〜天敵現る!!〜
3年生が引退した後の新チームになって、とりあえずは当初の目論見どおり
晴れて1年生でレギュラー獲得とあいなった私。
この時点で私らの学年からは
キャッチャーの古木と二人だけがレギュラーに昇格しておりました。
1学年上の先輩方4名が気の毒にも控え組にまわったのですが、
そこは弱小野球部とはいえ実力勝負ということで、
先輩方も納得されていたようでございます。
それから半年ほどは、それなりにキツイ練習をこなし、
大会や練習試合にも当然出場し、
勝ち続けることもなく負け続けることもないという程よいチーム状況の中、
私自身も主力メンバーとして、それなりの成績を収めておりました。
そして高校野球生活2度目の春。私はめでたく2年生に進級。
新学期初日、始業式の日を迎えました。
生徒たちが進級すると同時に、公立高校では教員の移動なるものもあるわけで。
この年も数名の先生方が我が高校を去り、
入れ替わりで数名の先生方が我が高校に赴任してこられました。
新しい先生方の紹介も含めた始業式を終え、
グランドで新学年として初めての練習の準備をしていると
そこに現れたのは、野球部監督の澤地先生。
監督なのですからグランドに来るのは当然なのですが、
この日は、身長は190センチを余裕で超えているであろうと見受けられる
大男と一緒でございました。
その大男は、新しく赴任してきた権藤と言う名の体育教師。
始業式で全校生徒に挨拶された際には、その身長もさることながら
面長でそこそこごつ風貌の見てくれと、低いこもり気味の声が
往年の人気レスラージャイアント馬場を彷彿させ、
男子生徒を中心に注目を集めた人物でございます。
化学が担当の澤地先生は白衣姿。
体育教師の大男はタンクトップに丈の短いピッチピチのホットパンツ姿。
並んでグランドに立つ場違いな二人の格好を見て、
「ここは野球部の練習場ですが・・・?」
と、突っ込みたくなったのは私だけではなかったはず。
しかし、そこは礼儀を重んじる高校球児です。
すっとんきょうな格好の二人に対して全部員が直立で帽子をとって大声であいさつ。
すると、
「みんな集合してくれるか。」
と澤地先生。
間髪いれず、キャプテン沼田さんの
「集合!!」
という大きな号令で全部員がダッシュで監督のもとへ集合。
・・・あらためて振り返ると、
体育会系の部活って何となく軍隊じみたところがありますなぁ。
で、整列した部員たちを前に澤地先生は静かに話し始められました。
「えー実は私、野球部の顧問を退くことになりました。
それで、こちらにいらっしゃる権藤先生が
私に代わって野球部の顧問になられます。」
寝耳に水の私たち部員はノーリアクション。
まぁ、澤地先生は毎日熱心に練習を見に来られる感じではなく、
練習内容も私たち部員が考えてやっていましたので、
顧問を退かれると言っても、部員たちは
自分たちにそれ程影響はないと思っていたというのが実際のとこだと思います。
そんな部員たちのノーリアクションぶりもお構いなしに話し続ける澤地先生。
「権藤先生は体育の先生ですし。見ての通りの立派な体格で、
若い頃はレスリングで国体出場を目指していた程の方です。
化学が専門の私よりは、監督として君たちの身になる指導をして頂けるでしょう。
これからは権藤新監督の下、甲子園を目指して切磋琢磨していって下さい。」
ん?
レスリング?
僕ら野球部ですが・・・?
などという疑問を抱いたのは私だけではないはず。
その後、大男は新監督就任の挨拶。
結局、本人からも野球経験についての発言は聞かれずじまいでございました。
まあ今思えば、野球経験や野球部の指導暦に特筆すべきものがあれば
この時点で話をしないわけはありませんわなぁ。
かくして我が野球部は、野球経験も指導経験も未知数の大男に舵を預け、
新しいスタートをきることになったのでございます。
これが悪夢の日々の始まりでした・・・。
(つづく)