〜 優遇と冷遇の間・・・ 〜
数日前まで順風満帆な高校野球生活を送っていた私。
それが突然、レギュラー降格のピンチという最悪の事態に陥ったわけで。
しかし若輩な高校球児には中々決定的な打開策を見つけられなかったわけで。
現状のままではマズイと思いながらも、どうすることもできず
理不尽な監督の指導の下で、ぐっと我慢の日々。
しばらくすると、私たち部員の間では監督の大男のことを
“ジャイ”というニックネームで呼ぶことが定着いたしました。
見てくれが往年の人気レスラー、ジャイアント馬場に似ているというのもあったのですが
どちらかというと、その傲慢振りが
人気アニメ『ドラえもん』のイジメッ子キャラ、ジャイアンに通ずるものがあるというのが
命名の理由でございます。
しかし、国民的アニメの人気キャラクターの名をそのまま与えるのは気がひけるので
“ジャイ”だけ。
ジャイの傲慢ぶりは練習の指導にもありありと表れるものでございました。
その指導法というのは、根性と懲罰を前面に打ち出した古いタイプの体育会系。
別に体育会系の指導が悪いというわけではないのですが、
ジャイの場合、どうしても理不尽ぶりが目立つものでございまして・・・。
たとえば、フリーバッティングの場合。
ジャイはふたつ並んだバッティングゲージの後方にパイプ椅子を持ってきて
キャッチャーの後ろから練習を見る形で腰掛けます。
しかし、その位置から技術的なアドバイスを送るわけではございません。
何をするかというと、ストライクとボールの判定をするのでございます。
そして、バッターがストライクを見逃そうものなら
それが、たとえボール気味の際どいコースであっても、
「おい!何で今の球を打たんのじゃ!」
と怒号をあびせ、
「ストライクを見逃した罰じゃ!ケンケンでグランド一周してこんかぁ!」
ということで、その選手は
その時点でバッティング練習を強制終了させられて
片足跳びでグランド一周という懲罰を課せられるのでございます。
まあ、ストライクを見逃すまいという集中力を養うということであれば
百歩譲って納得も出来ようものでしょうが、
いかんせん、ジャイのストライクゾーンが滅茶苦茶!
しかも、ここでもベンチプレス事件が尾を引いておりまして、
ジャイお気に入りのパワフル組に対してはストライクゾーンが狭くなるのに対して、
非力組に対しては、驚くくらいストライクゾーンが広くなるわけで。
ということは、ジャイの判定のサジ加減で
パワフル組のバッティング練習時間は長くなり、
非力組のバッティング練習時間は短縮されるという
優遇と冷遇の差が歴然としてくるのでございます。
そして、ありがたいことに私には
誰よりも広いストライクゾーンが与えられたわけでございまして・・・。
(つづく)