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#17

 かなり早足になってしまったが、それでもルティアは息も切らさずついて来た。考えてみれば、あの重いハンマーを振り回し続けられるだけの体力があれば、この程度の道のりを早足で歩くことなど造作もないだろう。

 そんなわけで、二人は昼前にはモフトの街に到着していた。

「できるだけ手早く仕入れを済ませてしまいたいところですが……そうだ! アレスさん、一つお願いしたいことがあるんです」

「何だ?」

「仕入れにいくつかの店を回る必要があるんですが、よろしければ手分けして回って頂けますか?」

「構わないが……俺は材料に関する知識はほとんど無いが大丈夫か?」

 アレスがそう答えると、ルティアは鞄からペンと紙を取り出し、何やら書き込み始めた。

「私は冶金商と教会の方を回りますので、アレスさんには雑貨屋の方をお願いします。雑貨屋はこの通りずーっとまっすぐ進むと、右側に見えてくる赤い看板の店です。ええと、これが必要な品物の一覧で、代金はこちらの手形を渡して頂ければ後で私に請求が来るようになります」

「わかった。気をつけろよ」

「はい。終わったらここで待ち合わせしましょう!」

 そう告げながらルティアはアレスに手を振ると、そのまま背を向けて雑貨屋のある通りとは反対の方向に駆け出して行った。


「ええと、買う物は……銀のランプ二本にに聖油一瓶、それからキンドール産の上木炭を二樽……どうやって持って帰るつもりなんだこれは?」

 アレスは首を傾げながらも、とりあえず指定された店へと足を運ぶ。

 街並みは相変わらず、王都育ちのアレスの目にはいかにもな地方の田舎町のように映るのだが、村育ちのルティアにしてみれば全く違う感覚なのかもしれない、などと思う。実際、先程すれ違った三人組の娘たちなどは、いかにも近隣の村から気合を入れてやって来ましたといった格好で、服屋の品物を指差したりしながらキャッキャと騒いでいる。

 そもそも大して長い通りでもなかったため、目的の店にはすぐに辿り着いた。両手を模したシンボルマークが刻まれた真っ赤な看板を掲げたその雑貨屋は、こんな田舎町にあるにしてはかなりの規模で、見たところ生活必需品から工作道具、更には商売向けの陳列道具そのものまで様々な物が売られているようだ。

「いらっしゃいませー。あらー、旅の方ですかー? ごゆっくり見て行って下さいねー」

 妙に間延びした声の、ルティアより少し年上くらいに見える少女が声をかけてくる。真っ赤なエプロンをしているところを見ると間違いなくここの店員だろうが、いかにも見習いっぽい雰囲気が抜けておらず、アレスは若干不安な気持ちに襲われる。

「ええと、ここに書かれている通りの品物が欲しいのだが」

「はいはーい。ええとー、ちょっと出してきますねー。銀のランプー銀のランプーランプちゃーん出てきてちょーだーい」

 そんな感じでふらふらと店の奥を歩き回りながら、店員の少女はメモに書かれた品物を次々とアレスの前に持って来る。

「はぁ、はぁ、樽おもーい……ええと、あっ、これかなー聖別された香油ー。これでー全部ですねー。お会計はーええと値段表ー値段表ーうーん」

 うんうん唸りながら計算していたが、結果が出たところで店員の少女は驚きの声を上げる。

「ええとー二万七百九十六ソルですよー! 百ソル金貨でおよそ二百八枚ですよー! わたしの一年分の給金より高いですよー! そんなに重い袋持てませんー!」

 予想していなかった値段に、アレスも驚きの声を上げそうになる。二万ソルといえば、レイチェルと二人でなら一年は暮らせる額であり、今回作ってもらう聖剣の代金の二割にも及ぶ。材料費の一部だけでこんなにかかってしまうのでは、仮に無事聖剣が完成したとところでルティアの手元に利益など残るのだろうか。

 不安になりながらも、アレスはルティアから預かっている手形を差し出した。

「支払いはこれで……」

「あー、ルティアちゃんのお使いだったんですねー。だったら端数はオマケしちゃいますー。しかしルティアちゃん思い切りましたねー、もしかしてーついに聖剣でも作っちゃうつもりなんですかー?」

「ついに……?」

 思わず訊き返すと、店員の少女は首を傾げて語り始めた。

「だってー、材料にこんなにお金がかかったらー、聖剣でも作らないとー割に合わないじゃないですかー。もう霊剣作りはー成功したことあるらしいですしー。でもー剣工ギルドの人たちはーこの話になるとー真っ赤になって否定するんですよー」

 確かに一つ星の見習い副会員、しかも十四歳の少女などが霊剣の作成に成功したなどという話になれば、地元ギルドの親方連中からすれば沽券に関わる大問題になるのかもしれない。しかし、腕利きの職人であれば毎年一本くらいは打てると言われる霊剣でこの有様では、一流の職人でも生涯に一本打てるかどうかと言われる聖剣などが成功してしまったら一体どうなってしまうのだろうか。

「……いや、今からそんなことを心配しても仕方ないな。とりあえず今俺が心配すべきことは、この樽をどうやって村まで持って帰るかだ」

 樽を二つも担いで山を登るのは、さすがのアレスにとってもかなりの重労働だ。

「だったらーこの台車を使って下さいー。ちょっとしたデコボコならースイスイ乗り越えられますー」

 そう言いながら少女が店の奥から押してきたのは、鉄製の車輪を備えた二輪の荷車だった。試しに樽を乗せた状態で牽いてみると、気味が悪いくらいに滑らかな感触と共に車輪が音もなく回転した。

「これもサービス……なのか?」

「これはー元々ルティアちゃんのですー。うちに納品する時に持って来てー、仕入れの時に持っていくんですー。大体ーこんなの作れるのールティアちゃん以外にーいるわけないじゃないですかー。あ、これが請求書ですー、ルティアちゃんに渡してくださいー。それとー最近包丁の売れ行きがいいのでーまたたくさん作って欲しいってー伝えて下さいー」

「あ、ああ……それでは失礼する」

 そう言い残し、アレスは店を後にした。


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