105.銃之支配を奪い取れ(21)
私は奴の放つ攻撃を見極めれないかと、距離をあけたまま構える。
打って変わって、AI君はあくまで肉弾戦を所望のようだ。
「てぇぇぇやぁぁぁきゃああああ」
加速の途中、モロに被弾したようで足を空回りさせながら派手に背中から倒れ込んでいた。
奴も一瞬怯んだが、流石にあんなダイナミックに足をおっぴろげて倒れれば目に毒だろう。
『ハウル、視えたかしら?』
『否、捉えていません』
ハウルの反応も鈍い。
どうやら処理不能の状況に演算機能も悲鳴をあげているようだ。
「もー! いったぁぁぁっぃ!」
バク転の要領でぴょんっと起き上がるとタタタタタンッ、とやけに小刻みなバックステップで距離を開けた。まるで格闘ゲームのキャラでもみているような動きに、思わず苦笑してしまう。
「近づけない遠距離持ちって、マジ嫌いなんですけど!」
「動きが完全に格闘ゲーム仕様ね」
「えっ? そりゃなりきりって大切ですよ! 格ゲーしながら体動かせるって、素敵じゃないですか! それよりも、あいつ嫌いなタイプですっ!」
頬を赤らめながら言うAI君は、強敵を相手にどう攻略しようかと興奮を隠せないようだ。
そりゃ、こんな理不尽な相手は普通のゲームじゃ出てこないものね。
「だけど……」
「「それがいい!」」
二人で特攻を仕掛けるも、同時に被弾。
予め被弾の覚悟をしていたものの、実際に食らう空気砲は思いのほか強力で。
「「キャ」」
二人して乙女声をあげてしまう。
今の被弾で無念にも上着が完全に消滅してしまった。
AI君に関しては既に上下ともに下着丸出しとなっている。
かくいう私も、ホットパンツとブラだけという姿になっているが。
「ルバーがのびてて良かったよ全く」
これでも乙女な私なのだよ。
別段隠していたわけでもないが唯一ドロップしてた上着装備、質素なローブ(白)を着るとAI君も装備を変更していた。
「で、何故レースフリルドレス(ゴシック黒)なんて持ってるんだい?」
「道中でドロップしましたよ? さっきまでの服も良かったけど、これもリアルじゃ着れないから新鮮です! 菜茶さんこそ、何故ローブ?」
「……動きやすいからよ!(これしかない)」
「なるほど!」
こんな会話をする暇を与えてくれる、むしろ殺してくれと願っている奴は今か今かと待ちぼうけをしている。女子トークは苦手と見た。
「それにしても、これどうしましょうか」
「フレーム単位でキャラの動きは見えるかい、AI君は?」
「うん? 勿論ですけども?」
12フレーム。
パラパラ漫画で例えたらわかりやすいだろうけど、人の目の認識能力は1コマ1コマの動きを繋げて動きとして認識している。
格闘ゲームならば、1/60秒(1フレーム)が主流で、人間の限界と言われているフレームが見えるというのは12フレーム(約0.2秒)を見極める事を指す。
「(12)フレームの向こう側を見なさい!」
「……そういうことっ!?」
再び駆け出す。
私も、AI君も必死にフレームの動きを確認する。
しかし。
「くっ」
今回は直感が働き回避が出来たが、AI君は三度被弾。
「いっつぅぅぅ、でもっ」
どうやらガードが間に合っていたようだ。
神速だろうが、フレームの向こう側の認識を始めだしたのだ。
これまで必要の無かった限界突破が今始まる。