でぃあ まい はいすくーる!
とある町のとある学校、いつも騒がしいこの高校は今日も――…
柚木葵、16歳。現在ある問題を抱えている。気付いてしまった……アレが無い事に……
「……であるからして、この場合のxは1となり……」
ポカポカと暖かいお昼前。退屈な数学の授業。わけの分からない数式やらが眠気を誘う。だが寝るわけにはいかない。この授業が終わったら………
―キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン………―
来た!
「じゃあ今日はここまで。」
早く!早く終わるんだ!
「起立……礼。」
「ありがとうございました。」
×多数
挨拶を言い終わる前に駆け出す。勢いよく1‐Bのドアを開け放ち、目的地を目指し走る。戦場……もとい購買部へと………
ふらふらと力なくドアを開ける………卑怯だろ……授業が早く終わってるなんて……。肩を落としながら席に戻る。
「よお!その様子じゃ、駄目だったみたいだな。」
「天斗……」
俺の隣の席で美味しそうに弁当を食べているのは七星天斗。黒髪のミディアムヘアーで、前髪の赤いメッシュが特徴的だ。
「あのさ、天斗……」
「やらねぇよ。」
「いいじゃん!小学校からの付き合いじゃん!」
「お前が弁当を忘れたのが悪い。」
ぐっ………もっともな事言いやがって。まさか弁当を忘れるなんて……今日は良くない事が起こりそうだ。………まあ、ここ最近良いことなんて無かったけど………
「女装でもして違うクラスの男子にねだればくれるんじゃねぇか?」
「そんなこと死んでもできるか!」
「あっそ。じゃあ餓死しとけ。」
なんて事言いやがるコノヤローは!確に、この長い銀髪と女顔、おまけに蒼い眼。そこら辺の女子よりは可愛いいけど………あー考えたら泣けてきた。
「ていうか、そんなに気にしてるんだったらその長い髪の毛切ったらどうだ?」
「冬姉に伸ばせって言われてんだよ!そんなことしたら殺される!」
冬姉こと柚木冬美は俺の姉だ。モデルをやっていてスタイルは抜群なのだが、どうやら俺をいじめる事が趣味らしい。前に黙って髪を短くしたことがあるが、その時は半殺しにされたあげく、俺の服を全て捨てられ、代わりに母さんが買ってきていた女ものの洋服がクローゼットに並べられていた。
「嫌だって言えばいいじゃねぇか。」
「それこそ無理だ!初期の勇者が魔王に勝つぐらい無理だ!」
「あ〜はいはい、わかったよ。」
コノヤロー、人事だと思いやがって………
「葵〜!」
ふと俺を呼ぶ声が聞こえる。声の主はさらさらの長い黒髪を揺らしながら近付いてくる。
「お。彼女が来たじゃねぇか。弁当恵んでもらえ。」
「幼馴染みだって!」
「二人でなんの話してるの?」
「いや、何でもない。」
コイツは俺の幼馴染みの如月夏澄。夏澄は可愛らしい弁当箱を抱えている。
「一緒にお弁当食べよ!」
「それが弁当忘れて来ちゃってさ………」
しょうがない。ここは天斗の言う通り夏澄に弁当を恵んでもらおう。
「ちょうど良かった!」
「?」
「はい、これあげる。」
夏澄はタッパーを俺に差し出した。
「調理実習で作ったカレーの残りだけど。」
夏澄はA組だ。そう言えば調理実習だって言ってたな。とにかく助かった!これで餓死せずに済みそうだ。
「………」
………フタを開けて絶句した。
「赤い……」
「超激辛だから♪」
あ〜なるほどね!超激辛だからか!唐辛子かなんかの色か〜……………
「殺す気か!!!」
しかもルーしかないし……。
「ひどい!せっかく作ったのに……心を込めて激辛にしたのに……」
うなだれる夏澄。……いや、普通にしろよ。調理実習なんだろ?いらない心を込めないでくれ………
「葵ちゃん!!!」
「わっ!?」
突然かけられた大声に驚く。声のした方を向けば、短い黒髪のボーイッシュな美人が立っていた。
「あ、香織さん……」
「ちょっと来て!」
いきなり腕を引っ張られる。香織さんは夏澄の部活の先輩だ。ちなみに合気道部で、同好会だったのを幾度もの優勝で部に昇格させたほどの強者だ。力強い!!!………合気道って力の弱い人が強い人に勝つための武術じゃなかったっけ!?
「ちょ、強いですよ!香織さん!た、天斗…夏澄、助け……!!!」
「無理!」
「無理だ。」
ひどい!!!即答!?
「助けてーーー!!!」
「どう!?ぴったりでしょ、佑李!!!」
「確に……適役だな。しかし男か………」
「そんなのいいじゃないの!」
香織さんと知らない女性が話している。肩にかかるぐらいの黒髪で日本の美人という感じだ。………というわけで、香織さんに連れられて生徒会室にいる。……なんで?
「あの……」
「この子で決まりでしょ!?」
「しかし男は………」
「もう!頭が固いんだから!女の子に見えれば問題ないでしょ!!!」
俺抜きで話が進んでいく………なんだか不穏な言葉が聞こえた気がするけど………?
「むぅ……確に女子に見えれば問題ないが……」
「じゃあ決まりね!決まりっ!」
「仕方あるまい。その線で行こう。」
なんか話がまとまったらしい。なんだろう………凄く嫌な予感がする……
「えっと……君、すまないが自己紹介をしてくれないか?」
「えっ?あ、はい。1‐Bの柚木葵ですけど……」
何なのだろうか。というかこの人は誰だ?
「私は2‐Aの獅堂佑李だ。生徒会長をやらせてもらっている。」
生徒会長!?そんな人が俺に何の用だろうか……
「では柚木、映画のヒロインは任せたぞ。」
………What?映画って何?ヒロインって!?
「何だ、聞いてないのか?」
「香織さん……?」
「ごめん!言ってなかったっけ?」
聞いてねぇ!いきなり引っ張られて来たんだし!
「実はね、もうすぐ新入生が入って来るでしょ?」
暦は2月。確にもうすぐ新学期だ。
「それでね、新入生の歓迎会では部活ごとに何かやらなきゃいけないんだ。それで生徒会は自作映画を放映する事になったの。ちなみに学園恋愛モノね。」
……あれ?
「香織さんは合気道部じゃないんですか?」
「そうなんだけど、生徒会役員でもあるから!」
「生徒会役員も部活をやっている者がほとんどだ。その者達は撮影に参加できない。そこで部活も何もしていないやつらの中から役者を選んでいる訳だ。」
それでヒロインに俺が選ばれたと……俺、男なんだけど?
「香織さん……?俺、男ですよ?」
「うん。知ってるよ!」
知ってるよ!っておい!
「大丈夫だ。女子に見えれば問題はない。」
ちょっと!会長!?
「なんで俺じゃなきゃいけないんですか!」
「ヒロインはね、転校してきたばっかりのクォーターの女の子って設定なの。ぴったりでしょ?」
うんうんと一人頷く香織さん。ぴったりでしょって……ていうか何でその設定にしたんだ……
「でも、相手役が決まってないのよね〜。そうだ!さっき一緒にいた男の子って葵ちゃんの友達?」
さっき一緒にいた?あぁ、天斗か。
「友達ですけど……」
「あの子、カッコ良かったから相手は彼に決定ね!」
………はい?
「そんなにカッコ良いのか?」
「かなりイケメンだったよ♪前髪に赤いメッシュがあって……」
「ああ、七星か!あいつなら問題ないな。」
「知り合い?」
「家が近所だからな。」
へー、そうなんだ……てことは会長は同じ中学か。全然知らなかった……じゃねぇ!!!天斗が相手役!?冗談じゃない!!!しかも、妹の雪奈も来年からウチの高校に通うんだぞ?歓迎会で放映したら雪奈にも見られるじゃねぇか!!!そんなの嫌だ!
「会長?香織さん?あの………」
「それじゃ、ヒロイン役と七星くんの説得、よろしくね、葵ちゃん♪」
「いや、ちょっと……」
「頼んだぞ、柚木。む?もう昼休みが終わってしまうな。教室に戻らねば!」
「じゃあーね、葵ちゃん♪よろしく〜♪」
そう言って二人とも生徒会室から出ていった。なにこれ?決定なの!?……なんか腹も減ってきたし……そういえば昼飯も食ってねぇ………泣いていいかな?俺、なんでいつもこんな目に………
「………なんでだーーー!!?」
誰もいない生徒会室に俺の悲痛な叫びが響いた。
その後、春休みをすべて返上して撮影が行われ、天斗に向かって歯の浮くようなセリフをいい続けた。そして新入生の歓迎会で完成した映画が放送され、『あの娘はだれだ!』と新入生、在校生ともに反響を呼んだのだった…………
後日談
「葵兄。」
「なんだ。」
「歓迎会の時の生徒会の映画良かったね。」
「そうか……」
「特にヒロインが『あなたの事が好きなの!』って言う所が♪」
「もうやめて………」
――…END
どうも!テストが終わって若干テンションがおかしいぺたです!さて、今回は学校編をお送りしました。なんか、キャラが変わってるような気がしないでもないです……もともと、とらぶるめーかーだけで終わるつもりだったので……正直、考えたけど使わなかったキャラを出してるだけです!まあ、というわけで(?)評価、感想をいただけると幸いです。連載にして欲しいという嬉しい言葉を頂いたのですが、どうしよう………f^_^;それではまたお目にかかる日まで。