第44話 清流剣の使い手
兵士が難色を示した。奴らも理解しているのは確かだ、となればもう方法は一つだろ。
「俺も天空竜の跡地には行ったことないが、そこまで高い場所に浮かんでいる島へ鳥に乗らずどうやって行くというんだ?」
「それは……これから考える」
「これから考える!? なに悠長なこと言ってやがる、これだからデスクワークの人間は。実の妹がさらわれたんだぞ!」
「……言われなくても、わかっている!!」
「だったら、俺を今すぐラズリーに会わせろ」
「何度も言わせるな、あの鳥はサリア以外にはなつかない。第一、天空竜の跡地が奴らのアジトというのは推測だろ。確証なんかどこにある?」
「確証などはないが、奴らの目撃情報がない以上、手掛かりはそれだけなんだ」
「そんな憶測を頼りに、危険で行きづらい場所をあてもなく探すというのか!? それこそ無茶があるというものだ」
「……なにを……」
くそ、このままじゃ議論は平行線か。怒りで頭がどうにかしそうだが、こらえるんだ。
「ゴーイチ殿……どうしますか?」
「仕方ない、強行突破だ」
「きょ、強行突破!? 冷静になってください、相手は公爵家のエルフですぞ」
「わかってるさ、でもこのままじゃ説得しても無意味だ。時間は限られてるしな……」
「ですが……仮にうまく邸宅に入れたとしても、ラズリーがあなたになつくかどうか……」
バッカスまで同じことを言うのか。俺は百年前に乗せてもらったんだが、その時は少年だった。俺は大人になった、確かにその俺を見て、果たして気づくかどうか。
不安はあるが、ほかに方法もないんだ。恨むなよ、ジュスラン。
「これ以上議論しても無駄だ。お前たち、この者たちを町の外へ……」
「……ぐっ!」
「な!? お前……」
兵士達は俺のスキル〈神経突き〉であっけなく気絶した。残りはジュスランだけだ。
「ゴーイチ……こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!?」
「わかってるさ。俺だってこんなことしたくない。でも理解してくれないオタクらが悪いんだ」
「……そうか……貴様は完全に一線を越えた! 忘れるな!」
ジュスランはどこからともなく小剣を取り出し、右手に携えた。仮にも剣士だったな。
公爵家ハヴィエール一家の長男、大魔道士サリアの兄だ。その実力はかなり高いらしい。噂では、Sランク冒険者と引けを取らないとも言われている。
いや、正確には俺はジュスランと二十年前にも一度戦った。
ジュスランからしたら百年も前になるが、多分覚えているはずだ。もちろん真剣も使わない模擬戦だったが、俺はジュスランに歯が立たずあっけなく負けた。
俺が少年だったということもあったが、ジュスランは赤子の手をひねるように俺をあっけなく地面に倒したんだ。適性試験で戦ったテリーとは雲泥の差だ。
でもあの時の俺とは違う。地球に帰還後、俺はシーズンオフに秘密の修行を重ねてきた。ひとえにサリアの兄ジュスランを打倒するために。今こそ、最強のメジャーリーガーの真価を見せてやる。
「そっちがその気なら、本気で行かせてやるよ」
「小癪な。たかが人間ごときが、私に勝てると思うな」
「たかが人間だと。こちとら最強のメジャーリーガーにまでのぼりつめた男だ。その言葉、そっくりお返しする!」
「メジャーリーガー? ふざけた職業名だな、人間の世界で流行ってるのか?」
「あぁ、少なくとも俺が元いた世界でな」
ジュスランは意外と好戦的な性格かもしれない。俺はすかさず〈俊足〉で背後にまわりこんだ。
「……くっ!」
「甘いな。そんな小細工など通用しない!」
兵士のようにはいかず、俺の〈神経突き〉も呆気なくかわされた。
背後を敢えてがら空きに見せかけているのは、フェイクか。俺の〈俊足〉も捉える動体視力とは。やはり一筋縄じゃいかないな。
こんな強者と戦えるだなんて、少しワクワクしてきたが、今そんな気分に浸っている場合じゃない。
「期待外れだな。メジャーリーガーとやらは、出来損ないの忍びのような戦いしかできないのか?」
「……いや、少しお前を見くびっていたよ」
「見くびっていただと? ならば、もうそんななめたような口を利かせぬようにしてやる」
「……うっ?」
ジュスランが目にもとまらぬ速さで俺の懐まで飛び込んできた。なんて速さだ。
なんとか避けたが、再び次の一手をかましてきた。無駄のない華麗なさばきであるが、それでいてやや不規則で読みづらい動き。
俺はサリアの言葉を思い出した。
「兄さんはね、〈清流剣〉の使い手なのよ」
「〈清流剣〉?」
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