第5話 エルフの少女
さっそく〈瞬足〉のスキルの出番だ。六時の方向めがけ猛ダッシュ。
数秒経ったところでフードを被った少女の姿が目に入った。木の幹のそばで座っている。
案の定、魔物に囲まれている。しかもさっきと同じオークだ。
俺としたことが迂闊だった。こんな少女まで迷惑をかけることになるなんて。
「おい、こっちだ!」
声を掛けてオーク達の気をこっちに向けた。オークも少女ではなく、俺を標的に変えた。
こういう時、相手が人間とかだったら少女を人質にとられていた。オークにはそんな知性がない。
「ぶぎゃあああああ!!」
敵意むき出しで一斉に襲い掛かって来た。
まとめて倒すんだったら、さっきみたいな投球が一番いい。だけどそうなると、少女を巻き込みかねない。
となると、さっき拾った木の棒が役に立つ。俺は両腕でしっかり持ち、野球のバットのようにオーク目掛けてスイングした。
棒が腹部に直撃、手ごたえは完ぺきだ。オークはそのまま後方にある木まで吹っ飛び、ピクリとも動かなくなった。
「相変わらず凄い威力だ」
手加減したのにあそこまで吹っ飛ぶなんてな。ほかのオーク達は呆気にとられたのか、動かなくなった。あまりの威力の高さに怯え切ったのか。
でも所詮はオークか、やっぱり懲りずにまた襲い掛かって来た。今度はまとめてやられないよう、散開し始めた。
そして左右から二体のオークが同時に襲い掛かる。
少しは頭が回るのか。でもどんな襲い方だろうと、俺のバットの餌食になるだけだ。
「面倒だな……よし!」
さすがに棒一本で片づけるのは面倒くさい。俺は棒を右手に持ち替えた。
右から襲い掛かって来たオークを右手の棒でさくっと倒し、左から襲い掛かってきたオークの右腕を左手で鷲掴みにした。
「武器を借りるぞ」
「ぐぎゃあ!!」
左手でオークの右腕を捻って、そのままオークの棍棒を奪い、棍棒で頭を叩きつけた。
これで俺は二刀流だ。片づけるのが楽になる。今度は俺から突進して攻撃を仕掛けた。
オーク達は瞬く間になぎ倒された。棍棒の方が軽くて使いやすいな。
最後に残った一匹は、何が起きているのかわからない様子でただ狼狽していた。
もはや戦意をなくして、そのまま逃げていった。呆気ないな。
「大丈夫か?」
しゃがみ込んで頭を抱えていた少女に俺は声を掛けた。
「え? あの……オークは……?」
「見ていなかったのか? もう片づけたぜ」
「嘘? もしかして、あなたが?」
「ほかに誰がいるって言うんだ?」
少女は立ち上がって倒れていたオーク達を見下ろした。
それにしても背が高いな。声はかなり幼いのに、180センチある俺の身長よりやや低いくらいだ。多分170くらいかな。
そして、俺はもう一つ気になった。独特な香水の臭いがした。
この香水、以前にも嗅いだことがある。しかもかなり長い時間、まさかと思った。
「あの……危ないところを助けてくださり、改めてありがとうございます! 私はセリナと言います、何かお礼をさせてください」
セリナと名乗った少女は頭を下げて礼を言った。
「礼なんかいいって。あのオーク達を目覚めさせてしまったからな、後始末しただけだ」
「目覚めさせた? 一体どういうこと?」
さっきの衝撃音聞いてなかったのか。いや、ここで本当のことを言うと、面倒になりそうだから黙っておこう。
「それより聞いていいですか? あなたのお名前は……」
「……森田剛一だ」
「え? 今なんて……」
「森田剛一って言ったんだ」
「…………」
セリナが俺の名前を聞いて黙り込んだ。この反応は俺の名前を知っているな。
となると、やはりこの少女の正体は。
「どうしたんだ? そんなに気になる名前か?」
「いえ、なんというか……その……変わった名前だなって」
「そうか……まぁいい。とにかくここは危ないから町に……」
「おーい、大丈夫か!?」
突然遠くから誰かが呼びかける声が聞こえた。耳を澄ませば、足音も多く聞こえた。
武器を持った三人の男女が走ってやってきた。俺達の姿を見るなり止まった。
杖を持った女性、剣を持った男性、斧を持った男性の三人。
ファンタジー世界でよく見るいで立ちをしている戦士か、ここが現実世界ならただのコスプレ集団だが、こいつらは違うな。
「おい、さっきの悲鳴を上げたのは君か?」
「はい、私ですけど……」
「怪我はなかったかい? 多分魔物に襲われたんだろうけど、そいつらはどうしたんだ?」
「ごめんなさい、心配かけさせてしまって。でももう大丈夫ですから……」
「大丈夫って、まさかもう退治したのか?」
「はい、この方がオークを退治してくれました」
先頭にいた剣を持った男が俺の顔を見た。まじまじと俺の顔と体を見つめている。
そんなに物珍しいか。いや、よく考えたらそうか。俺はこっちの世界に来てから一度も着替えていない、つまり元いた世界と同じ姿だ。
長袖のカッターシャツ、チノパン、スニーカーとラフな服装だけど、こんな服装は異世界だと完全に浮くな。
「お前……一体何者だ? この辺りの者には見えないが」
「初対面なのに失礼だな、まず名前を名乗ったらどうだ?」
「剣士のスネイルだ」
「俺は……剛一だ」
「ゴーイチ? 随分変わった名前だな」
「変わっていて悪かったな」
「俺はローガンだ、斧使いをしている。よろしくな」
「魔道士のシモーヌよ。それにしてもあなた強いわね」
シモーヌと名乗る女性は、転がっていたオークの死体を見ながら言った。
「……腕だけは確かなようだな、あんた」
「俺達の出る幕じゃなかったな、急いで損したぜ」
「あなたどこの出身の人? 名前といいその服装といい、随分と変わっているわよね」
「別にそんなことどうでもいいだろ。あまり俺に関わらないでくれるか?」
「何よ。聞いてみただけじゃない、そんなに怒ることないでしょ」
「おいおい、二人とも落ち着こうぜ。まぁなんというか、このオーク達を軽くあしらえるだなんて、お前さんも相当強いんだなって思ってよ」
「強い人にはがぜん興味が湧くのよね。いつから戦士の修行積んでるの?」
「こいつらは最下級のオークだ。別にどうってことないだろ」
「いやいやオーク自体が強い魔物だから、最下級を退治しただけでも大した実力だよ」
「そうなのか」
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