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第六幕 思いの丈(五)

 駅前のうらぶれた雑居ビル。鉛筆のような細長い建物の六階にその骨董屋はあった。非常階段にまで商品が溢れかえっているが、客が入っているのを見たことがない。

 笑美は勾玉を懐でしっかりと握りしめ、扉をくぐった。


「ごめんください」


 棚に飾られた鸚鵡おうむの剥製のささくれた尻尾にぶつからぬよう、頭をかがめて店の奥に進むと針金みたいに細いおじいさんが椅子に腰掛けている。見かけはこんなによぼよぼでも、この店の中ではきっと新しい部類だ。それくらい古く薄汚い商品ばかりが並んでいる。


「持ってきたわよ。これ、売れるかしら」


 笑美は持ってきた勾玉をおじいさんに手渡す。その指も火かき棒のように細長く、曲がっていた。おじいさんは黙って勾玉を鑑定する。眼鏡越しの目は真っ黒で何かを映し出しているようには見えない。まるで見えない何かを探るようだった。


「お嬢しゃん、これを、どう、したんだい?」


 消え入りそうな声で話すおじいさんに、笑美はある人から貰ったと答えた。


「これは、素晴らしい、代物だ。さぞ、銘品に、しがいない」


「やった! じゃあ約束どおり例の買手を紹介してくれるの?」


「来月の、ふふかの夜に、大規模な、盗難品の競売が、ある。世界じゅうの、収集家が集まる、だろう。何か、わかるかもしれない。いってみるがいい、お嬢しゃん」


 笑美は何度も礼を言って店を出た。

 来月の二日。遷御の日だ、と笑美は思った。



 笑美はその夜、神宮林に潜り込んだ。会えるかどうかはわからなかったが、晴人は前に会ったときと同じ場所で、じっと一点を眺めていた。

 笑美に気づいた晴人が親しげに声を掛ける。


「よお、釣り師」


「違うわよ!」


「泥棒巫女のほうが良かったか?」


「笑美! わ・ら・びっ!」


 笑美は晴人の耳元で怒鳴り散らす。


「いたたたた。わかったよ、今日は何しに来た?」


「盗品のオークションに参加できることになったの。これで犯人が見つかるかも。……あんたのおかげ」


「別に俺は何もしてないさ。で、いつあるんだ? そのオークションは」


「来月二日の夜中に」


「ふうん」


 晴人は曖昧に相づちを打った。遷御の日であることに気がついたのかもしれない。


「……その、ありがとう」


 笑美はぶっきらぼうに感謝を告げる。


「礼なら愛護寺の御神体が見つかってからにしてくれ。ぬかよろこびは御免だからな」


「絶対に見つけるわよ」


「ふん。頼もしいな」


 晴人が鼻で笑ったように思えて、笑美は気を悪くする。思わずつっけんどんに


「なによ? 悪い?」とけんか腰になった。


「いやいや、羨ましいだけだ」


 晴人は両手を掲げて敵意がないことを示し、やんわりと笑った。その意外にも春の日差しみたいな穏やかな笑みに笑美は少し困惑する。


「わざわざ礼を言いに来てくれたんだろう? 悪かったな、神宮林の入り口まで送ってやるよ」


「いいよ別に」


「変に誰かの式神に引っかかっても困るからな。俺のためだよ。この場所は誰にも知られたくないから」


 そう言われて笑美はあたりを見回した。暗くてよく見えないが、特に変わったものは見当たらなかった。ただ大きく割れた岩と一本の折れた若い檜が、最近大きな嵐でもあったのかと思わせるくらいだった。


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