ロリと一緒に世界をいじる
俺、伊佐野凪はとあるゲームにハマっていた。
アース・プロペティ——通称アプロと呼ばれるゲームだ。
アプロは地球型惑星を舞台に、地形を弄ったり、国を作って戦争させていくゲームだ。
凄い中毒性があって、俺もかなりの時間連続プレイをしていた。
まあ、人間は喉が乾くし、腹も減る。
だから、一旦プレイを中止して、昼飯でも食おうと部屋を出たのだ。
「で、この状況、説明してくれるよなぁ?」
「やったああああ! 成功したよおおおお!」
聞けよ
壁も天井も一面真っ白な部屋。
素足の感触からして石造りだ。冷たい床で足が冷えていくのを感じる。
そんな部屋に佇む俺の前に立つのは、黒い長髪にもみあげだけが白髪の小学生くらいの少女。
後ろを見ても、今さっき出てきた自分の部屋は見えない。
白い壁があるだけだ。
とりあえずうるさい白黒ロリにチョップを叩き込む。
「うるさい」
「いったいよ! 何するの!」
「いいから答えろ。ここはどこなんだ?」
「フェヴの部屋だよ」
「部屋だよ、じゃないよ。なんで俺はこんな所にいる! というか俺を部屋に戻せ。昼飯は諦めるから、アプロの続きがやりたいだよおおおお!!」
俺が心からの方向を上げると、白黒ロリ——フェヴがキラキラした目で俺を見てくる。
ふっ、まあ無理もない。俺のように何かに熱中する男に、無垢なるロリが一目惚れしてしまうのは仕方ない。
「凄い! 何よりも世界のことを考えてる。プロだぁ!」
「プロ? なんのことだよ」
俺はアプロが大好きだ、やりすぎて倒れたこともある。
でも、アプロにプロはいないが、プロと呼べるほどの腕はない。
「お前、何か勘違いしてないか? 俺はアプロが大好きだが、実力はセオリーを覚えた素人レベルだぞ」
「え? でもあなたは神様で、チガウ世界を発展させてきたんでしょ!」
会話が、カーミアワナイ
「失礼な、俺の名は伊佐野凪、黒髪黒目のスタイリッシュ高校生にして誇り高きアプレイアーの一人だ!」
「ええええ! 神様じゃないの?!」
「神ではないな。強いて言うならアプロを信仰する、信者の一人だ」
「そんなあ。それじゃあフェヴはどうしたらいいの」
フェヴはへなへなと床にへたり込んだ。
何やら事情がありそうだな。仕方ない。
ショックを受けたロリを放置したら、アプレイアーの名が泣くというものだ。
「おい、フェヴとか言ったな、話してみろ」
「実はね」
フェヴがおもむろに手を伸ばし、手を開く。
すると、手のひらの上の中空に画面が浮かび上がった。
「うぉわっ!」
びっくりして尻餅をついた。
フェヴは、画面の端を摘むような動作をして、画面を裏返す。
画面にはかなりの上空から撮影したと思える、街の映像が映っていた。
街からは黒煙が上がっていて、ただ事じゃないのがうかがえる。
「フェヴね、神様なの。でも下手っぴで、いつも失敗しちゃうの。だから、別世界から神様を呼んで、助けて貰おうと思ったんだよ」
「そしたら俺が来たと」
これはアレだ、俺は異世界に呼ばれたんだ。
それも、勇者とかじゃなくて、神様の手伝いとして。
目の前の画面を見る。
なんだかどことなくアプロに似ている。
ゲームではない、画面越しに見えるのは現実だ。
意外に面白いかもしれないな。
「ふっふっふ。事情は分かった。この凪が、お前の手伝いをしてやろう!」
「でも、大丈夫なの?」
「よく考えてみろ、神様を呼ぼうとして俺が呼ばれた。それすなわち、俺が神様よりも優れていたということだ!」
ぽかんとしたフェヴが再び目をキラキラさせてきた。
「そうだったの、凪は神様よりも凄いんだね、これで安心だよおおおお!」
「うるさい。それと操作方法を教えて貰おう」
頭頂部をさすりながら、フェヴは言った。
「ここに触りながら、サッとしたりポチッと押すんだよ。後、つまんでグワって動かすとバッとなったり、スッと広げたりするの!」
なるほど、分からん
「まあ、操作なんてやりながら覚えればいいんだけど。えっと、サッとするんだっけ」
とりあえず、画面を軽くタッチしてフリックしてみる。
気分はタブレットだ。
街を映し出していた映像がものすごい速さで動いていき、山間の村の上あたりで停止した。
「うおお! 凄いなコレ」
横から覗き込んでくるフェヴを見ると、不思議そうに首をかしげていた。
いつもしているから珍しくもないのだろう。神だと言ってたし。
ただいま、村を中心として映像が映し出されている。
操作感はタブレットやスマホに近い。
どんなことができるのか、いろいろと触ってみたいが、いきなり村でやるのは危険だろう。
そう思ってとりあえず、すぐ横の山を長押しタッチしてみた。
ドッカーーン!!
轟く爆発音。
標高200メートルの山は内側から破裂したように吹き飛び、大量の土砂と瓦礫が津波のように襲いかかり、村は飲まれた。
「何してるのおおおお! 村が下敷きになっちゃったよおおおお!?」
「違うんだ、違うんだ」
やっちまったああああ!
山を長押しタッチしたら破裂するとか、想像できるか!
「これ、ご臨終なされた人達はどうなるの?」
フェヴをなだめながら、震え声で言った。
「死んじゃった人達は、ここに貯められるよ」
「これって、何のマーク?」
「魂のマークだよ」
右上の不定形の光るマークは魂を示すようだ。
「もしかして、死んだらここから転生する感じ?」
コクリとフェヴは頷いた。
「ほっ」
「安心しちゃだめだよ!」
「悪い」
いろいろとやっちまった感が凄いが、気を取り直していこう。
今度は人のいない場所でやるか。
そう思って、しばらくいい場所を探していると、
「何だこれ?」
荒野のど真ん中に、巨大な禍々しいデザインの城を見つけた。
「ああっ!」
ぐいっとフェヴが、画面と俺の顔の間に頭をねじ込んできた。
「いきなりどうした」
「これ、魔王だよ。どうしよう」
「魔王ということは、敵で消すべきなのか?」
「放置すると、魔族を沢山作って、いろいろ壊すんだよ。だからどうにかしないといけないんだけど」
「ふーむ。なら、いろいろ試すのに丁度いいな」
手始めに、山を吹き飛ばした長押しタッチをしてみる。
しかし、バリアみたいなものが表示されるだけで、何も起きない。
まあ、これで壊せたらフェヴも困らないだろう。
次は、魔王城周辺の地面を長押しタッチ。
ゴゴゴゴ
「おっ揺れた」
画面の中で、魔王城が大きく振動するのが見える。
しばらくタッチを続けると。
どんどん揺れが大きくなる。だけど、
「壊れない。丈夫すぎだろ」
未だ魔王城は健在だ。傷一つ付いてないように見える。
「だめだっ。フェヴ、何かないのか」
「うーん。じゃあ、これなんかどうかな」
フェヴがタッチしたのは左上のマークだ。
何かの一覧が表示される。
その中の一つが俺の目を引いた。
「これは、隕石か?」
くくっ、丁度いいこれで穴だらけにしてくれるわ!
俺は隕石を選択。
試しに魔王城をタッチすると、隕石が空から降ってきて激突した。
爆音と巻き上げられる土砂。
大量の煙から魔王城が姿を見せた。
おおっ。壊れてないけど、なんかダメージが入ってる。
「それならば受けるがいい」
そのまま魔王城とその周辺を連続タッチ。
隕石絨毯爆撃
雨のように隕石が魔王城に降り注いで行った。
しばらくの時間が経った。
フェヴは退屈だったのか、横でお昼寝してる。
目を擦りながら、フェヴが起きた。
「あっ、凪! 魔王はどうなったの?」
「ん? ああ、それならこれを見ろ」
魔王城は結局壊れなかった。恐るべき強度だ。
しかし、第一隕石絨毯爆撃で魔族のようなものが、わらわら出てきたのだ。
そいつらを隕石で吹き飛ばして行ったのだが、魔王城がある限り出てくるようだった。
なので俺は方針を変えた。
「な、なにこれぇ!?」
今や魔王城は溶岩の海に浮かぶ絶海の孤島。
しかも、溶岩には溶岩ゴーレムとかいう、神の下僕を配置して移動をさせない。
定期的に隕石が降り注ぎ、外に居るだけで命の危機が。
空から逃げることができないように、一万匹くらいドラゴンを放ってやった。
そのうちの数匹くらいが、近くの国を破壊してしまったが、まあ必要な犠牲というやつだ。
こうして、究極のリスキルで魔王の脅威を世界から取り除いた俺だった。
「まあ、これからも世界の繁栄の為、手伝うぜ。よろしくなフェヴ」
バタン。
白目を向いてフェヴが気絶した。