〜 山上の告白 〜
格下の相手に大敗を喫した練習試合。
翌日からはチームのムードもさらに悪くなるばかり、
ジャイの横暴ぶりもさらにひどくなるばかり、でございました。
そんなある日の練習後のこと、
ユニホームを着替えるため更衣室へ向かおうとしていると、
山上に呼び止められました。
「畑やん、ちょっと話があるんだけど。」
山上は、私だけではなく
同級生の2年生部員全員をグランドの隅に呼び寄せました。
私たちを前に、深刻な顔の山上。
「俺、野球部辞めようと思うんだ。」
山上の言葉は、冗談には思えませんでした。
「俺さ、自分でも野球が下手なのは分かってるんだ。
それなのに、体が大きくて力があるってだけで
バッティング練習は先輩たちより先に打たされるし、
こないだの練習試合だって、本当なら俺なんか出れるわけないのに・・・。」
山上の突然の告白に、黙ったままの私たち。
考えてみれば、確かに山上もつらい立場だったのかもしれません。
野球の実力的には部員の中でも劣る方にも関わらず、
ジャイからはレギュラークラスの先輩よりも優遇されるという状況。
山上が精神的に苦痛を感じるのも当然でございましょう。
日本全国に何万人も存在する高校球児。
もちろん、ほとんどの高校球児が目指すのは甲子園という大舞台なのだと思います。
しかしすべての高校球児がそうかというと、私はそうは思いません。
中には私がそうだったように、
甲子園は夢のまた夢と諦め、自分の丈にあった高校の野球部で
それなりに試合に出られればいいという考えの高校球児もいるでしょうし、
中には、実力的にレギュラーになることすらかなわなくても、
ただ野球が好きだから、試合に出られなくても
野球部にいるだけでいいという考えの球児もいると思います。
そして山上は、間違いなくレギュラーになることなど考えていないタイプでございました。
考え方は人それぞれです。
はなから甲子園出場を、はたまたレギュラー獲得すら諦めてしまうというのは
根性がなく、高校球児の精神にもとると感じる人もいるかもしれません。
でも、それぞれ目指すもののレベルが違っても
楽な練習だけで3年間を終えられる野球部などほとんどないと思います。
どこの野球部も、それなりに厳しい練習を積むのでございます。
レギュラーにすらなれないと自覚している選手が
レギュラークラスの選手と一緒に厳しい練習に耐えるというのは、
それはそれで、すごい精神力だと思います。
もしかしたら、楽で楽しい練習だけで
野球を楽しむ事に徹する方針の野球部もあるかもしれません。
それは、それぞれの考え方です。
言ってしまえば、野球部も高校の部活動のひとつでしかないのですから。
ただ、我が野球部は
甲子園を目指しているわけではないにしろ
それなりに厳しい練習を積んでおりました。
で、結局のところ何を言いたいのかと申しますと、
山上は、レギュラーになることはないと自覚しながらも
私らと一緒に、毎日厳しい練習に耐えてきたわけで。
それは、かなりの根性の持ち主だという証だと思うわけで。
そんな山上が「辞めたい」と言うくらいですから
かなり精神的に追い詰められていたのだろうということは
予測がつくわけで。
そんな事を考えると、
山上にかける言葉が見当たらず皆しばし沈黙。
ところが・・・
「お前ふざけんなよっ!!」
山上に厳しい言葉を浴びせたのは古木でございました。
(つづく)