第49話 天空竜の跡地
「ぴきぃいいい!!」
「ラズリー、頑張れ! もう少しで抜け出せる……はず」
満を持して入道雲に突入したものの、この暴風の強さは少し予想外だったかもな。サリアが掛けてくれた魔法バリアも徐々に薄くなってきた。
〈測定〉のスキルだと、風速毎秒70メートルにまで上がっている。毎秒70メートルといえば、台風の暴風レベルじゃない。
これは竜巻の最大風速並だ。メジャーリーグになった後でアメリカに渡ったが、そのアメリカでは毎年のようにどこかで竜巻が発生していた。竜巻は瞬間風速は台風の数倍以上もある。
今受けている風は、もはや竜巻レベルだ。この入道雲は自然に発生したものではなく、誰かが侵入者を阻むために設置したんだ。
邪竜教団の仕業に違いない。外側から見た入道雲は、内部にある巨大な竜巻をベールに包んでいたんだ。
「ぴ、ぴきぃいい……」
ヤバイ。ラズリーがばててきた。もう少しだってのに。
仕方ない。本当ならやりたくなかったが、ここはアレを使うことにするか。
「ラズリー、少し痛むが我慢してくれ」
ラズリーの背中には太い触角が数本生えている。この触角に鉄球をぶら下げたロープをくくりつけた。念のため持ってきてよかった。
この竜巻を、俺の〈場外ホームラン〉で突破してやる。この竜巻の最大風速と風圧を考えると、中途半端な力では逆に飛ばされる。相当な力を込めて〈フルスイング〉しないと。
進行方向と同じ方向に狙いを定め、目を閉じて深呼吸した。
「はああああああ!!」
渾身の力で〈フルスイング〉すると、手に持っていた鉄球はあっという間に見えない距離まで飛んでいった。どうやら竜巻を抜けたな。
「ぴきぃいいい!!」
一瞬でラズリーの速度が上がった。あやうく振り落とされそうになったが、どうやら俺の〈フルスイング〉の打球速度にうまくラズリーも追いついた。
これで入道雲を抜けられるぞ、ラズリー頑張れ。
「……よし、抜けた!」
雲を抜けたその先は、見渡す限りの青い空だ。風も心地よい。さっきまでのよどんだ雲の内部とは雲泥の差だ。
下を見渡せば、青い海も広がっている。いつの間にか大陸まで抜けて、外海のど真ん中まで来ていたのか。
「ぴきぃあああ!!」
「あれは……島? 浮かんでいる……」
空中に浮かぶ島が遥か彼方に見えた。目の錯覚じゃない、本当に空に浮かんでいるんだ。
あれこそまさしく『天空竜の跡地』。やっぱり本当にあったんだ。そしてサリアとセリナもあそこにいる。
「よし、ラズリー! あの島へ……あっ!?」
いかん。俺の〈フルスイング〉で打った鉄球の速度がかなり落ちてきた。思えばあの竜巻の中を突破したんだ、風の抵抗でかなり落ちていても不思議じゃない。
鉄球の速度が落ちると、そのまま重力で下に落下する。俺はロープをぐいと引っ張って、戻そうとした。でも次の瞬間、重みがなくなった。
「しまった、ロープが!!」
なんていうことだ。鉄球はそのまま下へ落下した。俺がロープをぐいと引っ張った瞬間、ロープが引きちぎられた。思えばこのロープ、バッカスの宿の倉庫からいただいたものだが、その時点でかなり使用感があったからな。いつ切れても不思議じゃなかった。
よりによってこんな時に頼みの綱が。
「ラズリー、すまない。ここからはお前だけが頼りだ、あの島まで持ちこたえてくれ」
あの嵐の中を突破したせいもあって、ラズリーはかなり疲弊している。せっかく再会したばかりでこんな重労働強いるだなんてな。セリナを救出したら、何かうまいものを食べさせてあげないと。
「ぴきぃああああああ!!」
「うぉ、どうしたラズリー? 無茶するな!」
急にラズリーの速度が上がった。急がなければいけないのは百も承知だが、このままじゃ体力がもたないぞ。
(ゴーイチ、聞こえる? あなたのおかげよ)
「サリアか? そうか……距離が近づいたから」
サリアの魔力伝導でラズリーの体力が回復したんだ。あじなことしてくれるな、でも助かった。
(大事な知らせよ、ついさっきだけど……セリナを発見したわ)
「なんだって!? やっぱりその島だったか!」
ついに見つけたか、シモーヌの読み通りだったな。帰ったらあいつにもご馳走してやろう。サリアによれば、眠らされて神殿の内部へ連れ込まれたそうだ。
「サリア。念のため、俺が行くまでそこで待機を……」
(そこまで悠長に待っていられるほど、私は気が長くないのよ。ましてや実の妹を……)
「やっぱりそう来たか。だけど……決して無茶するなよ」
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