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#12

 アレスたちが工房の前に駆けつけると、そこに広がっていた光景は、想像していたものとはだいぶ異なる様相を呈していた。

 揃いも揃って黒を基調とした服に身を包んだ、見るからに人相の悪い男たちが全部で十人ほど集まっており、そのうちの七人は店の建物を取り囲むようにして、何やらごそごそと動いている。そして残りの三人は――

「ふん、振られた相手を力ずくでモノにしようなんて、いかにも下衆のすることですわ。恥ずかしいとは思いませんの?」

 男たちをびしっと指差しながら、声高に告げるレイチェルと向き合っていた。

「恥ずかしいだの何だのと言っていたらこっちは商売成り立たねぇんだよ」

「いいからあいつを出せ。今日こそは首を縦に振るまでは帰らないぞ」

「それと、あの剣を持っていた男もだ。まだ終わらせるわけにはいかない」

 そう口々に告げる男たちは、よく見ると昨日店に来ていた三人組だった。

 おそらく、帰って商会に事の次第を報告した結果、力ずくでもあの詐欺商法を継続する方針に決まったのだろう。駆けつけたアレスとルティアの二人の姿に気付くと、即座に大声を上げてきた。

「いた! あいつらだ!」

 その声に、家を囲んでいた男たちの中から更に五人ほどがやって来る。計八人の男が立ち並び、威圧するように距離を詰めてくる。

「待ってたぜルティアさんよ。状況はわかってるんだろうな?」

「大事な店が燃えて無くなるのと、どっちが得かをじっくり考えてみるんだな」

「残念ですが、もうあなた方の仕事を請けるつもりはありません」

 ルティアがはっきりとそう言うと、目に見えて男たちの表情が固まった。まさかこの期に及んで断られるとは思っていなかったのだろう。

「ちっ……やっぱりこの男が垂れ込みやがったのか」

「とりあえずこの男は連れて行くとしてだ、やはりやるしかないようだな」

「おい! そっちは油かけて、いつでも火をつけられるようにしておけ! おっと、工房に燃え移らないように気をつけろ! 焼くのはあくまで店だけだ!」

 その言葉に三人は表情をこわばらせる。

 なんとかして止めなければ、とアレスは考えるが、彼らがどう考えても武器を隠し持っているであろうことを考えると、素手で八人に挑むのはどう考えても自殺行為だ。

 例の玩具は荷物と一緒に部屋に置きっぱなしになっており、武器といえば今ルティアが抱えている新しい剣しかない。これを借りれば、とりあえず彼らを止めることはできるかもしれない。しかし、まだ正式に買い取ってもいない剣に血を吸わせても良いものか――しかもこの切れ味では手加減は非常に困難であり、高確率で何人かは殺してしまうだろう。

 だが、だからと言ってこのまま黙って店に火をつけさせるわけには行かない。そう思って、ルティアから剣を借りるべく口を開こうとしたところで、いきなり背後から声をかけられた。

「詐欺に脅迫に放火未遂――うちの村でずいぶんと派手にやらかしてくれちゃってるじゃないの」

 思わずアレスが振り返ると、そこには小麦色の髪が特徴的な、長身でやや細身の青年が立っていた。

 どことなく軽薄そうな雰囲気を漂わせてはいるものの、その立ち姿には全くといっていいほど隙が無い。細身ではあるが筋肉質な身体に、それなりに高級品と思われる革鎧を身に着け、更には見るからに妖しい雰囲気を放つ剣を腰に提げている。

「グレンさん!」

 同じく振り返ったルティアが、青年の姿を見て安心したような声を上げた。

「ルティアちゃん、遅くなってごめんよ」

 そして、更にその後ろから現れたのは、門番をしていた男の一人だった。中年と呼ぶとさすがに怒られそうではあるが、アレスやグレンと比べると明らかに一回りは上の世代に見える。動きを見る限り職業戦士のようには見えないが、とにかく力はありそうだ。おそらく農業か林業あたりが本業なのだろう。

「スーザン商会の人たちは君の客だって聞いてたからつい通してしまったんだけど、どうもその後の様子がおかしかったからね。念のためグレン君に来てもらったんだけど、まさかこんなことになっていたとは」

 そんな会話を交わす村人たちを目の前にして、商会の男の一人が吐き捨てるように叫ぶ。

「なんだ、二人増えただけか脅かしやがって。もういい、面倒だからこいつら全員血祭りにあげるぞ。ルティアさえ生かしておけば後はどうなっても――」

 そう言い終わるか終らないかの瞬間だった。

 グレンと呼ばれた青年が剣を抜き放つ姿を確認できたのは、おそらくアレス一人だけだっただろう。他の者から見れば全く訳がわからないまま、血祭り云々と叫んでいた男の身体が宙を舞い、明らかにおかしな体勢で地面に転がる。

 だがグレンはいまだに、その男が立っていた位置から見て十歩ほどは離れた位置に立っている。一体何をされたのかわからぬまま、男たちは互いに顔を見合わせながら口々に喚く。

「何だ今のは……!?」

「あの剣を抜いて何かしやがったんだ! でもあの距離でどうやって!?」

 そんな男たちを尻目に、アレスは納得したように呟く。

「霊剣……? なるほど、彼が例の八闘神か」

「その通り。俺は霊剣士のグレン、八闘神の一員だ。ティティスの村を代表して、スーザン商会の奴は全員追放、そして今後の入村を一切禁止する。従わない奴には――命の保証はできないぜ?」

 その宣告に対する男たちの答えは明白だった。

「やっちまえ!」

 残された九人全員が、一斉に懐からナイフを抜き放つ。大きさこそ剣に見劣りするが、研ぎ澄まされた分厚い両刃はおそらく彼らの店で扱うどの武器よりも上等で、少なくとも人間の心臓を貫くのに十分な鋭さと長さを兼ね備えている。

「抜いたか……ま、それならこっちも安全策で行くか。行くぞフリード!」

 それは霊剣の名前であろうか――グレンが叫んだ瞬間、剣は一際強く輝きを放ち、そして次の瞬間にはグレンの姿が大きく変わっていた。

 それまで着ていたはずの革鎧が、基本的なデザインはそのままに、しかし白銀の輝きを放つ金属的な素材に変化し、更に身体全体をしっかりと覆う全身鎧へと姿を変えている。

 男たちは一瞬怯んだものの、なけなしの勇気を振り絞り、ナイフを構えたまま突撃を試みる。そして一人のナイフが付きだされるが、グレンはあえて避けずにそれを鎧で受ける。

 鎧に触れた瞬間、押しつぶされるように砕けたナイフに、男たちはただ茫然と立ち尽くすしかなかった――


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