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interlude ①
情報処理部がある工学部棟。その建物の傍に一人の人物が立っていた。
強さと優しさを感じさせる黒真珠の瞳。朝日のように光り輝く白い衣。全身から発せられる神秘的な雰囲気。見た目の年齢は学生たちとあまり変わらないものの、その中性的な容貌は完璧なまでに均整がとれていた。
近くを学生が通り過ぎる。一人、また一人と立ち止まることなく去っていく。誰もその者の存在に気付いていなかった。
視線は地面に注がれている。正確に言えば、地面のその先、建物の地下の羽悠真たちがいる部室を見ていた。
「『全てのことには定まった時期があり、天の下の全ての営みに時がある。』彼らの出会いは既に決まっていたことでした」
羽悠真は知らない。昨日の夕方、この者が彼をずっと見ていたことを。ある時は木の陰から。またある時はビルの屋上から。そしてある時は道路の反対側から。
「あなたがたの未来が豊かなものであるように」
独白が終わると同時に、学生がまた手前を通り過ぎる。直後、その者の姿は消えていた。そのことに気付いた人間は誰もいなかった。