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全面的に修正しました。ストーリーに変更はありません。

 シャグマの行方を探し、神託の解読者を探す。

 アリーゼの入学を待つという最終切り札を捨てざるを得なくなってしまった今、ミオンは、途方に暮れている。


(アリーゼを待つのは良いと思うんだ、うん)


アルファドが洗いざらい話してしまったので、結局、サロンメンバーも強制的にシャグマと神託の解読者の捜索に加わっていた。

 とはいえ、捜索の実権は王宮とアビアナにあるので、メンバーがどこかに出向くということはない。サロンの開催を延期して、代わりに各自が提案を持ち寄って話し合うという日々が続いている。それはいいのだが、会の終わりに、何か意見はと求められて首を振るのがここしばらくのミオンの役目となっているのが心苦しい。何度頭を捻っても、アリーゼを待つこと以外に、何も思いつけないのだ。


(シャグマさんが王都にいるって話だって、あやふやだしなあ……)


 神託の解読者たるアリーゼは、放っておいても向こうからやってくる。問題は、シャグマだ。ハベトの自治領を出た後の足取りはほとんどわかっていないという。


「だから、秘密教団の動きを掴むのが早いだろ。こんなあからさまな活動してるんだ。騒ぎになる前に身中の虫を出せと脅せばいい」

「そりゃ、逆効果じゃないか? 時間もかかるだろ。短時間に決めるなら、まずは王都にいるハベト族を洗い出した方が早い」


 シャグマ捜索について、神殿関係者を徹底的に洗うべきと主張するロネと、王都にいるハベト族を探すべきと主張するクアイドが、本日も初っ端から意見を戦わせている。ティオナも参戦して、三つ巴の闘争に発展する寸前で、途中からやってきたエリューサスとアルファドが、流れを変えた。


「これが、一番似ていると思われる姿絵だそうだ」


 アルファドが出してきたのは、小さな額に入れられた肖像画だった。アビアナよりはくすんだ感じの黒髪を短く整え、バイアム教の神官服を身にまとい、真摯な目をこちらに向けてくる一人の青年の絵だ。


「少しばかり古い感じがしませんか?」


 ざっと眺めて、クアイド。鋭いねと、アルファドは苦笑する。


「シャグマ殿の十九歳の時の絵だそうだよ」


 そもそも、顔もわからない人を探すのは不可能だというミオンの苦し紛れの意見は、そのままアビアナの耳まで届けられた。結果、十日以上経って、エリューサスの元に一枚の似顔絵が送られてきたというわけだ。残念ながら写真技術は、王国以上に広まっていないらしい。


「あの、シャグマさんて、いま何歳なんですか?」


 尋ねたのはニスモアだ。室内にはジェラール以外のメンバーが揃っている。ジェラールは、あれからずっとサロンに姿を見せていない。今日も欠席だ。授業にも出ているし、寮でも見かけるとクアイドが言っていたので、単にサロンに出てきていないだけのようだ。エリューサスに相談してみたが、放っておけと言われたので、誰もジェラールのことに触れない。ミオンとしては、少し寂しい。


「三十二、三、くらいだそうだよ」

「十年以上も前か……」


 これは厳しいと、ロネもぼやいた。皺でも描き足してみようかと、クアイドが茶化す。予備の絵があれば、ほんとうにやりそうだ。


「ここから年を取ったらどうなるかって絵の描ける人って、いるかしら」


 似顔絵を見つめてティオナは真剣に検討しているが、そんな技量の持ち主には誰も心当たりが無い。


「ミオン、どう?」

「えっ?!」


 マギーにつつかれて、ミオンは思わず声を上げてしまった。


「あ、すみません……」

「ねえ、もしかしてどこかで見覚えがあるの? すごい顔して見てたけど」


 ミオンは慌てて首を振った。


「えっと……ううん、似てる人いないかなって考えてて、でもこれって十年前の絵だからそっくりの人探してもダメだよねって……」


 その場を取り繕いながら、ミオンは一つの確信を持っていた。ただ残念なことに、この確信は、シャグマに直接繋がらないかもしれない。

 シャグマの過去の姿がわかっただけで、本日のサロンもどきは終了した。ミオンはマギーと共に寮に戻ると、急いで夕食を食べて、早々にベッドに潜り込んだ。


「今日はずいぶん早いのね?」


 怪訝そうなマギーに、疲れたからと言い訳をして、ゆっくりと、目を閉じる。


(あのとき、アリーゼは子猫を追いかけて……)


 以前も辿った記憶を、もう一度、出来るだけ詳しく辿る。

 ――子猫を連れ去った人物を追いかけたアリーゼは、薄暗い路地奥で、ある建物を見つける。こっそり入り込むと、そこは魔神を召喚して王国を支配しようとする秘密教団のアジトだった。その召喚の儀式に、子猫や他の動物たちが生け贄として使われると知って、なんとか助け出そうとしているうちに逆に掴まってしまった。現れたのは片目しか描かれていないマスクを付けた教団の男。アリーゼに向かって、『喜べ。魔神召喚に成功したら、最初に犠牲者になる栄誉をやろう』と高飛車に宣告した。


(そう……この人が確か教団幹部……)


 絶体絶命のアリーゼの元に駆けつけたのは、ギノを含む、王国の騎士達だった。アリーゼは動物たちを助けに行こうとしたが、遅かったと告げられた。生け贄は捧げられてしまったが、その後の儀式を阻止できたので、魔神召喚はなされなかった。アリーゼは指揮を執っていたテルスターに保護され、謝罪と説明を受けた。アリーゼは許し、魔神を召喚しようとしていたのは誰だったのかと尋ねる。テルスターはまだ確定では無いと前置きして、言った。


『おそらくは、ハベト族の反乱分子ではないかと』

『反乱?』

『そう。これ以上は詳しく言えないんだ』


 そのとき、騎士達が一人の男を連行していくところが見えた。仮面を剥がされた、幹部の男が、アリーゼを振り返って、憎悪の目で見ていた――


「あ!」


 思わず、跳ね起きた。どのくらいの時間が経ったのか、室内は真っ暗だ。心臓がばくばくして、全身に汗を掻いている。


「ミオン? どうしたの?」


 隣でマギーが起き上がる気配がした。明かりを付けようと、手探りしている音がする。


「ごめん、マギー。なんでもない。夢見てたみたい」


 もう大丈夫と言って、ミオンは掛布を被り直した。マギーが寝直した気配を確かめてから、もう一度、ゆっくりと思い出す。


(やっぱり、違う)


 仮面を剥がされた男は、あの絵からは想像も出来ないほど、似ていなかった。髪の色も顔の形も、いくら十年という歳月があるにしても、こんなに変わるとは思えない。まるっきりの別人だ。


(これって……どういうこと?)


 計画の全面見直しが決定した日、ミオンはもう一度、ゲームのシナリオを辿り直していた。同じ場面を何度も繰り返して辿って、何も思いつかない自分に腹を立てていた。シャグマの顔の件は、本当に苦し紛れの発言だったのでこんなところで収穫に繋がったのは僥倖だ。


(あの人がシャグマさんじゃないなら、秘密教団とは無関係ってこと……?)


 ばくばく鳴り続ける心臓を宥めて、ミオンは考える。シャグマが作った秘密教団と、アリーゼを襲った秘密教団は違うものだということなのだろうか。


(でもテルスター王子もハベト族って……あれ、反乱分子って言ってた?)


 確かゲームのシナリオでは、ハベト族の自治権の問題も絡んでいるとテルスターが推測している。自治権を取り返そうとする団体と、真の神を目覚めさせようする秘密教団が手を組んで、挙げ句の果てに全く別の組織に成り代わっていたとしたら?


(シャグマさんは……本当の神様を目覚めさせるつもりでいたはず)


 仮面の男ははっきりと『魔神の召喚』と言っていた。神々の真の姿を取り戻そうとするシャグマに従う人間の科白とは思えない。シャグマが更に心変わりをして魔神の召喚を目指してしまったとでも言うのだろうか。そうなると、マルティド神でもバイアム神でもない、第三の神が存在するということか。


(……シャグマさんは、どこにいったんだろう)

「――ミオン? そろそろ起きないと遅刻よ?」


 思考が堂々巡りを繰り返しているうちに、眠ってしまったようだ。マギーに揺り起こされるまで、片目の仮面の男と若い頃のシャグマの絵が延々と教室の中で追いかけっこしている夢を見ていた。目が覚めて、本当に良かった。


「起こしてくれてありがと……」

「いいから早く支度しなさいな!」


 ほっとしたのも束の間で、本当にぎりぎりの時間だった。慌てて支度をして、教室に滑り込む。あの時間に起きて始業時間に間に合うとは、驚きだ。やればできるんだと、妙な自信が付いた。たぶん、マギーに言ったら怒られるので、心の中に止めておく。


(それより……どうしよう)


 講義が始まると、ミオンの思考はまた、過去の記憶をぐるぐるし始めた。

 このまま何もしなければ、神託の解読者は見つかるし、秘密教団の蛮行は押さえられるが、シャグマの行方はわからないままだ。それではアビアナの要望を満たせないし、エリューサスの期待にも応えられない。

 かといって過去の記憶を辿ったら別人でした、なんて絶対に言えない。


(動物を攫ってるのは別の組織だとして……それだとダメか……あ、そっか、神殿みたいに、いくつも分散してるとか、どうだろう?)


 シャグマが出奔して十年以上も経っている。王都以外の街にも同時に人を送り出せるほどの組織に育っていることもあり得る。アリーゼとの一件は、たまたまシャグマ以外の幹部が担当していたのかもしれない。


(……って、それだともう、わたしに出来る事って無いような……?)


 ミオンにわかるのは王都で活動している教団の動きだけだ。シャグマが王都以外で暗躍しているとしたら、どうしようもない。ロネの言うとおり、王宮から神殿に圧力を掛けて異端者を洗い出させるか、クアイドの意見を聞いて自治領から出ているハベト族の足取りを丁寧に追うか。


(あとは……えーと……)

「ミオン」


 不意に、手を引かれた。思考に沈みすぎていたミオンは、一瞬、今自分がどこにいるのか、わからなかった。振り返るとマギーが手を掴んでいて、もう片方の手で前を指している。


「お兄さんが待ってるみたいよ?」

「え?」


 見れば、廊下の端で、落ち着かない様子でジェラールが立っている。こちらに気づくと、ほっとした様子で駆け寄ってきた。


「ミオン、いまちょっと、いいか? マギーも良かったら頼む」

「いいけど……?」


 マギーも了解したので、一度引き返して校舎の外に出た。急ぎ足になるジェラールの後に続いて校舎の陰に回り込むと、ぐっと人気は少なくなる。ジェラールは、周囲をやたらと気にしながら、その場にしゃがみ込んだ。二人にも、座れと促す。


「あのな、俺もよくわかってないんだ。そこのとこ、覚えといてくれ」

「わかってないって、何が?」


 聞き返してもジェラールは答えず、足下から小石を拾い上げて、真剣な顔で地面の上に何かを描き始めた。


「これ、なんだかわかるか?」


 ジェラールが描いたのは、記号のようだった。直線と直線が互いの端の方で直角に交わり、片方の線の反対側の端は鈎のように弧を描いている。もう片方は直角に曲がっている。交点の右下に、小さな○が付いていた。最後にジェラールは、記号全体を四角で囲んだ。

 じっくり眺めて、ミオンともマギーも首を振った。


「ぜんぜん」

「見たこと無いですけど……」

「そうか……」


 ジェラールは俯いた。沈黙が落ちる。じわじわと、足が痺れてくる。


「お兄ちゃん、そろそろ足が――」 

「あのな」


 俯いたまま、ジェラールは言った。ミオンは口を閉じて次の言葉を待った。


「……確か、シャグマって奴が作った教団って、シンボルだけしか無いんだよな?」

「うん……?」


 アビアナは、そう言っていた。そういえば、そのシンボルの形も教えてもらっていない。


「……え、お兄ちゃん、これ、まさか……?」

「まさか、本物……?」


 ジェラールは小石を投げて、頭を抱えた。


「わからない。これを俺に見せた奴は、俺が覚えて描けることを確認したら、すぐに引っ込めちまったんだ」


 そして、囁いたという。

 悩みがあるなら、とある場所でこのシンボルを描いて見せろ。そこで全ての悩みが解決する。そう言われたと、ジェラールは低く語った。


「お兄ちゃん……」

「確証は無いんだ。気になっただけで……だからまあ、一応エリューサス殿下に伝えておいてくれ」


 そのまま、目も合わせないで立ち去ろうとするジェラールを、ミオンは引き留めた。


「お兄ちゃん……なにか悩んでるの?」

「お前はもう黙ってろ!」


 兄の怒りの手刀が脳天に落ちてきた。理不尽な痛みに耐えている間に、ジェラールは校舎の角を曲がってしまった。


「マギー……」


 涙目で横を見れば、マギーは、呆れ果てていた。


「探してる相手に勧誘されるって、どういうことなのよ……?」


 それについてはミオンも是非、訊いてみたいことだった。

今回も短めでお届けです。

ジェラールが段々可哀想になってきたのですが、いかがでしょうか……。

それでは、今回もお読みくださってありがとうございました。

ブクマ、評価もいつも本当にありがとうございます。がんばります!

※追記

読み直したら、省きすぎていることに愕然としたので書き直しました。

無駄に長く描く癖を直そうとして端折りすぎたようです……失礼しました。

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