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〜亀裂〜


レギュラーメンバー4名を含む10名の部員に対する、実質的な練習禁止令。


加えて、今までの野球部の決まりごとは練習方法、レギュラーメンバーなど全てを白紙!


という、新監督のいきなりの強権発動宣言。





まあ、チームというのは監督の下で動くものですから分からんでもないですし、


1年生を含めた全員でレギュラーを競うというのも決して悪いことだとは思いません、


しかし、いくらなんでも突然でやり方が乱暴すぎる・・・ということで、


これは部員たちも黙って受け入れるわけにはいきません。





大男の張り手に意気消沈気味のキャプテン沼田さんに変わって突破口を開いたのは、


3年生でセンターを守っている川尻さん。





「ちょっと待ってください。


 こないだの春季大会も今のレギュラーメンバーでいい試合が出来たし、


 今はそのメンバーで来月の大会に向けて一生懸命頑張っているところなんです。


 レギュラーを競うと言っても、1年生は入部したてで


 バッティング練習にも参加してませんし・・・。」





「アホかお前は。


 1年生を練習に参加させとらんのはお前らの勝手な決め事のせいじゃろうが。


 これからは全員で競い合ってレギュラーを勝ち取れ言うとんのじゃ。」





この意見に関して言えば、ごもっともの事で異論はございません。





しかし・・・。





2年生のキャッチャー、古木が声を荒げ気味に続きます。





「でも10人はバッティングにもノックにも参加できないんですよね。


 今のレギュラーから4人も抜けることになるし、どうやって皆で競いう合うんですか!」





「残ったのが20人近くもおるじゃろうが。


 非力な奴は、まだレギュラーになれる資格すらないいう事じゃ。」








な、な、なにをーーーー!?








この言葉に反応したのが私でございます。





「あのう、すみません。」





「何じゃ?」





「と言う事は、レギュラーは野球の実力ではなく力比べで決まるという事ですか?」





「そうじゃない。パワーがあって野球の実力もあるもんがレギュラーじゃ。」





「でも、パワーがあっても野球の実力はない奴は練習に参加できるのに、


 パワーはないけど野球の実力がある奴は練習に参加できないんでしょ?


 何か不公平じゃないですか。」





パワーがあっても野球の実力がないと言われた数名の部員の中には


頭にきた奴もいたかもしれませんが、


こちらも頭に来てるのでついつい勢いで言ってしまいました。





「何じゃお前は、不満なんか?」





「不満というか、レギュラーは野球の実力で決めてほしいと思うだけです。


 今のレギュラーも野球の実力で決められたものですし。」





「練習に参加できんのが悔しかったら、パワーをつけぃ!」





「悔しいというか、僕はウェイトリフティング部員ではなく野球部員なので、


 ベンチプレスだけではなく、野球の練習をしたいと思うだけです。


 それに、パワーがあっても打てない守れないという奴ばっかりじゃ、


 試合に勝てないでしょう?」








確かに非力であることは認めるものの、


この野球部で控え組に回ることなどありえないと、


自分の野球センスには自信を持っていた私。


殴られるのは覚悟した上で必死の屁理屈でございます。





しかし、何故か大男は私を殴ることはありませんでした。


その目は、反抗的な小僧に対する怒りに満ち溢れておりましたが


恐らく、こいつを殴ってもややこしくなるだけだとでも思っていたのでございましょう。





ここで、キャプテン沼田再び参戦。





「監督。僕らもレギュラーは競い合って勝ち取るものだというのは分かっています。


 ただ、それなら全員で競い合わせてください。


 畑中が言うように、パワーがあっても打てない守れないでは試合になりません。


 来月に大会が控えているのに、今までのレギュラーが4人も抜けるのは不安です。


 全員で練習をさせてください。」





「ワシの言う通りにはできんという事か?」





「・・・いえ、そういうわけではありません。」





「じゃあ、バッティング練習の順番はどうするんじゃ?


 ワシの言うとおりパワーのあるもんから順番に打つんか?」





なんでこの大男はそこにこだわるかな・・・。





「出来れば上下の秩序もありますし、今まで通りの順番でやらせてもらいたいのですが。


 ただ、明日からは今まで参加していなかった1年生も全員加えます。」





「上下の秩序?


 ・・・ふん、じゃあそれでやったらええわ。 


 ただ、いつまでも好きなように出来るとは思うなよ。」





大男はかなり不満気ではありましたが、沼田さんの申し出を渋々了承。





整列していた部員たちは声を合わせて





「ありがとうございます!!」





と、大男に一礼。





今考えると、何故大男にお礼を言ったのかよく分かりませんが・・・。








何はともあれ、


この件で部員たちと監督の間に大きな亀裂が入ったのは明らかでございました。






                                                      (つづく)












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