〜 名演技 〜
職員室へ私を呼び出した澤地先生はもちろんのこと、
他の先生方も今の野球部の状況、というか私とジャイの関係を気にしていらっしゃる様子。
で、私がどう出るかでございます。
心のうちでは、
ここで全てを話したところでどうなるものでもないというのは分かっていましたが
せっかく吹き始めた追い風をとりあえず利用してみるのもひとつの手。
私は、ジャイが監督に就任してからの出来事を先生方に話すことにいたしました。
もちろん、追い風を有効に利用するためにジャイに対する私の反抗的な態度は控えめに、
それでいてジャイの数々の理不尽な仕打ちは若干大げさ気味に・・・。
このバランスが難しいところでございまして。
もちろん嘘をつくわけにはいきません、嘘はすぐばれるものですから。
まぁ、あまり大げさにせずとも
ありのままを話せばジャイの理不尽さは十分に伝わるとは思っていたのですが。
逆に、ありのままをを話したとしてもこんな漫画のような理不尽な出来事を
他の先生方も全ては信じてくれないだろうなぁ、というのがありまして、
若干大げさに言っておいた方が差し引きでいい具合に伝わるかなと・・・。
で、いつの間にか私と澤地先生を取り囲むような形で聞き入っていた先生方。
私が話し終えるとしばらくの沈黙の後、口を開いたのは数学の瀬川先生でございました。
「畑中の話が本当だとしたら、ちょっとひどいなぁ。
でも、いくら監督だからって権藤先生がそこまでやりますかね?」
ええ、ヤツはそこまでやってるんですよ瀬川先生!
続いたのは、私のクラスの担任で生物の島本先生。
「まあしかし、
こないだの大会で畑中がベンチ入りもさせてもらってないというのは事実ですからねぇ。
でも・・・。畑中、お前なんかやったんじゃないのか?」
なんかやった? ・・・まぁ、若干反抗的だとは思いますが。
私は何も言わずうつむいておりました。
「いや、確かに権藤先生が何の理由もなくそんな事するとは思えないですけどね、
野球部の顧問だった私としては、畑中がレギュラーから外されるというのは
いずれにしても納得が出来ない事ではあるんですよね。」
さすが澤地先生、分かっていらっしゃる!
しかし、国語担当の荒川先生が、
「でも畑中を疑うわけじゃないですけど、権藤先生の話も聞いてみないと
今の畑中の話だけでは俄かには信じがたいですね。」
・・・うーん。
ごもっともですが、荒川先生。
ジャイに話を聞いたところでヤツが全てを素直に話すとお思いですか?
しかし、状況が一気に好転することはなくとも何かのきっかけにはなるかもしれない、
そう思った私は、先生方に最後の一押しということで軽く一芝居打つことにいたしました。
ソファに座ったままうつむいた状態で、
先生方に見られないように目を思いっきり開いたまま、しばし瞬きをグッと我慢。
そして、眼球が痛みにこらえきれず程よく涙がたまった所でおもむろに顔を上げ、
「これは僕の問題ですから自分で何とかするしかないと思ってます。
それに、先生方が言われるように僕の方にも原因があるのかもしれないし・・・。」
潤んだ目で訴えかけて、
さらに軽くうつむきながら目を閉じると涙がポロッ・・・とこぼれ落ちると思ったのですが、
中々思い通りにはいかないものですな。プロの役者さんはさすがでございますわ。
しかし、これでも私にしたら一世一代の名演技といっても過言ではないくらい。
そして、この私の殊勝な態度は先生方の同情票を集めるにはそれなりに効果があったようで、
少しずつですが、事態が動くことになるのでございます。
(つづく)