世界観の説明までいけなかった件
小説書くのって楽しいですね
「――ゃ様!?」
(おっぱい、おっぱい)
現在、ハープのような綺麗な声音をどこか遠くに聞きつつ、和也はおっぱいのことだけ考えていた。
荘厳な場所、真剣さを増す空気感。
でも、そんなことはお構いなしにおっぱいのことだけ考えていた。
しかたないよね。童貞だもの。
「大丈夫ですか、勇者様!?」
「――うぉっ!?」
肩を左右に揺らされて、おっぱいワールドから強制的に意識を戻される。
横を確認すると、先ほどまで丸いテーブルを挟んで自分の真正面にいたはずのアーシアが心配そうな表情を向けている。そして視界にあふれんばかりの揺れる山脈。
「勇者さ…………あらあら、うふふ。ごめんなさい、気づきませんで」
不安から恍惚へと変化したアーシアの視線の先には、ここに着いた際に借りたばかりのシルクでできたズボンが、はちきれんばかりにとんがっているさまだった。それまでテーブルで隠れていたが、ばっちり彼女の双眸に飛び込んでしまった。
それにしても、かなりダボダボなサイズを選んだにもかかわらずこれである。
「そ、その……男性はそうなってしまうと苦しいんですよね? この世界のへにゃへにゃな男でも、処理しないと集中できないと聞きますもの。勇者様のご立派なこれでしたら、その辛さは相当のものでしょうね。……お、お話に入る前に、出してしまいましょうか? も、もしお望みなら、わたくしたちがお手伝いを――」
「い、いや大丈夫だから! 我慢できるから! 状況説明を始めてください!!」
神殿でこれでもかと生の状態を見られているのだ。今更ズボンの上からいくら凝視されようが、もう麻痺してしまったのかどうということもない。
だが、そういうふうに変に気遣われるのは別の話である。何度も書くが、彼はまだ童貞なのだ。気恥ずかしさで爆発しそうだった。
「……そうですか。それは個人的には残念ではありますが……。でも今回は勇者様のご厚意に甘えさせていただき、こちらのお話を優先させていただきます。個人的には残念でありますが」
(どんだけ残念なんだよ! ……いや、俺も残念だったんじゃないか? 千載一遇のチャンスを……)
心底意気消沈といった様子で自分の席に戻るアーシアを眺めながら、そんな思考にいきつきそうになり、
(いや、いや、いや! ここは辛抱だ! 我慢だ! 忍耐だ!!)
首を振って、その考えを脳内から追い出す。
そもそも彼が意味不明な呼びかけに応じてこんなところにやってきたのは、まだ見ぬ素敵なブスとの素晴らしい初体験を夢見てである。
理想の初エッチの妄想することは、処女にも童貞にも公平に与えられている。
いまだにブスと呼べる人物をたったの一人も見かけないのは気がかりだが、彼は自分の夢実現のためにも耐えることを選ぶ。
そんな夢見る青年でなければ、神殿でアーシアの裸を目撃した時、すでに飛びかかっていたに違いないのだ。
(……それでも)
和也はテーブルに着席している女性陣を眺めながら、
(やっぱり、この状況を我慢するのはキツイ)
直径三メートルほどの大理石の円卓に集められた、アーシアを含め総勢九名の女性陣。
一人の老婆を除き、全員が美女、美少女。その中には、神殿で階段の上にいた三人の美少女の姿もある。
その全員が、先ほどのアーシアの言葉に一喜一憂していた。今は、一目見てわかるくらいの気落ち。どれだけ、自分の下の処理を手伝いたかったのか。そう考えるだけで、辛抱たまらなくなる。
ちなみに九人の中で、一番落胆が大きそうなのが老婆なのだけが気になったが、見なかったことにしている。和也はブス専ではあるが、けっしておばあさんに欲情する趣味はないのだ。
「……それでは」
再び自分の席に腰を下ろしたアーシアが凛とした声を発し、和也を含めた全員をぐるりと見まわす。
その瞬間、残り八人の雰囲気が一変する。アーシアと同様、一般人ではないと確信できる空気を身にまとう。
おそらく、というか間違いなく全員が町の有力者なのだろう。美少女三人組はこういった場所にいるにはまだ幼い気もしたが、長があの若さで立派に勤め上げているのだ。神殿では一番前でひざまずいていたし、年功序列な日本的感覚は捨てたほうがよさそうだ。
(なにより、たぶん俺を呼び出したあの声は、きっと彼女の――)
「わたくしたちが、傲慢にもこんな場所へ勇者様をお呼びさせていただいた理由。ご説明させていただきます」
和也がちらりと赤髪の美少女を見た刹那、そうアーシアの言葉が紡がれた。
次こそ世界観の説明回です。