもりのないニートが何を言う。

 まぁ、資産だけなら私以上かもしれないが。


「大丈夫よ」

「そういえば、菜茶さんが上げる動画ってどれくらいコレ入るんですか?」


 愛君、結構お金が大好きだね?


「んー、ざっと月20くらいよ」

「あれ、思ったより貰えないんですね……ちらっ」


 伝票の金額をさりげなくサッと確認をして口をアウアウとさせる愛君、どうした急に?


「でも、見間違いじゃなければ10万超えているんですが……」

「ひっ」


 金額を口出すとは、まだまだお子様だね。

 桃も驚いて食べようと口に運んでいたお寿司がポトン、と落ちちゃってるじゃまいか。


「ぷっ、20万の半分持ってかれてるとかー、少し私も払おうか?」


 一応笑いながらも気遣ってくれているのだろう綾君だが、私にとっては大した金額ではない。


「一本がよ」


 シン、と卓に静寂が包まれた。

 恐る恐る、愛が言葉をつなぐ。


「一本、とは?」

「一本約20万。月に一回上げてるから、最近36本目をあげたし、後はお分かり?」


 固まる愛君に、桃が言葉で現実を受け入れようとする。


「20万が36本? えっと、月に20かける36の720の、一年は12か月あるから……8640?」


 何か最後が小声になったね?


「ちなみに、動画収入は完全に副業だから、本業はプロゲーマーだからね?」

「あっ、かに酒ダースでお願いしまーす!」


 何てげんきんなヤツなんだ。

 私の財布事情を察した瞬間、セーブする気を無くしたらしい。


「「あ、あわわわわ」」


 そんな驚き方、女子中高生で流行ってるのかしら? 今度何かあった時に真似よう。


「そんな訳で、気にせず貴方達は奢られなさい。それに情報収集の経過も知りたいしね?」

「情報収集?」

「そっ。実は……」


 料理も終盤というところで、やっと本題が始まる。

 カニめ、思わずもくもくと食べてしまったね。

 だが、後悔は一切無い。


 私達は共通した記憶が抜け落ちていた話を愛君へもするのであった。

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