102.銃之支配を奪い取れ(18)
「まだ下の階層までは少しあるようだし、同じ説明も何だからハウル、AI君に説明を頼む」
『ワカッタヨ』
まだいじけているのか? ボリューム小さいから、AI君たちに声が届かないから。
な? 相棒。
『それでは祈願者の封印と救済について説明しよう』
「わっ、どこから聞こえてくるのコレ?」
突然の電子音にキョロキョロするAI君に、ルバーが私の頭付近を指さして説明している。
ふんふん、と素直に聞く辺り何だかんだで仲が良いのかもしれないな。
私達は突然沸くする機械機兵をバッサバッサと『殴り』進みながらハウルの説明をBGM代わり進行する。
『人間とは、願い事を強く願う事によりそれを実現化させる力を持っている。
その願いを叶えた者は祈願者として存在するものの、誰もが己が欲望のままに願い事を無秩序に叶えていくあまり、種の滅亡はあっという間にカウントダウンに入った。
それでも僅かな人間は生き延びる術を模索した。
その結果、願い事を叶えた者には代償を、その力の制御を、様々な制約と全滅の回避策を模索した。
祈願者は宇宙船に封印され、色んな便利な力を組み合わせ独自の生活圏を手に入れていき、それぞれの宇宙船で人類は再び生存を開始した』
『ここからが本題だ。
祈願者は宇宙船の中に封印され、ダンジョンの最深部で眠っている。
起きるまで不老不死の状態で、起こすためにはダンジョンを突破して祈願者の願を受け入れるとめでたく祈願者は目覚める。
祈願者には勿論、自我を持ち再び自由にその力を扱うだろう。
だが、救済者には絶対の服従を誓う祈願が、祈願者の自由を奪っている。
故に、ダンジョン攻略者は祈願者を連れて生きると言われている』
「ねぇ、そっちの敵やばくない!?」
「問題無い、それよりも機械機兵20体は任せたからな」
「くぅ、少しはこの武器の練習しとけばよかったかな。なぁんてねっ!」
「トンファーか、使い勝手がよさそうじゃないか」
「私、トンファーって最強の武器だと思うのよね」
「最強、ネッッ!」
ガインッ、と巨大な拳と自らの拳がぶつかり合う。
そんな右手を繰り出した状態の私の更に右奥から巨大な拳が迫ってくる。
刹那。
接触していた拳を開き、巨大な拳に手をつけると跳び箱でも飛んで見せるように腕の上へと跳躍してみせる。
「ふふ、これなら中距離での魔法は使えまい?」
私が先ほどまで居た場所は巨大な拳が通り過ぎ、空を斬る。
いつまでも手加減してもらえるなんて、思うなよ?
私は手にドロップ品の一つ、KATANA(氷)を出現させると一閃。
操縦席に座っていた5体の機械機兵達はたった一度の薙ぎ払いで全滅していた。
そんな私を脅威と見たのか、魔法の詠唱が聞こえる。
「「マジック!」」
着地と同時にKATANA(氷)を強固な地面に突き刺し、氷のフィールドを展開しつつ片手でスクロールを切り裂く。
使用するは加速(中)。
足元の氷がグラグラと沸き立ち、次の瞬間には火柱があがろうとしていた。
しかし、着地というタイミングを狙ったまでは良かったが詰めが甘い。
「シッ!」
低姿勢からの瞬間加速で魔法の影響範囲から逃れると、そのままの勢いで下から思いっきり蹴り上げる。いわゆる打ち上げというやつだな。
体を宙に浮かせた巨大ロボに、素槍を装備してニヤリと大きく投げの体勢に入る。
「ハッ!」
ブゥン。
空を豪快に裂く音と共に素槍は真っ直ぐに宙に浮いた巨大ロボの体を射抜いていた。
「やっぱりね。攻撃力が1の武器だろうと加速とかで大幅に火力はあがるって証明ね」
『是、銃で既に検証を……って違う! 違うぞ菜茶、確かに移動しながら聞いててくれて良いとは私も言った! だが、何だ!? 私の説明を誰も聞いていないのではないか!?』
少し憤怒の感情を交え、興奮して話し続けるハウルは正直耳元で少しやかましい。
「聞いてる聞いてる、それで? 何だっけ、ああ、呑み込まれたってところだよね確か。私、教えてほしいなぁ」
私もルバーも、既に事情は知っているもののハウルが得意げに話したがるのでお任せしよう。
私の敵は全て消滅したのだから。
『絶対服従の祈願者達だが、救世者の身に事故が起きた場合。
端的に言えば死んだ場合は祈願者が自由になる、本当の意味で自由に。
願い事の力を持ったまま世に放たれるわけだな』
『ダンジョンが揺れるというのは、祈願者が自由になる楔が外れた衝撃ともいわれているらしい。主従関係の復活には、祈願者の願い事を奪い取るか、命を奪い取るかの二つに一つだ。
余談だが、宇宙船自体が揺れたというパターンもあり得るそうだ』
「そういう訳だから、私たちはこの先に居るだろう祈願者の大切なものを奪い取るするのが今のミッションよ」
「わかりやすくて上等!」
「ッカァー! でもお前さん達見てると何でもありな気がするから末恐ろしいぜ」