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美少女窃盗団「ティータイム」の謎  作者: 倉山雪乃
第一章 ガラスの靴
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猛特訓

翌朝、目が覚めて、改めて部屋の中を見渡す。ベッド脇にはアンバーのガラスでできたスタンドライト。暖色のモチーフつなぎのベッドカバー。タンスは飴色の艶を帯びていて、手足の長いカーペットが足に優しい。カーテンはレモン色で、オレンジ色のレースカーテンと二枚重ねになっていた。

 今日から、猛特訓が始まる。初仕事までの一週間、ティータイムの一員となるために必要なスキルを、先輩達から学ぶのだ。

 私以外のみんなは、ここに来る前から何らかの特技を持っていて、第一に魔法が使える。今まで外の世界も知らずに生きてきた、こんな世間知らずな私を、どうしてウヴァは拾ってくれたのか。

 クローゼットには、伯爵家にいた時と変わらないくらいの衣装。今日は動きやすいものが良い。あの家にいた頃は、メイドが全部やってくれたけど、今は自分で着たい物が着られる。私は適当に見繕って、一階に降りた。

「おはようございます!」

 ちょうどスコーンが焼き上がったところのようで、部屋にはバターの良い香りが漂っていた。

「おっはようベル!」

 ポンムさんの真っ赤な頭が跳ねる。

「今日は早く起きれたわね」

 シナモンさんはそう言うが、それでも一番遅いのは私だ。

 席に着くと、熱々のスコーンが待っていた。

「召し上がれ」

 ミルクの一声に、令嬢らしからぬスピードで反応し、一口食べる。

「なんて美味しいんでしょう! 今日はタイムとお塩ですか。ほのかにレモンの香りもします! これは塩漬け肉にぴったりですね。ああ、でもここにあえて甘いジャムを乗せるのも良さそうです。それにしてもこのサクっとしっとりの黄金バランス! 昨日も美味しいとは思いましたが、焼き立ては格別ですね。こんなに美味しいスコーンは初めてです!」

 はたと我にかえると、みんなの視線が私に注がれてた。

「だから言ったでしょ。また食べたきゃ今日みたく早く起きろ」

ちょっと微笑んだように見えるミルクに、絶対早起きすると誓った。昨日も思ったけど、悪い人じゃないんだ。

「さ、早く食べちゃって! 今日から特訓開始なんだから!」

「はい!」


まず、ポンム先生に教わるのは、ポーカーフェイス。やっているのはカードゲーム。

「ベル、恋したことってある?」

「は、はい?」

私のカードを引きながら、ポンムはよく分からない質問を投げかけて来る。私は動揺して、手元のカードに目を落とした。

「ない、ですけど」

「ふーん。もう年何だし、可愛いから一人や二人はいたかと思ったのになぁー」

ざ、雑談? てか、まだ十五歳なんだから、年とか言うな!

「っていううちに、私の勝ち」

そう言って、ポンムは二枚のジャックを広げて見せた。私の手元には、一枚残った道化師だけ。

「え? い、いつのまに!」

「あー、もう、ベルちゃん0点!」

 小さなポンムは腕を組んで言った。く、悔しい!


続いてシナモン女史の授業。科目名は、「華麗なる手さばき」。

「さ、どこからでも掛かってらっしゃい!」

そうやって広げられたのは彼女の両腕。しかし、彼女の服には鈴が縫い付けてあり、彼女が動く度にうるさく響く。

私はその鈴を鳴らさずに、彼女のポケットにコインを入れて、そしてそのコインを再び取り出さなくてはならない。

そっと、ポケットにコインを入れるが、リン、と鈴が鳴ってしまう。シナモンが肩をすくめ、また鈴が鳴る。

「筋は良いと思うわよ」

 というか、その胸ポケットにコイン入れるなんて辛過ぎます! だってその 膨らみが! は、鼻血!


 午後からはミルクと護身術の猛特訓。

「走れ、走れ、走れー!」

とはいえ、するのはランニング。そしてランニング。日頃の運動不足が祟って、息は上がるし、口の中は血の味みたいなのが広がってるし、たるんだお肉が揺れるのは、なんだかとんでもない辱めをうけているかのようだった。

「それでも女か! 根性見せろよ、根性!」

それを言うなら、男でしょ!

 家の家庭教師とはわけが違う。まず、彼女たちにとって、私は仕えるべき人物じゃないし、目上の存在じゃない。容赦ない。でも、なんでだろう。今までの家庭教師より、私のに向き合ってくれてる気がするし、なんだか愛まで感じる。そんな趣味はなかったはずなのに!

「そんなので、あんたの敵は討てるわけ!?」

 言われて、あの女の顔がよぎる。そう、この憎しみに腐ってはならない。強くならなくては。魔法も使えない。華麗なる手さばきもないけれど、あいつには負けない。絶対! あいつの知らないところで強く生き抜いて、いつか!

「もっと! もっと頑張る!」

「よし! あと十周!」


 最後は、ポンム、シナモン、ミルクの三人と一緒だ。その名も「汚い言葉講座」。なんでも、みんなは「美しい言葉講座」をウヴァから受けたようだが、私には「汚い言葉」を使いこなせるようになるのが必要らしい。

 シナモンは、そのウヴァのスパルタ教育の一番の成功例で、普段から崩れた言葉はあまり使わないが。

「はあ? てめぇの股にぶら下がってるもん、二度と使えねえようにしてやろうか?」

 この通り、街で暴漢に襲われそうになった際の対処法について、みっちり教えてくれています。これって、「汚い言葉講座」よね。決して男を再起不能にさせることを学ぼうとしてるんじゃないよね……。

「とりあえず、『てめぇ』または、『お前』という第二人称は重要よ。『マジ』『やばい』『超』『うざい』『くそったれ』らへんも、使いこなせるようになって頂戴」

「は、はい」

 そう答えると、三人の視線が厳しくなる。

「う、うん」

 言い直すとみんな満足げな表情を見せた。

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