第9話 花鳥の集会所へ
「見えてきたな!」
セリナを抱えて走り約10分、眼下に明かりに照らされた街並みが見える崖の上に着いた。
思い返せば二十年前も、俺が最初に訪れた町は『キースラーの町』だった。あれから百年経過したが、どれだけ変わっているだろうか。
「じゃあ、行くか」
「はい。あの……さっきの話の続きなんですけど……」
「町に入ってから話そうか」
それから俺はセリナと歩きながら、『キースラーの町』へ向かった
町の入口の関所まで着いた。案の定、鎧を着た憲兵らしき人物が何人もいた。憲兵の一人が、早速俺に目をつけた。
「止まれ、この辺りの者じゃないな!」
屈強な憲兵が俺の前に立ちふさがった。さっき会ったスネイルとローガンにも見劣りしない体格だ。
異世界から来たばかりで着替えてもない、この格好じゃ怪しまれるのは無理もないか。
「今夜この町の宿で泊まりたいんだ。通してくれ」
「どっからどう見ても、この辺りの者じゃない人間を、勝手に通すわけにはいかない。それとも身元を保証する物でもあるのか?」
「ギルドに登録しているのなら、ギルドカードがあるだろ? 持ってないのか?」
「……あぁ、持ってる。これでどうだ……」
女神からもらったギルドカードを渡した。さぁ、どんな反応をする。
「こ、これは……!?」
しばらく目を見開いて俺のギルドカードを凝視した。今度は隣の男とひそひそ話し合ってる。
「これ……ギルドカードか? なんか違うような……」
「でも……確かにギルドの正式なサインが彫ってあるぞ」
「旧式か? それにしてはだいぶ古い……」
俺のスキル〈聴覚強化〉が無意識に発動して、憲兵同士のひそひそ話が聞こえた。現役時代に相手チームのサインや、ピッチャーとキャッチャーの話を盗み聞きしたいがために生み出したスキルだ。
相手のひそひそ話を見ると、いやでも発動してしまうんだ。全く俺ときたら、まだ現役時代の癖が抜けないな。
「ゴーイチさん、あのギルドカードは?」
「昔ここに来た時に作ったギルドカードだが……どうかな?」
100年も前のギルドカードになるが、果たして通してもらえるか。といっても、これ以外に俺の身分保証となるのは存在しない。
「一つ聞くが、このカードを発行したのはいつだ?」
やっぱりそう聞いて来たか。正直に話しても信じてもらえないだろう。
「えぇと……だいぶ昔だ。はっきりした日付は覚えてない」
「…………」
まずい。ますます不審な目で見られた。せっかく異世界に戻って来たのに、初日から野宿とか勘弁してくれ。
「あ、あの……」
後ろにいたセリナが突然割って入った。
「ん? あなたは……?」
憲兵がセリナの顔を見て、目を見開いた。もしかして知り合いなのか。
「これは……セリナお嬢様ではありませぬか! 一体こんな夜遅くまでどちらまで?」
「ちょっとわけあって、西にある鍾乳洞まで行ってたんです」
「そうでしたか。しかしお一人で無茶しすぎですぞ」
「大変失礼しました。どうぞ、お通りください」
それまで頑なに道を阻んでいた憲兵もやっと両脇に移動した。
それにしてもセリナと知り合いだったとは意外だな。彼女は顔が広いのか。いや、家系のことを考えたら当然か。
「あの……この方も一緒にお願いします」
「この男を? セリナ様のお知り合いでしたか?」
「ゴーイチ・モリタさんと言います、私の新しいボディーガードでございます」
「ボディーガード? いつの間に新しい人を雇ってたんですか?」
「はい、つい先日で。まだ未登録かと思いますが、腕は確かなんです」
「これは……失礼しました。ではカードをお返しします」
憲兵が俺にギルドカードを返して、通ってもよいと合図した。
なんとか無事に町に入れた。セリナと顔を合わせ、ガッツポーズした。ナイスだ、セリナ。
「ところで、町に入れたのはいいが……どこで泊まる?」
「本当なら私の自宅でといいたいところですが……実はちょうど町の反対側にあって、かなり距離があるんです」
「……なら宿か?」
「はい。近くの宿まで案内しますね」
キースラーの町、20年ぶりに来たが、町の中の様子はあまり変わっていないようだ。もっとも夜だから、細かいところまではわからない。
しばらく歩いて、左へ曲がって大通りに出た。この通りは見覚えある。ここを北へ向かえば、ちょうどギルドに繋がってたと思うが。
「あちらの宿で泊まりましょう」
「……あの宿は!?」
なんという偶然の巡りあわせだ。思わず目を疑った。
あの宿は『花鳥の集会所』だ。煙突部分に花の形状を模した鳥の彫刻が設置されている。見間違えようもない。
まさか百年経った時代でも健在とは。ってことは待てよ。実は百年も経過していないんじゃないか?
いや、違うか。さっきの憲兵の会話を思い出した。俺のギルドカードを見て旧式とか言ってたもんな。だけど正確にどれくらい経過したか、それは把握しないと。
「いらっしゃいませ、ようこそ『花鳥の集会所』へ」
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