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でか珍が異世界転移をしてみた件

 梅雨から夏に移り変わる時期特有のじめじめとした蒸し暑さから、クーラーによって完全に隔離された快適なワンルームアパートの一室。


「――うっ……ふぅ……」


 その日何度目かもわからない自慰行為を終え、ほんらいの役目を果たすことなく行き場を失ったおたまじゃくしの群れを、ティッシュの残骸ごと県指定の特大ゴミ袋にシュートする。


「……さて、次のおかずはどうするか」


 そうひとりごちながら、彼――剛力和也(ごうりきかずや)はネットサーフィンを再開する。

 和也は大学一年生。一流とはとても胸を張って自慢できないが、二流でもない。そんな大学に春から通うごく普通の青年だ。幼さの残る顔に、細マッチョな体格。どこの町にも複数人いそうな感じだが、彼には一つ――いや、二つ大きな特徴があった。

 一つは、下半身に特大の『エクスカリバー』を保有していること。

 

 そしてもう一つは、伝説級の性豪――つまりは絶倫男なのである。


 彼のエクスカリバー――つまりはち〇こ(この先は珍子と表す)は、小学生時代から規格外だった。子供ながらに大きさを気にし始めたころには『アナコンダ』というあだ名を付けられ、同級生男子からは畏怖の念を抱かれた。

 そして、その巨大な珍子に相応しいとしか言いようがない絶倫性を有している。

 彼の部屋にゴミ箱はない。すぐに満杯になり移し替えなければならないので、ゴミ箱の意味がないのだ。

 和也が先ほどティッシュを投げ入れたゴミ袋は実に45リットルも入る一番大きいサイズ。そのゴミ袋が、今日下したにもかかわらず、すでに溢れんとしている。その中身は、小一時間前に食べたポテトチップスの袋を除けば、すべて彼の子種を吸収した紙屑だった。


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか?)


「……なんだ? なんか変な広告踏んだか?」

 新しいエロ動画を探していた和也は、面倒くさそうに呟きながらその声の原因をスクロールして探す。

 最近はマウスのカーソルが上を通過しただけで始まる広告や、それどころかそのページに切り替わっただけで流れる広告があるから厄介だ。たまに、音量調節間違ってるだろうと訴えたくなるような大音量のものもあるから(たち)が悪い。


「あっれ……おかしいな。どこにもないぞ」

 

 和也は開いていた無料エロ動画サイトのページを上から下の隅々まで探すが、それらしい動画広告は見当たらない。


「……そういえば、さっきの少し――」


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか?)


(やっぱり!! てかなんだよこれ!? 怖い怖い怖い)


 和也は耳からではなく脳に直接訴えかけてくるその女性の美声に驚愕しつつ、座っていた椅子を倒しながら慌てふためいてパソコンからの距離をとる。

 さっきはお目当ての動画を探すことに集中していてスルーしてしまったが、思い返せば確かに最初の時もこうだったのだ。鼓膜を震わさず、頭の中で響くこの感覚。


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか?)


 そんな狼狽える和也を気にもとめず、謎の女の声は一定間隔で語りかけるようにその質問を繰り返す。


「なんだよなんだよなんだよ!? 幽霊か!? 事故物件だったのか!? そんな話一言も聞いてないぞちくしょー!!」


 少しでも怖さを紛らわせようと、和也は少し大きめの声でまくしたてながら、頭と体を四方八方にぐるぐる回して怪奇現象を探す。


「ブスの動画ばっかり検索してたから、そのせいで出た普通の広告だと思ったのに……」


 この頃のネットでは行動ターゲティング広告なんてものが流行っていて、訪れたホームページに紐づいた広告がほかの場所で表示されるなんてことがよくある。

 彼はその日のおかずを探す際に、必ず『ブス』や『不細工』といったようなワードを付随させる。


 そう、剛力和也は世間一般で言われるところの『ブス専』だったのだ。


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか?)


 なにが起こっているのかまったく理解できず、ただただ混乱する和也にその問いかけは続く。


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか?)


 すでにクローゼットもユニットバスも扉を開いてみたが、幽霊の姿はどこにもいない。


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか?)


「……あ、はは。俺は夢でも見てるんだろうか」


 もうその女の声を何回聞いたかもわからなくなり、半ば思考を放棄しようとしたその瞬間――


(――あなたは、ブスでも抱いてくれますか!?)


「……えっ!?」


 今まで声の抑揚もほとんどなく、壊れたスピーカーのように繰り返されてきた問いに、初めて感情が乗った気がした。それはほんのわずかの焦り、でも確実にそれまでとは違うものだった。

 その声の変化を聞いた時、和也はそれまでの恐怖が消え去った気がした。

 美しい声がゆえに無機質なことで怖さが何倍にも増幅されていたが、感情の有無の存在に気づけたことで、意思疎通のできる相手かもしれないと思えたからだ。


(――あなたは、ブスでも――)


「――わかったよ! 俺なんかでよければ抱いてやる!!」


(――っ!?)


 さらに焦りを増した質問が投げかけられた刹那、和也は腹からの大声で返す。


「俺なんかでよければ! でかいだけで、童貞だからテクなんかなんにも持ってない俺なんかでいいなら、いくらでも抱いてやる!!」


(そうだよ。童貞のまま生涯終えるかもしれないと思ってたところに、たとえ幽霊でも卒業チャンスが巡ってきたんじゃないか! しかも自称ブス。……好みのブスかはわからないけど贅沢な悩みだろ)


 和也はこれまでの数々の経験によって、女性との性行為の実現に悲観的になっていた。

 べつに特段女の子が苦手というわけではない。仲のいい女友達も大学に入ってから何人も作れた。

 ただ、女性に自分の下半身を晒すことに極度の抵抗を感じているのだ。

 そんな彼に降ってわいた大チャンス。幽霊相手といえば、最後は精気を全部吸われてしまうなんてオチがよくあるが、和也はそれでもいいなんて思っていた。

 いや、もしかしたら、まだどこかで現実味を帯びてないからそんなふうに考えられただけかもしれないが。


(あなた様の声、やっと聞こえました。救世主様、あなたでなければ駄目なんです。わたしたちの呼びかけに応えていただき本当にありがとうございます! よかった……本当によかった……)


 心から安堵したようなその涙声に、今度は戸惑ってしまう。


「きゅ、救世主!? そんな存在じゃないよ俺は……。大きさと回数はすごいけど、でかすぎるのもあんまりよくないって聞くし。満足したいならAV男優のところにでも行ったほうが……」

 

 彼女の言っていることはよくわからないが、自分がとても救世主なんて称されていい器ではないことだけはわかる。抱いてくれなんて希望なんだから、当然セックス――性技にかかわることだろう。

 これまで様々なテクをネットや本で研究しては脳内で試してきたが、実際にやったことは一度もない。

 ただ抱けばいいと思って快諾したのに、救世主とかどう考えても荷が重すぎる気がした。


(……それにわたしたちって……もしかして――)


(先ほどからところどころこちらの世界では聞き及ばない言葉がありますが、とにかくあなた様しかいないんです! それが神器に導かれた、ただ一つの答えですから)


「そっちの世界? 神器!?」


 彼女の『わたしたち』という単語に引っかかりを感じていると、今度はすかさず『世界』や『神器』なんていういやでもスルーできない言葉が続く。


(とにかく、もう時間がありません! 詳しい話はこちらに来てからさせていただきます)


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てえええ! もう少しちゃんと説明をををををおおおおおおおおお!?」


 和也の叫び声をかき消すように、部屋が白い光に包まれる。

 先ほどまでクーラーでガンガン冷やされていたとは思えない暖かさ、でも決して不快ではないそれで和也の周りがすべて満たされた刹那――


「ようこそ、救世主様! わたしたちの世界、シルバーフェザーへ」


 出迎えたのは、ひざまずき、胸のあたりに手を当てて忠誠を誓うようなポーズを取っている、大勢の美しい女性の集団だった。

『珍子』の公式呼称は『めずらしいこ』です。

『珍子』の文字は今後も数えきれないくらい出てきます。

なのであくまでほんらいは『めずらしいこ』ですが、読者様の一番読みやすい言葉で読んでください。

ちなみにサブタイトルの『でか珍』は『でかめずらしい』が正式な読み方です。

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