107.240リミットの脅威(1)
新幹線に揺られる事1時間と少し。
多少値段ははったが、一番早いチケットを取り乗車するとあっという間に大阪に到着していた。
「お弁当食べる暇もないわね」
『菜茶、現実で食べてばかりでは無いか?』
『煩いわね、貴方が来る直前まで仕事してたっつぅの。おいてけば良かった』
『酷、菜茶のサポートをしていない間、どれだけ我が』
『あぁ、降車するから話しかけないでね』
『くっ』
片目レンズのモノクル状態のハウルがどうしても着いていくとダダをこねた為、装着してきている訳だが独り言を拾っては骨伝導デバイスで直接私に語り掛けてくるのはどうかと思うの。
まぁ、悪いAIじゃないし自由にさせてるけども。
私とAI君とで食事の約束をした翌日。
住んでる場所が大阪という事で、それなら知り合いとの情報連携もしたかったので一緒に呼んでも良いかと尋ねたところ、二つ返事で「オッケー、イイヨー」とメールの返信が返ってきた。
今回は私の奢りだし、たまにはカニでも食べるかという事で『キャニ道楽』に四名で予約を入れている。勿論、『夏の道頓堀フルコース、寒桜』一名様なんとたったの1万円(税別)である。
飲み物は別代金だが、好きなだけ頼んで良いとは伝えてある。
「やはりリニアモーターは早いな、11時に着いてしまった」
考え込むように顎に手をのせ思わず唸ってしまう。
約束の時間は12時30分とお昼時を選んだのに、失策だったか。
「あれ、菜茶さん?」
白シャツx黄色の膝丈まであるスカートを着こなす女優顔負けのサングラス女子が近づいてくる。
まさか、こんなにも基本形を着こなせるなんて流石は元そっち方面の人だ。
「早いね、綾乃君」
「菜茶さんこそ早いですね。先に一杯やっちゃいます?」
「こらこら、子供たちが来る前に飲める訳ないだろう? そもそも私は飲まないし」
「そうでしたね。それにしてもカニとか久々です」
「私も実は久々でね? それはそうと、何か掴めたかい?」
「……色々と。それは後でじっくり話しましょう」
「流石だね。期待しているよ」
時間を持て余す余り、正面にある服屋であれ可愛い、これ良いねとか良いながらお茶を濁す事きっちり1時間。
「お待たせしました」
礼儀正しく挨拶をするのは桃ちゃんだ。
まさかの白色基調のセーラー服を着て参上するとは。
「すみません。こんな場所で食事なんて、何着てくれば良いのかわからなくて……」
私が上から下までなめるように見ていたので、察したのだろう。
「いや、掴みは完璧だと思うよ」
「ええ。若いってそれだけで罪ね」
私たちは二度と袖を通す事が無いだろうその姿に、神々《こうごう》しさすら感じていた。
更に五分後、若干の遅刻で訪れたのはAI君だ。
私もだが、AI君もプロゲーマー故に知る人ぞ知る存在である。
「すみませーん。電車が人身事故で遅れちゃって、って桃ちゃん?」
「あれ、愛先輩?」
おや、どうやら二人は知り合いのようだ。
「菜茶さんが言ってた知り合いって、愛さんだったんですねぇ」
「私もビックリだよ、桜は元気? 何か番号もアドレスも繋がらないんだけど?」
「あっ、最近携帯壊れて新機種に変えたからぁ……そのせいだと思います」
「そっか。納得」
「積もる話もそこそこに、先に入店しましょう」
はい、と元気よく答える若者二人に思わずほっこりする私である。
入店すると同時刻、緊急ニュース速報が流れていた事を私達はまだ知らない。