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#28

 後に残されたのは、訳が分からないまま立ち尽くすアレスと、全身に紅い光を帯びたままティダーの駆けて行った方向を見つめているレイチェル、そして――座り込んだまま呆然とレイチェルの姿を見上げているルティア、そしておまけにアレスに倒された四人の覆面男が転がっている。

 そこに駆けつけたのはグレンと、もう一人名前を知らない霊剣士だった。グレンはまずルティアを助け起こしつつ、何が起きたかわからないという顔で辺りを見回す。

「ルティアちゃん大丈夫か!? 見張り台から光が見えたってんで駆けつけてみたんだが――あの魔剣士は逃げたのか? そこで転がってる連中も悪魔野郎の一味みたいだが……って、そんなことより――!」

 グレンともう一人の霊剣士が視線を向けた先には、徐々に弱まりつつある紅い光を纏ったまま、その場に立ち尽くしているレイチェルの背中があった。

「グレン、こいつは……今まで俺らが見てきた中でも極め付けじゃないか」

「ああ、間違いない……いつでも融合状態になれるよう準備しておけ」

 そう語り合う二人の霊剣士の様子に不穏なものを感じ、アレスは極力不自然に見えないような動きでレイチェルとの間に割って入りながら訊ねる。

「何やら心当たりがあるみたいだが、これは一体何が起きているんだ?」

 しかし、その問いに答えたのは二人の霊剣士のどちらでもなかった。

「彼女は、悪魔の血を色濃く引く者だったんですね」

 そう語るルティアの声は少しかすれていて、そしてぞっとするほどに感情がこもっていなかった。

「悪魔の血を……え?」

 一方、そもそも悪魔の血の話など本気では信じていなかったアレスは、その唐突な言葉にしばし思考が停止する。

「これで全ての謎が解けました。全ては彼女が密かに発していた邪気が原因だったんですね。その血がついに本性を現した――」

 そこまで言うと、ルティアは突然アレスに向き直り、表情の抜け落ちた底知れぬ瞳で見据えてきた。

「アレスさん。今すぐ彼女を連れて山を降りて街に戻って下さい。そして、村には一切近寄らないで下さい」

 有無を言わさぬ口調でそう言い切るルティアに、アレスが何と答えようかと考えるのも束の間、それまで立ち尽くしていたレイチェルが、まるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 慌てて駆け寄り助け起こすと、どうやら紅い光は完全に消えており、それまで舞い上がっていた髪が乱れていることと、半目を開けたまま気を失っていること以外は、元のレイチェルの姿に戻っているようだ。呼吸は安定しており、少なくとも肉体的には差し迫った問題は無いように見える。

 そんな二人の様子をよそに、ルティアは既にこちらに背を向け、霊剣士たちと何やら言葉を交わし合っている。

「すぐに村に戻ります。まだ真っ直ぐ歩けそうにないので、どちらかすみませんが肩を貸して下さい」

「それなら左右から支えよう。けどあの悪魔娘は放っておいていいのかい? そもそも君のお父さんは――」

「……今は、このままでお願いします」

「いやまあ他ならぬルティアちゃんがそう言うなら従うし、そりゃ俺だってよりによってあの剣聖サマと殺し合わなくて済むなら助かるけどさ。村の連中が知ったら……」

 徐々に遠ざかる足音に紛れて、それ以上の会話は聴き取ることができなかった。


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