第46話 精霊鳥の力
ジュスランがふらふらと立ち上がって、剣を振り下ろしていた。門のそばの壁に巨大な裂け目が生じた。
なんてタフな男だ。直撃したはずなのに。〈清流剣〉の使い手とは知っていたが、ここまで耐久力が高いのは予想外だ。
「許しはしない。たかが人間ごときが、高貴であるこの私に傷をつけるなど……」
「今そんなくだらんプライド気にしてる場合かよ! もう諦めてくれ!」
「ならん! 何度も言うが、お前達を絶対に中には入れさせん!」
「若様ー!! 助太刀します!!」
いかん。戦いが長引いたせいもあってか、邸宅の中から応援の兵士達がぞろぞろと出てきた。
「ゴーイチ殿! 挟まれましたぞ!」
「お前達、わかっているな。一歩も中に入れさせるな!」
ここに来て挟み撃ちかよ。さっき投げた小石で在庫が尽きた。
まさかさっき気絶していたのはフェイクか。最初からここで挟み撃ちにするのが狙いだったのか、策士め。
兵士達の数は二十人近くいる。要人がいるだけあって、かなりの数だ。一人ずつ〈神経突き〉で気絶させるのは簡単だが、その間にジュスランに攻撃される。
まずジュスランをなんとかしないと。でも小石はもうない。
「どうした? お得意の投擲攻撃はしないのか?」
「……ゴーイチ殿……」
「では今度こそ……終わりだ!」
ジュスランが踏み込む構えを見せた。その時、視界が暗くなった。そして、猛烈な突風が吹き荒れて横にいたバッカスと後ろの兵士達が吹き飛ばされた。
「うわああああああ!!」
何が起きた。態勢が崩れて俺も思わず膝をついた。でも目を上げた次の瞬間、思わず目を疑った。
「……ラズリー……?」
俺の地面の前に降り立ったのは、体長五メートルほどある巨大な青い体毛を生やした鳥だ。なんとも美しい毛並みだ、そして羽と尻尾は孔雀のように色鮮やかに光っている。
間違いなくラズリーだ。百年経った今でもその外見は変わらない。ゆっくりと丸い瞳で俺を見下ろした。
「ラズリー、一体何の真似だ!? いきなり私達の前に降り立つなど……」
「ぴきぃいいいいいい!!」
「ら、ラズリー……?」
あろうことか、ジュスランを威嚇しだした。もしかして俺の援護をしてくれているのか。
「か、体が!? これは念波か……サリアめ……」
「サリア? そういうことか……ありがとう……」
サリアとラズリーは一心同体、どんなに遠く離れてもお互いに心で通じ合える仲なんだ。
恐らくサリアが呼びかけたんだ。だとしたら、サリアがいる場所はもうあそこしかない。
「ラズリー……乗せてもらえるのか?」
「ぴきぃい!!」
ラズリーは俺の呼びかけに答えて、自ら背中を態勢を低くした。やはり俺のことを覚えていてくれたな。
「よせ……人間を……乗せるなど……」
「ジュスラン、もう諦めろ。どっちが正義か、俺が確かめてくる」
「……ゴーイチ殿……」
「すまん、バッカス。どうやら俺だけのようだ」
「……いえ、大丈夫です。私はここに残ります。なんとしても……セリナ様をお助けください!」
言われなくてもわかってるさ。サリアの行為、無駄にしない。
「飛び立て、ラズリー!!」
「ぴきぃいいいいいい!!」
一瞬の間、数秒もしないうちに俺は『ティアランピア』を眼下に見下ろせる高さまで上がった。この上昇速度、飛行速度、百年前と何も変わらない。本当にすごい鳥だ。
ラズリーは精霊鳥の一種と言われている。精霊鳥は鳥族の中でも最上位に位置し、その飛翔能力もさることながら、不思議な魔法や霊術まで使いこなすという。まさに神に近い鳥なのだ。
もう『ティアランピア』が肉眼でかろうじて見える高さまで上昇した。それにしても凄い高度だ。俺の〈場外ホームラン〉でもここまでの高さには上がれない。
懐かしいな、ラズリーに乗ってこの世界中を飛び回った。あの時俺はまだ少年だった、サリアと一緒に乗って世界一周をたった一日で果たしてこれ以上の思い出は作れないと感じた。
おっと、感傷にふけっている場合じゃないな。一刻も早く天空竜の跡地を探さないと。
「ぴきぃいいい!!」
ラズリーが急に方向転換した。そうか、サリアと心が繋がっているからサリアの場所に向かっているはずだ。となれば、このままラズリーに任せればじきに天空竜の跡地にたどり着けるはず。
と、思ったけどそうは問屋がおろさないみたいだ。少し雲行きが怪しい、どでかい入道雲が見えてきた。
入道雲は地球でも見られるが、あれがあるということは嵐の前触れなんだ。つまりこのまま入道雲に突っ込むと嵐に巻き込まれる。
「ラズリー、あれは入道雲だ。突っ込むと危険だ、迂回してくれるか?」
「……ぴきぃい」
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