〜 嵐を呼ぶ練習試合 〜
いわば格下の相手との練習試合で、6回までに7点もの大量失点で敗戦ムード。
まぁ、ここんとこ練習時間のほとんどは懲罰の片足跳びとウサギ跳びに費やされ
そのおかげで、部員たち皆の下半身は肉離れ寸前。
と、いうのを考えれば予想できないことではないんですけどねぇ。
監督のジャイも指揮らしい指揮をとれるわけもなく、
守備の時はエラーをした選手に対して
「気合い入れて守らんかぁ!!」
と、野次ともとれるような声を浴びせ。
攻撃の時には
「思いっきり振り回せぃ!!」
の、一点張り。
そこには何の戦術も見当たりません。
この状態で、試合に勝とうというのは中々難しゅうございます。
しかし、ジャイはどうしても納得がいかないらしく
試合も終盤に差し掛かった頃、とうとう動き出しました。
それは自軍の選手たちが7回の守備についた時でございます。
ジャイはベンチの隅に陣取っていた、私を始めとする控えの選手たちの方を見て、
「おい。」
と、声をかけました。
おやおや、今さらながら選手交代ですか?
と思ったのも束の間でございました。
「お前らは、何をやっとるんじゃ?」
はい? 何をと言われても・・・、強いて言うなら控えてますが・・・。
「お前ら補欠がそんなとこにおっても何の役にも立たんのじゃぁ!
試合をぼーっと見とる暇があったら、筋トレでもやっとけやぁ!!」
えっ・・・・!?
それってもしかして・・・、
ただの八つ当たりでは・・・?
それとも、
試合を見ているだけでは何の役にも立たない私たちが筋トレをやり始めると、
奇跡の逆転劇が見られるとでも?
もはや反抗する気も起こらず
私ら控えメンバーは、試合中にも関わらずグランドの隅で
筋トレを始めることになったのでございます。
そして、試合の方はと言いますと、
私ら控えメンバーの必死の筋トレの甲斐なく
その後もさらに失点を重ね、0対12で無残な状況。
練習試合なのでコールドはなしにしましょうという
試合前の取り決めが、悲しい結果を生んでしまいました。
グランドの隅で黙々と筋トレに励んでいた元レギュラーの私は
もしかしたらの期待も虚しく最後まで出番なし。
結局、監督のジャイは最後まで戦術の指示を出すことも
サインを送る事もないまま・・・だったのですが、
最終回の攻撃でやらかしてくれました。
1アウト、ランナーなしから最後っ屁のような代打攻勢。
まずは、3番のセンター川尻さんに代わって2年生の山上。
続いて、4番のファースト沼田さんに変わって1年生の松崎。
そう、代打に送られた二人は
ベンチプレス事件の際、部員の中で最も重いバーベルを持ち上げ、
ただそれだけで本人らが戸惑うほど、ジャイから優遇され続けている二人でございます。
結果は、あえなく連続三振でゲームセット。
この二人、確かに体格もよくパワーもあるのですが
中学生、いや小学生の頃からレギュラーになった経験はなく、
1年生の松崎はもちろんですが、
2年生の山上も、この試合が高校に入って初出場。
通常ならば、3番、4番というクリーンナップの選手の代打として登場する事など
考えられる二人ではないわけで。
しかし、この時はすでに大差で試合結果は見えておりましたし
部員の皆もそれ程抵抗感はなかったのですが・・・、
この代打攻勢が、数日後に小さな嵐を巻き起こす事になるのでございます。
(つづく)