第5話 お世話係
セインは見た目が見た目なので、誤解されやすいがかなりいい奴だ。これが対談をした結果の僕の印象である。
対談中はレンカは起きてもぼーっとしてることが多かったので、話は僕が進めた。とはいえ、聞きたいことを聞いただけなのだが。
僕らが聞いた質問は以下の通りだ。
「ここはどこなのか」
「何故僕らを泊めてくれたのか」
「ここに住み込みで働かせてくれないか」
恥ずかしながら、いざ質問をするとなるとほとんど浮かんでこなかったので、決死の思いで考えた3つの質問を聞いたということだ。
そして、セインから返ってきた答えが以下の通りだ。
「ここは、『真実と自由の騎士団』という名のギルドの本拠地だ」
「私が真実の騎士だから」
「いいだろう」
正直、最後の質問以外は聞いた僕がバカだった。
場所は聞いても現状は変わるわけが無い。モンゴルに行って今いる地名を聞いても状況が変わらないのと一緒だろう。
僕らを泊めてくれた理由は濁されたと勝手に判断した。きっと、僕らに言えない事情を隠してるのだ。ここでふざけても何も意味が無いというのに、彼はさっき初めて会ったときのようにふざけだしたのだ。僕の長年の人間観察の結果、彼のようなタイプが真面目な場でふざけたときは嘘をつくときだという結論に至っている。
人間観察が趣味とか気持ち悪いって?ほっとけや。
ただ、寝泊りをする場所を確保できたのは大きい。働きさえすれば、お金は払ってくれるらしくご飯も出してくれるとのこと。そう言ってくれた彼はかなりいい奴なのだろう。
なので、もしかしたら彼が僕らを連れてきたのもほっとけないから、とかいうただの彼のお節介なのかもしれない。
話が終わると、セインはしばらくはお世話係の女の人を呼ぶと言って外へ出ていってしまった。
その間、なんとなくレンカと気まずい空気が流れた。この世界に来てからというもの、レンカとは僕が一方的に見てただけで彼女はずっと寝てたのだ。ただしストーカーではない。
そのため、二人きりで話す時間ができたのも今が初めてということになる。
この気まずさを例えるならば、クラスが変わって会わなくなった友人とまた同じクラスになった時に話す話題が見つからないという現象に近いものと思ってくれればいい。
つまり俺がいいたいのは、お願いだ....女の人、早くこの空気を何とかしてくれ!
無常にも僕の願いが叶うことになったのは15分程経ったあとだった。長すぎる静寂を打ち破るように、この部屋の扉が開いて入ってきたのは一人の女性だった。
赤みのかかった茶色いミディアムヘアーに、芸能人と見間違えるほどに整った顔。彼女は高校に一人いるかいないかレベルの可愛さの持ち主であることに間違いはなかった。彼女の胸は控えめであったがそれでも彼女は、今まで会った女性の中でもトップクラスに可愛い。
僕が彼女をじっと見ていると、彼女は目を合わせて軽く微笑んでいかにも女の子らしくテクテクとこちらに歩いてきて、一礼した。
「レイル•ローニャです。貴方たちが今日からここで働く人よねっ!」
「ええ、僕はハジメっていいます。こちらはレンカ」
「会えて嬉しいよ〜」
彼女からすれば、面倒が増えるだけで嬉しいことなどないはずなのだが....。不思議な人らしい。
「では、さっそくお互いの親密を深めるために呼び方を決めましょうか!」
そう言うと彼女は両手を合わせてパーっと明るく笑った。この仕草だけで何人の男を虜にしたのだろうか。
「呼び方、ですか?」
「ええ、貴方たちとは長い付き合いになるんだし!ね!まず私のことはレーニャって読んでねっ」
レーニャ....どこぞのアイドルの呼び名やっちゅーねん!
「ではレーニャさん、僕の呼び方は自由にしてください」
すると、彼女は人差し指に手を当て真剣に考え出した。そこまでしろとは言ってないのに。
「ハジメ....ハジメ....ハジメ....。ハーくん!!これがいいよ!」
正直、レンカ以外の女子にハジメと呼ばれることがなかったのでそれだけでも興奮していた俺は返事をするどころではなかった。
この人の魔力はやばいぞ....!世の中の男性を滅ぼすかもしれない....!
ふとレンカのほうを見ると、彼女の目はいつもよりもつり上がっていた。こういうときは不機嫌であることが多い。こんないい人がお世話係だというのに、何が不満なのか。ほどなくして、彼女は口を開いた。
「えっと、あたしは....レーちゃんでいいです....」
「あたしもレーちゃんがいいと思っていたんだ!偶然だよねえ!」
といってレンカの手を取ってブンブン振り出した。
彼女の振る舞いがイマドキの女子となんら変わらないので、日本に戻ってきたかのような錯覚に陥るなこりゃ....。
レーニャさんはこちらを向いて、さらに驚くべき行動に出た。なんと、僕の手も掴んでブンブン振り出したのだ。
何してるんだこの人は!?!?!?
「レーちゃんだけにやるのは不公平だもんねっ!はい、仲良しの証!」
これが仲良しの証....?僕らでいう握手なのかもしれない。
「やっぱり男の子の手って大きいよねぇー、しっかりしてて頼もしいよぉ」
彼女いない歴=年齢をこじらせ続けている僕には、彼女のセリフが僕を誘ってるようにしか聞こえなかった。
拝啓、神様。
どうやら、異世界での暮らしはいい方向に進みそうです。