第48話 勇者レイの正体
ボラリスには心当たりがあった。
「その鳥は……青色の体をしていなかったか?」
「えぇ、その通りです! よくおわかりで」
「ということは……あの男か……」
「まさか……男の正体をご存じで?」
「……ゴーイチ……」
ボラリスの推測通りなら、その男はサリア以上に厄介な存在だ。真っ先に始末しないといけない。
「絶対にその男を……この島へ侵入させるな! 少なくとも儀式が終わるまでは」
「その心配は不要かと。例の嵐の雲を突破できるはずがありません」
「ダメだ! 奴は……ゴーイチだけは例外だ! あなどるな!」
ボラリスが一喝し思わず部下もたじろいだ。
「ケンティマヌスを起こせ」
「え? ケンティマヌスを!?」
部下もその言葉を聞いて驚愕した。まさかと思い聞き返したが、ボラリスは否定せずすぐに頷いた。
「し、しかし……たかが人間の男相手にあのケンティマヌスを起こすなど……うぐっ!」
すぐに了承しない部下にボラリスは念力で首をしめつける。
「さっきも言っただろ。ゴーイチは普通の人間じゃない。奴はSランク冒険者以上に厄介だ」
「え、Sランク以上!? 一体あの男は……何者なんですか……?」
「お前には説明していなかったな。勇者レイの正体のことを……」
「勇者レイの……正体?」
勇者レイ。その言葉は同胞なら嫌でも知っている。ボラリスは念力を解き、巨大なオーブを浮遊させた。そのオーブに一人の少年の姿を映し出す。
部下も、そしてボラリスも何度も見たその姿はどこからどう見ても普通の人間の少年で年齢的には十歳前後。ただ同年齢の少年と比較すると、体格はがっしりしている。
背中に背負っているのは大きな棍棒、左手はなにやら部厚い毛皮のような素材で出来た手袋を着て白い球体も持っている。頭にはこれまた不思議な見た目の帽子をかぶっている。
本当に戦士かと疑いたくなるような不思議な見た目をしている。ましてや剣や槍ではなく、棍棒を振り回す戦士など人間界では主流であるまい。
だが、この摩訶不思議な少年が先代の神を倒したのだ。一体この少年がどうしてこれほどの力を宿しているのか、ボラリスだけが知っている。
「この少年こそ勇者レイ……本名はゴーイチ・モリタ」
「ご、ゴーイチ!? 今まさに例の巨鳥に乗っている男ですか!?」
ボラリスは頷いたが、部下にはまだ信じられない点がいくつもある。
「しかし……勇者レイは百年前の人間です。普通の人間は、たとえどんなに強い戦士だろうと百年も経てば衰えて老人になります」
「そう、それが人の運命……ゴーイチも例外ではない」
「ですが報告によれば、男は普通の成年で、年齢は三十代といったところです。エルフでもないようです」
「ゴーイチは紛れもなく人間だ。ただ……この世界出身ではない」
「こ、この……世界?」
「ゴーイチは……異世界転移者だ。お前にだけ、教えよう……」
ボラリスがどこからともなく液体が入った小瓶を取り出した。セリナをも眠らせた薬が入っている。
「それは……“クロロホルム”ですか? 睡眠魔法と同じ効果があるという……」
「そうだ。どうやらエルフにも有効だったようだ。まぁ、私が少し改良を加えたが……」
「そういえば聞いていませんでしたが、一体その薬はいつどこで入手されたのですか?」
「お前も知らなくて当然だ……この薬の入手先こそ、ゴーイチがかつていた世界……地球だ」
「ち、地球……!?」
「私も子供のころは知らなかった。世の中には知らなくていいこともたくさんある……だが私は知ってしまった……本当は知りたくなかったが……」
ボラリスはオーブを高々と掲げた。今度は一面青色を呈したかと思うと、ところどころ橙色に変わりだす。それは次第にある星の地図を描き出した。
「それは……世界地図? ですが我々の地図とは違う」
「これは地球儀を模したものでな。ゴーイチがかつていた地球を縮小して表現された模型の表面に、その地図を描いているのだ」
部下は目を疑った、ありえないことが起きているからだ。
「これは……どこからどう見ても球体ではありませんか?」
「奴がいた世界はこの通り丸い球体をしているのだ。もっとも、それは我々の世界にも言える」
「え? まさか……我々の世界が同じ球体? なにをそんな……」
「信じられないのも無理はない。だがお前は昔から疑問に思わなかったか? なぜ世界の果てが肉眼で見えないのか。神が巨大な壁を作ったからではなく、世界が球体だから見えないだけだ。空に浮かんでいる二つの月も丸いではないか」
部下は昔学校の講義で聞いた話を思い出した。
巨鳥に乗って世界をまたにかければ、この世界を一周し元の場所に戻ってこれるという。最初聞いたときは信じられなかったが、今のボラリスの話を聞いて氷解した。
「まぁ、ここで講義をしても仕方ない。ゴーイチがいたのはこの地球という世界、いや星というべきか。いずれにしろ、地球には我々の常識では考えられない不思議な力や能力を携えた人間がたくさんいる。先ほど紹介した薬も、この地球に住んでいる人間によって生み出された悪魔の薬」
「なるほど……ゴーイチもその一人だと……」
「そうだ。我々の常識が通用しない男……出し惜しみするな」
「……かしこまりました」
部下は了承し、そのまま祭壇の間をあとにした。
「……愚かな。地球の人間は本来ひ弱だ。ゴーイチが特別なのは、あの女が手招きしたに過ぎないんだよ」
「その言葉は聞き捨てならないわね」
どこからともなく女性の声が聞こえた。ボラリスがすぐさま振り向くと、いつの間にか金髪の女性が背後に立っていた。
「お前は……ミシェル!」
「ゴーちゃんはね、例外なのよ。普通の地球人と一緒にしないで」
「黙れ! たとえどんな理由だろうと、地球人をこの世界に連れ込み秩序を乱した。その罪は大きいぞ」
「乱そうとしてるのはあなた達の方でしょ。私はそれを防ごうとして……」
言い終わる前にボラリスは攻撃魔法を放った。しかしミシェルの姿はどこにもない。
「……もう人の話は最後まで聞きなさいよ、相変わらず短気ね!」
「やはり幻か。そんなに防ぎたいなら、自ら戦え、臆病者が!」
「臆病者でけっこう、私はね現世に干渉できないのよ」
「……まぁいい。そこで黙ってみておけ、今度こそ私の悲願は達成される、そうなればあの男も終わりだ」
「いいえ、歴史は繰り返すわ。ゴーちゃんは……あの時より強くなって帰って来たのよ」
ミシェルは強気に言い返すと、今度こそボラリスの前から姿を消した。
「生意気な女神め……繰り返すなど……あってたまるか」
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