第五幕 黄泉(三)
「……う……」
晴人が目を醒ますと、外は見知らぬ世界だった。うつぶせで地面に倒れ込んでいたらしい。地についた右耳からは地鳴りのような音が響いている。目線だけ動かすと、空は赤黒い雲に覆われて、何から何までうっすらと赤茶けて見えた。晴人はゆっくりと起き上がる。一本の道だけが続く、見渡す限りの荒野だった。緩やかな斜面で、枯れた木々が点々と見える以外は何もない。
「やっと起きたかい?」
どこからともなく子供の甲高い声が聞こえて、晴人はあたりを見回した。
「ここだよ、ここ」
ズボンを引っ張られて下を向く。小学生にも満たないような幼子が、晴人を見上げていた。目が合って幼子は無邪気な笑顔を浮かべる。ぼさぼさの髪に紅い肌。獣皮に腰蓑を巻いている姿はどこか子鬼を思わせた。
「……誰だ、お前?」
「カグツチだよ」
「カグツチ?」
「そう。火之炫毘古神って呼んでくれても良いけど、ちょっと長いよね? ボク、この名前は自分でもときどき噛んじゃうんだよ」
そう言ってカグツチは再びにっこりと笑った。晴人は頭を振って記憶を呼び起こそうとする。
「ここはどこだ?」
「わからないの?」
「わかんねぇよ」
「黄泉だよ」
「黄泉?」
「きみが来たがったんでしょう?」
カグツチがすました顔で聞き返す。
「俺が……?」
ぼんやりした頭が急にはっきりしだした。
(そうだ。自分で行きたいと望んだのだ。葉月に会うために)
晴人はカグツチと名乗る子供の肩を掴んで揺さぶった。
「おいっ。ここで葉月に会えるのか? どこにいるんだ?」
「あ、あ、案、内、する、よ」
カグツチはがくがくと揺さぶられながらも、自信たっぷりにそう答えた。手を離すと坂の下を指差して歩き出す。晴人も後を追って歩きかけて、ふと何かを忘れているような違和感にとらわれる。はっと気づいて慌てて腰をまさぐった。
「十束剣はっ? 十束剣はどこに行った??」
カグツチはとんでもなくびっくりした表情で口を開いた。
「ここにいるじゃないか」
「は?」
「ボクだよ、ボク」
晴人はまじまじとカグツチを見つめた。呆気にとられるとはこういうときを言うのだろう。
「ここは外見じゃない、御霊が形を成す世界なんだ。だからボクは十束剣ではなく、カグツチとしてここにいる」
晴人は眉間にしわを寄せた。
「ん? 十束剣がカグツチってことなのか?」
「ボクはむかし父さんに十束剣で殺されたんた。そのときボクの心が血飛沫のひとつとなって剣にこびりついた。それ以来、ボクの御霊は十束剣と共に生活している。そういえば、きみの御霊だっていまは十束剣のなかに閉じ込められているじゃないか。だからきみの体も十束剣に従うただの式神に過ぎない。試しに自分の頬を触ってごらんよ」
カグツチに言われたとおり自分の左頬に触れてみる。「逆っ」とカグツチに指摘され右頬を指でなぞると、そこにあるはずの刀傷の感触が存在しなかった。
「あれ、傷がない」
「いまの自分が御霊であることは理解できたかな?」
「なんとなく……」
晴人ははっきり言ってほとんど理解できていなかったが、これ以上難しい会話にならないように頷いた。十束剣が無事であるならばそれで良い。
「うん。よろしい。じゃあ、行こうか」
カグツチの先導で長い坂を下りながら、晴人は思いついたことを口にした。
「そういえばここに来る前に俺に黄泉への扉を開かせたのは誰だったんだ?」
「それもボクだよ」
「いやっ、だって、めちゃくちゃ渋くてダンディーな声だったぞ!?」
「だから現世と黄泉では姿形は一致しないって、たったいま説明したばかりじゃないか。現世では何千年と生きているんだ。そりゃ年も取っちゃうよ」
「……そんなもんなのか?」
「そうだよ」
カグツチはこの話題にはもう飽きてしまったようで、それ以上の説明はしなかった。代わりに二人の関係性についてあれこれを語り出す。
「ねえ、そういえば二人とも十束剣のなかで生きてるんだよね。仲間だね。こんな同じ釜の飯を食う的な関係をなんて言うのかな? 家族ならぬ、十束剣ぐるみの付き合い? それとも一心ならぬ、二心同体? あ! 十束剣で結ばれた、棒兄弟とか!」
「ぜってーに違う」
******
同じ頃、威彦も何もない荒野を彷徨っていた。
赤黒い雲が落ちてきそうなほどの圧迫感をもって厚く垂れ込めている。あたりを見渡しても人影は見えなかった。どれだけ注意深く探しても、進めそうな道は一本しかない。
緩やかな坂を登るか、下りるかである。
「くそっ。晴人のやつ、どこ行った?」
言霊はここでは効果を示さなかった。持っていた護符をより合わせて式神を作ろうとしても無駄だった。これでは自分の足を使う以外に晴人を探す手立てがない。
「どっちだ」
威彦は迷った末に坂を登ることにした。もし間違っていた場合に下りるほうが容易な気がしただからだった。どこかに足跡など残っていないか慎重に確かめながら、威彦は歩みを進める。
どこまで進んだのか途中から時間の感覚がなくなった。景色も変わらず、厚い雲が昼か夜なのかも隠している。威彦は不安にかられて引き返したくて仕方なかったが、なにか成果を、せめて目処か目印がつけられなければ無駄足になってしまうと踏ん切りがつかなかった。先程から妙な違和感もある。
威彦の違和感はしばらく続いたが、やがて気がついた。どれだけ上ってもまったく疲労をしていない。無意識に心拍を確かめようと胸に手をやる。何も感じなかった。
確かだったはずのものがないと、不安は急激に増大する。威彦は呼吸に耳を澄ませ、手のひらから心臓の鼓動を感じ取ろうとした。
息はしている。だが何度確かめても心音は聞こえなかった。
試しに呼吸を止めてみる。苦しい、ような気がする。だが、本当にそれは息苦しいのかどうかもわからない。
(なんだ? いったいなんなんだ? 心臓が動いてないのに息をしてるだと?)
考えれば考えるほど混乱した。この特殊な状況から、ここが異界であることは間違いなかった。
(晴人の行方も知れず、現実に戻る方法もわからない。どうするんだ? 俺はどうしたら??)
威彦は自分の腿を数発、自分で殴った。
「落ち着け……落ちつくんだ……」
こんなときこそ冷静に考える必要があった。この世界のことをあれこれ考えてもしかたがない。常識が通用する場所ではないのだ。だとすれば、考えることは十束剣に絞られる。
威彦は改めて景色を見回した。どう見たところで一本道しかない。
(方向さえ間違わなければ、晴人を見つけることもできるだろう。しかし、果たして登りで合っているのか……)
威彦が自信をなくして立ち往生していると、延々と長い坂道を下ってくる人影が見えた。晴人かと思ったが、シルエットはもっと細身で女性的だ。近づいてくるにつれ、徐々にはっきりと見えてくる。着物姿の女性だった。笠を被っているために顔が見えないが、しずしずと背筋を伸ばして歩く姿にはどことなく気品が感じられる。
やりすごすにも身を隠す場所もなく、威彦は警戒しつつもその女に話しかけることにした。
「すみません。ちょっと良いですか?」
女は立ち止まった。背丈は威彦の肩ほどで顔は笠に隠れて見えない。
「男を見ませんでしたか? 背は僕より低くてあなたより少し高いくらい、顔に傷のある男です。僕と兄弟なので少し面影が似ているかもしれません……」
威彦は自分にかかっている魅了の呪術が有効であることを願い、そっと女の顔を覗き込む。もし効くのならば、話がうまく進む可能性は高い。
「……っ!」
女の顔を見て威彦は息を呑んだ。あまりに醜かったからだ。肌は緑色で口が大きく、蝦蟇のように頬が下ぶくれている。小さな膨らみでしかない鼻に、線を引いただけのような細い眼。女が体を大きく膨らませる。
「おまえぇはだれぇぇだぁぁ」
着物がびりびりと破れ、脂肪の塊のような肢体があらわになった。みるみるうちに威彦の倍近い大きさになる。
「あしはらのにぃんげぇんがぁ、ぐぅ、おるばしょではぁ、なぁいぃぃぃ」
「熱っ!」
突然威彦の右手に激痛が走った。とっさに見ると皮膚が燃えて煙があがっている。
「いててててっっ」
威彦は懸命にたたき消そうとした。しかし火は消えずに肌は焼かれ続ける。やがて数秒ほどで火は自然に鎮まり、手の甲には火傷の跡が印のように残された。
「くっそ、なんだよこれ……」
「ふふ、黄泉の烙印よ」
どこかから別の声が聞こえた。威彦は周囲を警戒する。
「誰だっ! どこにいる!」
風が威彦の頬を撫でた。ひどく臭い風が二度三度。そのたび全身が粟立つ。
「卑怯だぞ! 姿を現せ」
「……いいわ」
ぶよぶよの女が大きな口を開けた。なかから霧のようなものがあふれ出てくる。威彦の前まで漂ってきたときにそれは猛烈に甘く匂った。とっさに息を止めるが皮膚から染みいってくるように匂いはきつく感じられた。毒かも知れない。そう思ったときにはもう遅かった。
「……っ!」
あちこちに腐乱した女の死体が立っていた。ゆっくりと威彦に向かって近づいてくる。そのひとりひとりに威彦は見覚えがあった。
「威彦さま……またお会いできましたね……」
「オゥ、マイダァリン。ワイディド マァイダァイ?」
威彦が過去に神子として使役してきた娘たちだった。威彦の顔が恐怖で引きつる。
ひとりの神子の顔から腐った肉がぼろりと落ちて骨が丸出しになった。落ちた肉を拾って威彦に差し出す。
「ほら、私あなたのせいでこんなになっちゃった……」
神子がふうと息を吐くとあたりに臭気が漂った。先程と同じ匂い。腐臭。威彦はその場を逃げだそうとするが、ぶよぶよの女が立ちはだかった。仲間を呼んだのか同じような容姿の化け物が三人四人と集まって威彦を取り囲む。
「どけよっ! 邪魔だっ」
威彦が脇を抜けようとすると、女は短い腕で包囲した円の真ん中に突き返す。やがて腐った神子たちが威彦をがんじがらめに絡めとった。
「暴れないで威彦さま……私たちとまた楽しみましょ」
腐った胸を顔に押しつけられて、威彦は絶叫した。
******
「なあ、どこまで歩くんだ?」
「もうすこしだよ」
晴人はカグツチの後ろ姿に見飽きて何度も尋ねたが、カグツチから返ってくる返事は同じだった。赤黒い景色が延々と続いて、どれほど歩いたのか見当もつかない。
「見えた、見えてきたよ」
「ん?」
興奮するカグツチの指差す先にぼんやりと岩場が見えた。カグツチが駆け出したので、晴人も慌てて後を追う。
そこは岩場を利用した天然の祠だった。人ひとり通れるほどの小さな入り口には注連縄が巻かれている。
「ここはなんだ?」
「お母さんの家。八十禍津日神ちゃんの言った通りの場所だ。ここにくればきみの会いたい人がどこにいるのかも教えてくれるよ、きっと」
カグツチがそう答えると、
――葦原の人間が何しに来た。
地の底から響くような声がした。その声は凜として気品があり、聞き惚れてしまうような芯があった。
「お母さんっ」
――嗚呼、そなた……軻遇突智ではないか。愛しき我が子よ……。
「ボク、お母さんに会いに来たんだよ」
カグツチが誇らしげに胸を張る。
――それはなんとも嬉しい知らせじゃ。しかし何故このような者を連れてきた。
カグツチが口を開くより前に晴人が答えた。
「連れて帰りたい人がいるんだ。一条院葉月がここにいるのか?」
晴人の問いに声が答える。
――黄泉の国から葦原の国に戻ることはできぬ。
「俺たちは入れたんだ。出ることだって……」
――黙れ! お主らが決めたことであろう。比良坂を岩戸で封じたは何者ぞ! 恥を知るがいい!
激高する声に晴人は思わず天を仰いだ。この声の主がカグツチの母であるならば、きっと相手は伊弉冉に違いない。黄泉の国から伊弉冉が出てこれぬよう大岩を置いたのは、他ならぬ葦原の国の伊弉諾だ。
「では……せめて会うことはできないか?」
――ならぬ。いますぐここを立ち去れ。
岩場が大きく揺れた。凄まじく怒っているのが晴人にもわかる。
「ボクからもお願いするから。会わせてあげてよ、お母さん」
――そなたまでもが。何故このような者の肩を持つ?
「ここに来られたのが彼のおかげだからだよ。ボクのお母さんに会いたい気持ちと、彼の彼女に会いたいという想いが共鳴したんだよ。ボクはずっと謝りたかったんだ。ボクのせいでお母さんはこんな寂しいところに暮らす羽目になっちゃって、本当にごめんなさい……」
――何を言う、軻遇突智よ。決してそなたのせいなどではない。これはなるべくしてなった定めなのじゃ。わらわはそなたを産んだことを後悔などしておらぬぞ。夫の薄情さにはいまだはらわた煮えくり返っておるが……、それはまた別の話というもの。
「どうか、会わせてくれないか……」
一目でいいから葉月に会いたいと、晴人は重ねて伊弉冉に願った。その真摯な眼差しにうたれたのか伊弉冉も黙りこんだ。しばらくの沈黙のあと、聞こえてきたのは耳慣れた声だった。
「約束して。決して振り返らないと」
「葉月!」
晴人はその愛おしい声を聞いただけでぐっとこみ上げるものがあり、思わず涙を流した。振り返りたい気持ちを必死に抑え、わかったと返事をする。
おずおずと背中に温もりを感じた。葉月がそっと身を重ねているのがわかった。
「晴ちゃん……」
「葉月……ごめんな」
「いいんだよ。晴ちゃんが無事なら、それでよかった」
晴人はどうしようもなく悲しくなった。心臓が押しつぶされそうに辛い。この苦しさを一生抱えて生きていくのなら、死んだほうがましだとさえ思えた。
(自分も死ねば一緒にいられるのだろうか……。それともいっそ死ぬ気になれば……)
いざ葉月との再会を果たすと、晴人はそれだけでは満足できず、邪な考えが次々と頭をもたげてきた。
「カグツチ」
晴人はカグツチに声をかける。
「なんだい?」
「助かった」
「よせやい。照れるだろ」
「……ありがとう」
しつこい晴人の言葉にカグツチが小首をかしげたそのとき、晴人は葉月を背中に抱いたまま登ってきた道を猛然と駆け戻った。
「ちょっとっ」
背中で葉月が暴れるが、晴人は逃げないようにその腰をしっかりと抱きかかえた。地面が大きく揺れ、雷鳴のごとく声が響き渡る。
――おのれ小僧め。逃すと思うてかっ!
途端に太ももに強い痛みを感じた。肉が焼けるいやな匂いがする。
「ぐっ……っ」
傷を見る余裕もない。つまずきそうになりながらも晴人は足を止めずに走り続けた。葉月を現世に連れて帰る。いちかばちかの賭けに、晴人は臨むことにした。
道をふさぐように異形の怪物たちが次々と晴人に襲いかかったが、晴人は神速を用いて駈けに駆けた。晴人は安堵する。追跡は厳しいが、誰ひとりとしてこの早さについてこられない。
「晴ちゃんっ、無駄だよっ」
背中から葉月が声をかける。葉月の重みがいまは嬉しかった。耳が、背中が、手のひらが彼女を感じている。早く地上に連れ出して、正面から抱きしめてやりたかった。
「そんなのやってみなけりゃわかんねーだろーがっ」
晴人は懸命に走った。幸運なことに黄泉では息があがることがない。晴人はいつまででも駆け続けていられた。
しばらく坂を登り続けていると、前方に人が見える。
「ん……、兄さんっ!?」
威彦だった。雄叫びをあげて狂ったように転げ回っている。晴人は無視して通り過ぎようかとも思ったが、逡巡したあげく立ち止まって威彦の肩を揺さぶった。
「おいっ! ここで何をしているっ?」
「……るな……くるな……来るなっ……」
威彦は恐怖に目を見開いてうわごとを繰り返す。威彦がどうしてここにいるのか晴人は考える。死んでしまったのか。それとも自分を追ってやって来たのだろうか。
「あーーーーーーっ、ちくしょうっ」
晴人は片手で葉月を背負ったまま、もう一方の手で威彦を担ぎ上げた。暴れるので首筋を打って黙らせる。道はまだまだ続いていたが、疲労を感じない体には二人の重さなど苦にならなかった。
走っている間、晴人は葉月とずっと会話をした。それもたわいもない昔話ばかりを。どの話も楽しかった。喧嘩した思い出すら今となっては美しく思える。主な喧嘩の原因だった神子の務めについて、晴人はひとつの考えがふっと頭に下りてくる。
「はっ……もしかして、一回死んだってことは神子の契約は完了してるってことか? なあ葉月、そうなのか?」
「え、そんなの自分じゃわかんないよ」
「神弓を出してみろよ」
「ここで?」
「はやく!」
「でないよ」
「そうか。でないのか……やった! やったぞ! これで現世に戻ったらお前の望む普通の暮らしが出来るようになるってことだな」
そう考えると晴人は自然と溢れてくる涙を止めることが出来なかった。
葉月が普通の女の子に戻れる。
この忌まわしい不寺の血から逃れられる。
晴人は一刻も早く葉月の顔が見たかった。葉月が再三と注意しなければ、とっくに振り返って見ていただろう。現世に連れて帰っても無駄だと葉月は言う。けれども晴人は諦めなかった。時間の感覚がなく、一昼夜は走り続けたのではないかと晴人が思い始めた頃、道は唐突に途切れた。
まるで山のような大岩が道をふさいでいた。表面はおうとつもなく、断崖絶壁で登れそうにもない。
「これが伊弉諾が置いた大岩か?」
そのとてつもない大きさに晴人は途方に暮れる。脇道もない。完全にどん詰まりだった。
「どうすりゃいんだよ……」
のんびりしていると怪物たちが追いついてくるかもしれない。自分が犠牲になってでも、葉月はなんとか生き返らせてやりたい。その気持ちだけが晴人を突き動かしていた。気を失ったままの威彦を地に寝かせ、葉月を背負ったまま晴人が大岩相手に足がかりを作ろうと奮闘する。
「晴ちゃん、無理だよ」
「そんなことないっ。何か手があるはずなんだ、何か絶対にっ」
おもむろに背後から声がかかった。
「ボクを置いていかないでよ」
振り返るとカグツチが困った顔して立っていた。
「カグツチ、どうしてここに?」
「ボクときみは二心同体、いや棒兄弟なんだよ。離れられるわけないじゃないか」
「伊弉冉……いや母親はどうしたんだ? せっかく会えたんだろう?」
「感動の再会のはずが、きみの勝手な行動のせいでもう目茶苦茶だよぉ。でも大丈夫、いっぱい話ができたし、また会いに来てもいいと言ってくれたから」
「そうか……」悪かったと晴人は謝る。
「別にいいさ。現世にもどるんでしょ?」
「ああ、でもこの岩に邪魔されてどうしていいのか」
「どうやってここに来たのさ?」
「あっ」
カグツチがにっこりと笑った。
「いまから扉を開けるから、戻るよ」
カグツチが剣の姿に移り変わる。晴人は鮮やかに光を放つ十束剣を握った。




