106.銃之支配を奪い取れ(22)
「たぁぁあああぁっっっ」
次々と襲い掛かる空砲をトンファーで華麗に捌きだすAI君はどうやらとっかかりを見つけたようだ。
私も若いのに負けてられないね。
『ハウル、設定』
『設定、特殊設定……フレームレートを100fpsまで引き上げました』
私の瞳はゲーマーの反射限界といわれる12フレームレートの向こう側、つまり1フレーム刻み、0.1秒未満の世界も対応出来る。
それなのにどんなに集中しても見えない敵の攻撃ははて、どうやって攻撃を仕掛けているのか?
『解、フレームとフレームの狭間にその答えは隠れている』
『私の思考を読んでの回答ありがとうハウル』
『いえ、現実で探偵ごっこがだだ漏れでしたよ』
『……まぁ良いわ。故の設定変更よ』
フレームレートを引き上げても、基本的に意味が無い事が多い。
そんなに細かく動作するように作られているゲームとは思いのほか少ない。
設定を引き上げれば引き上げる程マシンパワーも必要になるわ、人の目では認識出来ないわ政策サイドはコストがかかるわで、結局60フレームという値に落ち着く。
『菜茶、視えたぞ!』
『ええ、予想通りフレームとフレームの間に隠れていたわね』
真理追求による自己強化。
今回ならばフレームを見極める為に、フレームを理解し、その上で視ようとする力を引き延ばした。
故に、神速は既に見切った。
私の反射神経は見切りも、決定力をも包容する。
故に、神速に対応する。
目に映るのは、男の子がおぼつかない手で握った銃で悲しそうな顔をして引き金を引く姿だった。
きっと君は早打ちのガンマンに憧れ、ただただ純粋にそんなヒーローになりたいと思ったのだろう。
見て知ったソレだけでは、銃の構造も良く知らないだろう?
目にも止まらない早打ちとは、フレームとフレームの間で行動することによって再現したのだろう?
そんな子供が、願いを叶えてしまい封印され、あまつさえ人に利用されるなんて。
面白くない設定だ。
「AI君、私も行かせてもらうよ」
「ふぇ」
背後まで近づいた私に気が付かなかったのだろう。
変な声をあげながらも、ガードしながら徐々に距離をつめているAI君を追い抜き私はその全てを躱しながら歩みゆく。
「少年、名前は?」
「……ナヴィ……」
「そうか、ナヴィ、悪夢の時間はお終いだ。ゆっくり休みなさい」
私が頭を撫でると、最後の抵抗とばかりに銃口を向けてくる。
だが、見えていれば問題無い。
銃口に腕をあてがい射線を逸らすと、発射された実弾は頬をかすめ後方へと去っていった。
そして私も同じ速度でKATANA(氷)で少年の旨を貫いた。
「おやすみナヴィ」
「みんなを、おねがいしま……」
『ヘルダンジョンのクリア者がまたまた誕生しました!』
『この調子でどんどんクリアをしていってくださいね! 頼みましたよ!』
『240リミットの脅威は、カウントを開始しております。最後の夏休みにならないよう、皆様の攻略お待ちしております!』
ログウィンドなんて邪魔で開いてなかったけど、こんなログが私達プレイヤーに通達されていた。
事後談になるが、AI君がせっかく調子上がってきたところで私に先を越され、不機嫌そうだったので現実での食事で誤魔化したことをここに記しておこう。