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美少女窃盗団「ティータイム」の謎  作者: 倉山雪乃
第一章 ガラスの靴
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北風と太陽

 サフラン・ピエ・ボヌール。さらさらの金髪。ブルーグリーンの瞳。薄い唇。昨晩のムカつく男がここにいる。

 何故?

 陛下を見る。金髪のストレート。薄い唇。背格好。瞳の色こそ、サフランと違うエメラルドグリーンだが、その他はうり二つだった。

「みんな、驚いたようだね」

 陛下のいたずらな声が部屋に響く。見れば私以外のみんなも固まっていた。ウヴァを除いて、クローブも。彼らも知らなかったのか。

「へ、陛下。これは一体……」

 クローブの動揺。側付きであるのに、知らないということは、彼は一体何者なのか。サフランは、昨晩と違ってとても紳士的な態度だ。

「こいつは、私の弟だ。双子のね」

 満面の笑み。まるでいたずらが成功した時の子供のように笑うローリエ国王。

「お、弟!?」

 私は叫ぶようにして言った。国王が双子だったなんて、そんなこと聞いたこともない。だけど、そうでもなくちゃ、二人の顔がそっくりであることの説明がつかない。

「そう。近隣諸国への顔見せが終わったから、こいつも表舞台に立たせてみようと思って」

「と、申しますと?」

「双子であることは伏せて、年子の弟として公爵の位を与えようと思ってな」

 国王の兄弟が公爵になるのは、珍しいことじゃないけど、今まで知られていなかった王弟の存在は、きっと混乱を引き起こす。なぜ今なのか。

「先手を打ちたい。勝手にサフランを担がれたりしたら厄介だ。」

 陛下の合図で、サフランが本の山の上に座る。こうして並んで見ると、本当にそっくりだ。

「新入りちゃん、私にこの国をどのような国にしたいか聞いたね」

「は、はい」

「私はね、国王なんてやめちまいたいんだ」

「はい?」

 陛下は何てことないように続ける。

「だって、毎日毎日この部屋に山盛りの書類が届けられるわけ。それで私が目を通して、許可したり棄却したり。だいたい何のための貴族院なんですか?って話でしょ? 議会で一度可決した議題でも、私が『だめ』っていえばそれでおしまい。議会の意味がないじゃない。私は不眠不休だし、議員である貴族は怠け者ばかりだし。だったら国の事本気で考えてくれてさ、能力のある人間が束になって議会を開いたほうがよっぽど良いと思うんだわ! ねぇ、そう思わない?」

「は、はぁ……」

「私の汗と涙の結晶である書類たちは、宰相の『さすが陛下!』って言葉と一緒に持って行かれちゃうわけよ。王家に生まれりゃ誰でも仕事できるって思ってんのかよ。ふざけんなよ。魔法学校でもそうだったよ。どうせ王太子だから、評価も甘いんだろー的な、天才肌の平民出身生徒の目。いや、俺は努力の天才なわけ! ねぇ、不公平だよね!? 違う!?」

「違くない、と思います……」

 返事が尻すぼみになってしまう。

 いつの間にか陛下が「俺」とか言い出しちゃうし、まさかの「国王やめたい」宣言と来た。それで国王の双子の弟がサフランで、マダム・ウヴァはそれを既に知っていて、そのサフランは私の本名を知る超要注意人物だ。はぁ、頭が沸騰しそう。

「そうでしょ? そうだよね! でもさ、やめたいからってやめられないのよ。次なる国王候補を立てられちゃおしまいでしょ? だから、サフランは隠れていてもらったんだけど、最近やっと王位継承権を持ってる人達の家のとり潰しが終わったから、そろそろこいつも出しちゃって、敵に突かれる前に可能性は潰しておこうと思ったわけ。それでこのタイミングでお披露目なんだ。ご納得いただけたかな? みなさん」

 クローブを始め、ウヴァを除く全員が目を白黒させていた。

「ローリエ、みんな戸惑うだろ。そう一気にしゃべるな」

「あ、ごめんごめん」

 以外にもサフランがフォローしてくれるが、その物腰は私が知っている挑発的な彼とは全く異なるものだった。

「なるほど。陛下のお考えは分かりました。陛下の目標達成には、それが最善だったでしょう。しかし我々に黙っているなんて、それでは何か起きた際に対応しかねました」

「悪かったな。ただ、ウヴァには全て伝えてあった。何かあれば、彼女が対応してくれるはずだった」

 ウヴァを見ると、「ごめんなさいね」と言って彼女は笑った。その瞬間、私たちの緊張の糸は切れ、どっと疲れが襲ってきた。

「それに、」

 と陛下はやや真剣なトーンで切り出した。

「双子は二人で一人。どちらかが欠ければ、私たちは不完全な存在になる。次期国王に欠点があるなんて、勘づかれちゃならなかったんだよ。特に国立魔法学校に行っている間はね」

 陛下が国立を卒業なさったのは三年前。卒業と同時に先王が隠居し、王座に就かれた。ポンムと同じように、飛び級で入学して若干十五歳で卒業、そして異例の若さで国王になられた。まぁ、ポンムは十四歳で卒業したって言ってたから、彼女のほうが優れていたのかもしれないけど。

「王家の人間が、どうしてこの地位を守ってきたか知ってる?」

 陛下は私に聞く。

「それは、全ての属性の魔法を行使ることができるからです」

「そう。全能であること。これが王位に就く理由。だから誰も盾つかないし、この均衡が保たれてきた。でもね、私たちの場合、本当は一人であったはずの魂が、二つの体に注がれたでしょ?」

 私は、何かピンと来るものを感じた。

「使える属性も半分ずつだったんだ。だから、入れ替わり立ち代わり、全能であるフリをした」

 ああ、やっぱり。サフランを見ると、彼は変わらぬ落ち着いた表情で陛下のことを見守っていた。その瞳は兄への気遣いにあふれている。このことで二人は苦しんできたのかもしれない。

「国王なんてやめたいって言ったけど、実際は、王の資格もないんだよね」

 ローリエ陛下の言葉に、私は胸がきゅっと痛んだ。まだ出会ったばかりだが、とても明るくて、穏やかで、無邪気な瞳をした陛下が、今、無理して笑っているのが分かったから。

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